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45歳・教員の「越境学習」 ~日本財団での1年間~(30)

「よそもん」の視点④

 2日目の午後は本部がある「やまなみセンター」に全員が集合し、まずは採集してきた水辺の生き物を集めて臨時の「里山水族館」をつくった。幅が2m以上ある大きな水槽に、魚や水棲の昆虫、ヌマエビ、サワガニなどの生き物を放ち、水草や石を入れるとなかなかの壮観である。
 その後は、翌日の午前中に行う発表会に向けて、グループごとにフィールドワークのまとめを行った。

 ・・・日が暮れた後は、参加者と地元の方々が入り混じっての懇親会である。魚や旬の野菜を中心にした郷土料理と地酒をいただきながら、多くの人と話をすることができた。
 東北地方の自治体で「村おこし」に取り組んでいる職員の方は、
「うちの村でも『郷土学』のような取り組みを進めていきたいんですが、行政主導でやってもうまくいきません。地元と行政のパイプ役になってくれる人を探していますが、なかなか見つからないです。適任の『よそもん』がいる戸沢村のことが、正直言ってうらやましいです」
 と、ため息をついていた。
 また、懇親会の手伝いに来ていた地元の女子高生は、
「こういうイベントを通じて、改めてこの村にもよさがあることは感じました。でも、やっぱり高校を卒業したら東京に行こうと思っています」
 と、本音を語ってくれた。

 その地域の将来について決めるのは、その土地に住む人々自身である。「よそもん」ができるのは、それを考えるきっかけをつくることくらいだろう。だが、以前にはそういう機会さえなかったことを思えば、けっして意味のないことではないだろうと思いたい。

 ・・・翌3日目は、各グループが前日のフィールドワークでの様子や感想について報告し、意見交換をした後、「よそもん」の代表であるDさんによる「戸沢村のこれから」に関する講演を聞き、昼過ぎに閉会となった。
 私を含めた29名の参加者は、
「この3日間に学んだことを、各自の持ち場で生かしていきましょう」
 と約束して、それぞれの地元へと帰っていった。

 ・・・それから数年後、戸沢村の角川地区は「NPO法人 田舎体験塾つのかわの里」を立ち上げ、学生や家族連れ向けの農業体験や民泊体験のプログラムを提供するようになっている。
 ちなみに、我が家の娘も中学2年生のときに学校の民泊・農業体験として、3泊4日で角川地区のお世話になった。人の縁というのは不思議なものである。


 私にとってこの「郷土学」での体験は、それまで無縁だった「村おこし」や「地域の活性化」というものについて知る機会になっただけでなく、「よそもん」ということについて考えるきっかけにもなった。

 1つ目は、学校教育の中で「よそもん」の視点をどのように活かすか、ということである。
 私が日本財団で研修をしていた2006年という時期は、ちょうど学校教育に「学校評価」や「学校運営協議会」などの制度が導入されはじめたころである。これらはまさに、「よそもん」の視点を学校教育に活かそうとする制度だと言えよう。
 しかし、当時の学校現場には、学校運営に「よそもん」が関わることに懐疑的だったり批判的だったりする空気が支配的だったように思う。だが、戸沢村が「よそもん」の視点によって変化をしたのと同じように、「学校評価」や「学校運営協議会」が硬直化した学校教育に新しい風を送り込んでくれるかもしれない、と前向きに考えることができるようになったと思う。

 2つ目は、日本財団における自分自身の立ち位置についてである。
 学校という異なる世界から、それも1年間という短い期間で日本財団に来ている私は、文字通りの「よそもん」である。4月からの4か月間、温かく迎えてもらってはいたものの、一方では居候のような居心地の悪さも感じていた。
 しかし、このところ職員の方たちから、
「こういうとき、学校ではどういうふうに判断するんですか?」
「学校の先生から見て、この事業って必要ですか?」
 と聞かれることが増えてきていたことを思い出した。
(この1年間、プロパーの職員と同じように仕事をすることは難しいだろう。でも、他の職員にはない「学校の先生」という「よそもん」の視点で、日本財団の事業に貢献することができるかもしれない)
 ・・・1年間の研修の前半でそれに気づけたことは、私にとって幸運だったと思う。

※【「よそもん」の視点】については今回で終わりです。

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