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「教職調整額」を増額しても「教員の働き方」は改善されない(前編)

 4月12日付の日本経済新聞に次のような見出しの記事が載った。

 教員「残業代」2.5倍以上に

 50年ぶり増額へ、中教審案

 公立学校教員の残業代の代わりに基本給の4%を上乗せする「教職調整額」について、中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)が現状の2.5倍以上となる基本給10%以上とする案を出す方向であることが12日、分かった。

 増額すれば約50年ぶりとなる。教員は長時間労働が敬遠され、民間企業に学生が流れる傾向が続き、担い手不足が深刻だ。(一部抜粋)

 極めてツッコミどころの多い見出しである。

 まず、公立学校の教員に「残業代」は出ない。一応、記事の本文に、
「公立学校教員の残業代の代わりに基本給の4%を上乗せする『教職調整額』について」
 と書いてはあるが、読者のなかには見出しだけを読んで、
「残業代の基準額が2.5倍以上になるのか⁈ それはスゴイ!」
 と誤解をした人も少なくないだろう。

 あくまでも、基本給の4%相当だった「教職調整額」が約6%引き上げられるかもしれないという話なのだ。くり返しになるが、どれだけ時間外労働をしても公立学校の教員に「残業代」は出ない。基本的に、支給されるのはこの「教職調整額」だけなのである。

 また、見出しでは「50年ぶり」という言葉が目立っていて、画期的なことであるかのような印象を与えている。しかしこれも、裏を返せば「50年間も放置されていた」ということなのだ。

 そもそも、この「教職調整額」の4%という数字は、昭和41年(1966年)の調査結果に基づいて算出されたものだ。当時、「1週間」の超過勤務時間の平均は、小学校教員で1時間20分、中学校教員で2時間30分、全体で1時間48分だった。

 しかし、平成29年(2017年)に立教大学・中原淳研究室と横浜市教育委員会が共同で行った調査の結果では次のようになっている。

 横浜市の教員の場合、1日の労働時間は7時間45分と設定されている。しかし実際には、平均労働時間は11時間42分となっており、毎日約4時間の超過勤務を行っていることになる。

 50年前の1週間分の2倍以上に相当する超過勤務を1日で行っているという計算になるのだ。


 こうした
「残業代」2.5倍以上
 50年ぶり
 という報道によって懸念されるのは、まるで「教員の働き方改革」の問題に決着がついたかのような印象を与えてしまうことである。

 いや、そればかりではない。
「『残業代』が2.5倍以上になるのだから、これまで以上に働け!」
 という空気さえ生まれかねないのだ。
(つづく)

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