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新任副校長の日常(1)

 今から10年以上前、私が某公立小学校に新任の副校長として勤めていたときの話です(注:私が勤務する自治体では、「教頭」のことを「副校長」と呼んでいます。学校教育法上の「副校長」とは異なります)。
 近年は、教頭や副校長の昇任候補者になると、原則として翌年度は現任校に残って研修やOJTを行い、その次の年度に昇任をするという自治体もあるようです。
 昇任するまでの期間は、自分の学校で副校長の仕事を手伝ったり、教育委員会主催の研修を受けたりしながら準備をするというわけですね。
 しかし、私のころにはそうした仕組みがなく、ほぼ「丸腰」の状態で副校長になっていました…。

4月1日

 新任副校長にとって、新年度がスタートする4月1日の一日は長いです。
 地域や学校によって異なるようですが、私の自治体では4月1日が職員全員の出勤日になっていて、校長の挨拶や着任した教職員の自己紹介の後、入学式や新年度の準備をすることが普通でした。
 一般の教職員が異動や新採用で着任してきた場合、職員室で自己紹介をした後、席へ案内されて居心地悪そうに座っていると、周囲が何かと気を遣ってくれたりするものです。当然でしょう。新しい学校に来たばかりで何もわからないのですから。
 ところが、副校長の場合にはそうはいかない。着任をした瞬間から「副校長」ですので。

「玄関に自治会の○○さんがいらしてます」
「入学式の生花の件で、花屋さんから電話が…」
「理科室の換気扇の調子が悪くて…」

 次から次へと仕事が降ってくる。
 換気扇云々の前に、こっちは理科室の場所もわからないんだってば。

一口で食べてはならない

 小学校の場合だと、日中は「職員室にいるのは副校長だけ」ということがよくあります。当然、電話の応対もすべて副校長の役割。
 不思議なもので、貰い物のお菓子などを口に入れているときにかぎって電話のベルが鳴るんですね。それも、大福餅などを口いっぱいに頬張っているときにかぎって…。
 そんなときに電話に出ると、
「はい、もひもひ(もしもし)」
 という不明瞭な発音になってしまいます。
「食べ物を一口で食べてはならない」
 副校長になって最初に覚えたのは、このことだったように思います。

笑いの感覚

 小学校の場合、子どもが学校にいる時間帯に職員室に残るのは、空き時間の教員を除くと事務職員などの「級外」と呼ばれる職員です。この方たちと良好な人間関係を築くことは、副校長にとって大変重要だと思います。
 幸いにも、私が着任した学校の「級外」はいい方たちばかりでしたが、一つだけ不満を言えば、「笑いの感覚」が私とはやや異なっていました。周りが楽しそうに笑っているのに、どうもこちらは笑えない。逆に、私がおもしろいと思ったことが相手には伝わらない…。
 そんな状態が最後まで続いていたように思います。

「電気設備の点検をするために、業者の方が校内を回ります」    
 ある日、職員室に戻ると事務職員がそう伝えてくれました。
(そうか、電気のことで校内を歩き回るのか…)
 反射的に私は、
「それって、英語で言うと『エレクトリカル・パレード』ですかね」
と呟いていました。
 自分としては、そこそこの笑いがとれるという自信があったのですが、職員室内ではまったく反響を呼びませんでした。
 今、思い返しても残念です。


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