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「今、話しかけるな」オーラ

 先日、この4月に小学校の教員になったばかりの女性から相談を受けた。
 3年生の担任になったという彼女は、
「わからないことが多すぎて困ってるんです」
 と言う。
 詳しく話を聞くと、授業の準備や進め方については、小さな失敗をしながらも何とか乗り切っているらしい。また、新年度早々に子ども同士のトラブルがあったが、無事に解決をすることができたそうだ。

 上々のスタートを切ったようにも見える。しかし、彼女が悩んでいるのは、大学の教職課程では教えてくれなかったような、もっと細々としたことらしい。
 細々としたこと。たしかに、学校には子どもたち向けの様々な約束事があり、その学校独自のローカル・ルールも存在する。また、子ども向けのものとは別に、その学校の教職員やPTA、地域住民などが培ってきた「職員室文化」「学校文化」もある。それらの多くは明文化されていないだけに、初任者は戸惑ってしまうのだろう。
 ちなみに、彼女の目下の悩みは、
「PTAの広報誌に載せる原稿を頼まれたんですが、どんなことを書けばいいんでしょうか」
 ということなのだそうだ。

「同じ学年の先生とか、歳の近い先生に聞いてみたら」
 と言うと、彼女は首を横に振った。
「どの先生も忙しそうで、聞きづらいんです」
 そして、こう付け加えた。
「なんだか、みんなの体から『今、話しかけないで』というオーラが出てるみたいなんです」

「今、話しかけるな」オーラ

 仮にこれを「今、話しかけるな」オーラと呼ぶことにする。
 彼女によると、このオーラが出ている人に話しかけるのには、相当な勇気がいるらしい。もちろん、質問をすれば親切に答えてくれることが多いのだが、話しかけること自体が彼女にとっての大きなストレスになっているということだった。

 今、学校では教職員の長時間労働が深刻な問題になっている。それに加えて、年度初めの4月には書類作成などの事務作業が集中しているため、1年間で最も忙しい時期だと言ってもよいだろう。
 だが、彼女が質問したいことの多くは、おそらく30秒以内で答えられる内容だと思う。新採用の同僚が近くに寄って来たときぐらい、そのオーラを消していただけないものだろうか。
 そして、相手の目を見て話を聞いてあげてほしいのである。

(蛇足かもしれないが、もしも新採用の教員が休んだり辞めてしまったりしたら、そのしわ寄せで、もっと強いオーラを出さざるを得なくなるだろうと思うのだ。)

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