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『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』:表裏

スポーツ関係の映画・ドキュメンタリーを紹介するnote。今回は、先日鑑賞した映画『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』を紹介したいと思う。


 昨年12月に亡くなったディエゴ・マラドーナ。彼の活躍はサッカー史に燦然と輝く伝説として、時代を超えて、現在も世界中のサッカーファンが語り継がれている。
 しかし、2019年に製作された本作『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』は、膨大な映像資料とインタビューを通じて、プロサッカー選手「マラドーナ」と、素顔の「ディエゴ」の2つの顔に迫り、誰もが知る伝説の新たな側面を垣間見る内容となっている。

〇 スター選手が抱える「栄光」と「重圧」

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 本作のポイントは、マラドーナの栄光と凋落の背景に、セリエA・ナポリでのキャリアを中心に描いている点だと思う。強豪クラブとは言えなかったナポリでの奮闘が、彼に多くの栄光を引き寄せることとなるが、奇しくもナポリで迎えたキャリアの絶頂が彼の人生の歯車を狂わせることになる。
 引退後の行動・言動を見ると、どうしてもキャリアの失墜は本人のパーソナリティによるところが大きいと考えてしまうが、本作の鑑賞を終えて、彼に対する印象が少し変わった。当時の記録映像を通じて、スター選手として崇め奉られるマラドーナがピッチ内外の重圧と向き合う日々を伝えている。 
 周囲の人たちが常に「マラドーナ」であることを求め続けられた結果、家族思いの優しい「ディエゴ」の顔に戻ることができなくなってしまった。本作は、こうしたマラドーナの苦悩を伝えることで、彼のキャリアにおける光と闇が表裏一体の関係であることを広く伝えてくれる。

 以前、スティーブン・ジェラードのドキュメンタリーを鑑賞した時に、彼が愛するリバプールを離れてアメリカに移籍した背景を知ることができた。マラドーナが移籍を望んでいたのも重圧から解き放たれ、サッカーを楽しみたいという気持ちからだろう。そうした意味では、サッカービジネスの犠牲者だったのかもしれない。

 本作の監督を務めたアシフ・カバディアは、前作『AMY』でアカデミー長編ドキュメンタリー賞を獲得している。
 同作品は、27歳で亡くなった若き天才女性歌手・エイミー・ワインハウスの生涯を追ったドキュメンタリーであるが、映像素材の編集と徹底的な掘り下げを通じて彼女の素顔の側面に迫ったアプローチはもちろん、周囲からの重圧に苦しむスターの苦悩という部分も本作『ディエゴ・マラドーナ』に共通する。いずれの作品も、監督の思い描いたストーリーありきではなく、丁寧な掘り下げの中で見えてきた部分であると思われる。だからこそ、本作は彼にしか撮れなかったマラドーナの映画だと思う。



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