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【読書ノート】三好真史「授業づくりの言いかえ図鑑」(東洋館出版社)

 著者である三好真史氏は、現役の小学校教師である。
 本書には、三好氏の実践に基づき、「発問」「発表」「支援」「態度」「向上」「探究」の6つの観点ごとに、授業づくりに使える60のフレーズが紹介されている。
 一つ一つのフレーズは、見開き2ページに収められており、右側のページには悪い例とよい例がイラスト付きで紹介され、左側のページにはその解説が載っているので読みやすい。

 たとえば、国語の『ごんぎつね』の学習で、子どもが、
「ごんは、やさしいきつねです」
 という発言をした場合には、それを「そうだね」と受け止めるだけでなく、
「教科書のどこからそう感じたの?」
 と切り返すことによって、読みを深めることができるのだと紹介している。

 また、発表をした子どもに対して、
「上手な発表ができていますね!」
 と褒めるだけではなく、ときには周囲の子どもに向って、
「上手な聞き方ができていますね!」
 と伝えることで、積極的ではない子どものことも評価したり、聞き手を育てたりすることができると説いている。

「その程度のこと、教師にとっては常識でしょう」
 という感想をもつ方もいるかもしれない。しかし、それは本当に「常識」だろうか?
 私はこれまでに多くの学校で授業を参観してきたが、本書に載っているようなフレーズを使いこなしている教師は、平均すると1校に2~3人程度ではないかと思うのだ。それも、かなり甘く見ての人数である。

 もしも、本書に紹介されている60のフレーズを全ての教師が使いこなせるようになったら、日本中の学校で学級崩壊が激減するのではないかと思う。


 ・・・本書を読み進めながら、私はある「既視感」にとらわれていたが、途中でその感覚が何に由来するのかに気づいた。
 私が駆け出しの教師のころに読んでいた、向山洋一氏をはじめとする「教育技術の法則化運動(現在のTOSS)」の著作物の内容とよく似ているのだ。
 発問や指示などの言葉を明確にして、子どもたちの集中力を高めたり、話し合いを活性化させたりすることは、当時の「教育技術の法則化運動」が大切にしていたことの一つだった。

 向山氏らの主張は、一部の教育関係者から「技術至上主義」「教育理念がない」などという批判を受けたりもしたが、授業づくりや学級経営などに悩む全国の教師たちからは大きな支持を得ていた。
 当時、20代だった私自身も、向山氏らの著作物から多くのことを学ばせてもらったと思っている。少なくとも、大学の教職課程や教育委員会主催の研修では学べなかったことが、その中にはあったのだ。


 ・・・ちなみに、市内最大の書店の「教育書コーナー」で、本書は平積みになっていた。ということは、かなりのニーズがあるのだろう。

 それは同時に、あれから40年近く経った今でも、大学の教職課程や教育委員会主催の研修では、こうした内容を学ぶことができないということを意味しているのかもしれない。

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