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成人式

 今日は「成人の日」である。例年、この日にテレビで流れる成人式のニュースは、

・千葉県浦安市では、東京ディズニーランド(もしくは、ディズニーシー)で成人式が行われ、ミッキーたちが新成人を祝福している。
・一方、横浜市内にある横浜アリーナでは、全国最多の新成人が参加する式典が3交代制で行われ・・・

 という内容になることが多い。
 そして、横浜市の映像では毎年のように、「金髪・リーゼント・派手な羽織袴」の新成人が来賓の挨拶中に壇上へ上ろうとし、警備員に取り押さえられる場面がある。

 テレビ局の撮影クルーの方たちは、こういう「目立つ系」の若者が暴れはじめると、内心では、
「待ってました!」
「今年もいい『絵』を撮らせてくれてありがとう!」
 と思っていることだろう。

 ・・・私は横浜市の教育委員会に勤めていたころ、何度か成人式の警備係を担当したことがある。ある年の仕事は、新横浜駅から会場の横浜アリーナへ向かう新成人たちを誘導することだったし、別の年には会場入口での「検問」を行ったりもした。

 そうしたなかで、喧嘩の仲裁もしたし、会場内に一升瓶を持ち込もうとする新成人と押し問答になったこともある。

 しかし、横浜市民の名誉のために言っておくと、こういうヤンチャな新成人はほんの一部で、大多数は真面目で礼儀正しい若者たちであった。 


 昨年、日本テレビ系で『ブラッシュアップライフ』というドラマが放送された。ドラマの中では、平凡な女性主人公が幼馴染を事故から救うために、それまでの記憶をもったまま赤ちゃんのときに戻り、人生を一からやり直すのである。それも、一度や二度のやり直しではうまくいかず、結局は5周目の人生に突入する、という内容だ。

 主人公の5回の人生のなかでは、かならず成人式の場面が描かれる。そして毎回、「金髪・リーゼント・派手な羽織袴」の若者が来賓の挨拶中に壇上へ上ろうとし、取り押さえられるのだ。

 その様子を座席から見ながら、主人公とその友人たちはこんな会話をする。

「ああいう人たちって本当にいるんだ」
「ニュースでしか見たことなかったよ」
「ちなみにさあ、あの人って今までニュースとか見てたのかな?」
「そりゃ見てたでしょ。だから、やってるんじゃない?」
「知らなかったら、やろうとは思わないよね」
「えっ⁈ じゃあ、ニュースを見て、成人したら俺もやりたいって思ったってこと?」
「思ったんじゃん」
「憧れの『成人式暴れ』を今やってんだよ」
「エ~!」
「だってさあ、あの人ってこれのために朝、早起きして、着付けして、セットして来てるからね」
「そうだよ。ちゃんと目覚ましかけてんだよ」
「寝坊したら終わりだもんね」
「・・・ねえ、これってどうなったら成功なの?」
「わかんない」
「あの人は成功なの?」
「たぶんだけど、失敗じゃない?」
「だよね」

 と、散々な言われようだ。そして、主人公には、
「来世は微生物かな・・・」
 と、憐みを込めて予言されてしまうのである。


 しかし、横浜の成人式で暴れた若者たちが、その後にどうなるのかというと、成人式の日をピークとして、それ以降は意外と「まっとうな」生き方をしている者も多い(といっても、n=3ぐらいのサンプルしかないのだが)。

 おそらく、彼らにとって「成人式で目立つ」ということは、「甲子園の土を踏む」や「箱根路を走る」と同じような価値をもつのだろう。

 その達成感を心の支えにしながら、真面目に汗を流して仕事に取り組み、結婚して家族をつくり、「地に足をつけた」生き方をしているのだ。

 そして、週末には親子で「焼肉食べ放題」に行って楽しく過ごす。多くの場合、そのときの服装は親子揃って「黒地にゴールドの線が3本入ったアディダスのジャージ」である。

 ・・・だが、中には「半グレ」集団に入って犯罪に手を染めてしまう者などもいる。どこかで気づいて引き返し、現世のうちにやり直してほしいと願う。

 けれども、現世でやり直すことがどうしても無理ならば、「来世は微生物」になるのも致し方ない。

 できれば、ミジンコやミドリムシなどの「目立つ系」ではなく、土中のバクテリアになって、今度こそ「地に足のついた」生き方をしてほしい。バクテリアに足はないかもしれないが。

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