話したいと思った感情をそのまま言葉にすると、「素敵な言葉遣いだね。」と、褒められることが多々ある。 その中でも異性の方からは「素敵な言葉遣いだね。世の女性も見習って欲しい。」などと伝えられる時がある。 嬉しく無い。それは褒めると言うより、貶している。わたし個人に対して、褒めようと思って出た相手のその言葉に、心底嫌気がさす。 なぜ、「女性」限定なのか。 美しい言葉をつかう人間は、女性でなければならないのか。わたしがもし、女性ではなく、男性だったら、こんなことは言われなか
透き通る秋の風が通り過ぎて、夏、さようならと、言いかけた。 秋は好き。 穏やかな緑が炎を灯して、やがて冬が来る。 心地の良い空が私のずっと上のほうで微笑んでいる。 美しいと思える心があるのは、人間の数少ない特権だと思う。 和らぎがぼくらをゆっくり包むから、なんだか、やさしくなれたね。 夜が長くなる季節。 黒が染みる声に、やっと返事ができたよ。 ねむたいね、ずっと。 身体が全部やわらかくなって、立っていられなくなる。 このまま、きみと、ゆるやかでいたい。 おやすみな
記憶に何度も殴られているうちに不幸だと思い込んでしまう。いっそのこと全部真っ白にしてしまおうか。
画質の悪いきみの携帯電話。 写真を撮るのが下手だからと、たまにしか写真を撮ってくれないし、照れ隠しみたいにその手を止めるから、嬉しさと寂しさが入り混じる。 ヒビ割れたって構わなかった。 今が1番幸せだよねって朝日が登りきった後におやすみのキスをする。 眠りに落ちる最後の瞬きまで、きみの鼓動と体温を感じていたい。 朝方の心地よい風と、じんわりと滲む夏の後ろ姿。 瞳の奥に私だけを捉えて離さないきみを、銀河で1番愛してる。 木漏れ日だけを拾い集めて、これが優しさだと叫んだ夏
なんでかずっと悲しくて、楽しさの中にも悲しみがあって、心は灰色。夏ってもっとキラキラしてたはずなのに。
溶けちゃいそうな晴天の日、君の後ろ姿。 この街の全部の坂を登って、心臓が爆発しそうなくらい大きな音を立てながら、夏に抗っていたのを覚えている。 『こっちだよ!』 君が大きな手をブンブン振りながら転けちゃいそうだったから、暴れる鼓動を笑い声で誤魔化して走った。 昨日までは雨の予報だったのに雲ひとつない青が不思議で、『空に1番近いところまで登ろう』って君が言ったから、枯れそうなくらい汗をかいても楽しかった。 立入禁止の看板を横目に、鮮やかな緑がゆらめく森へと足を踏み入れた
緩やかに堕ちる昼間の陽射しが頬を撫でると、分厚い窓ガラスの奥で、微かな夏の香りが手招いていた。 「お腹が減ったな」 私は空腹に脳を支配されると途端に全身で世界への憎しみを放ちだす人間だ。 街がひとつ潰れてしまう前に自分の機嫌を取るべく、冷凍庫に隠しておいたとびきり美味しいアイスを手に取る。 べったりと張り付く汗に嫌悪感を抱きつつ、カラッと晴れた夏が来るまでの辛抱だ、と言い聞かせた。 夏の海は好き。 海はいつも好きだけど、夏の海は浮き輪でひとり波に揺られながら自分のすべ
終わりのない絶望を、どう諦めようかと考えているうちに、また春がきた。 わたしは春が嫌いだった。 みんな、いなくなる。 傷だけが遺って、わたしはこの生暖かい地獄から動けなくなってしまう。 血液までもが白く染まりそうな眩しさの中で、 わたしの名前の花が咲き誇る。 春風に揺られて、わたしに微笑みかける花たちは、 境界線を引いたかのように幸せそうだった。 旅に出たい。 どこでもいい、ここではないどこかへと。 いつも呆然と、夢見ていた。 悲しみに暮れているわけじゃない。 幸
煌びやかな夜の街、騒がしさの中で孤独をより一層近く感じた。 水面に揺れた光が反射して、わたしの夜は鮮やかに色づく。 なによりも朝に会いたくて、わたしは夜をさんぽする。橋を渡って、道を歩いて、川を越えて、寄り道しながら、夜をまわる。 朝がさっきまでわたしを抱きしめてくれていたのに、夜を愛してやまない。 夜はひとり。 ひとりぼっちはつらいから、寂しさを抱えきれずにしゃがみ込む。 そうやって気づいたら夜に溶けていた。 しょうがないね、 諦めたように泣いている鏡は、バッグの奥
この街は目に映る総てが優しくて、美しい。 涙が溢れそうな空の隙間から 眩しい光が落ちてきて天使の幻がみえた気がした。 冬の潮風は頬を突き抜けて 肺が凍てつくまで大きく息を吸った。 時の流れがあまりにも穏やかで 今まで捨てようとしてきたものをひとつずつ拾い集める そんな瞬間を繰り返して、生きる。 そういえばこんな事もあったなぁ、と 記憶の破片を美しく彩る空を愛したい。
私は、私を救うためだけに言葉を綴っているだけだから。
人間なんて、分かり合おうとするから余計に拗れてしまうのに。 頑張って分かろうとして、馬鹿みたい。 自分の気持ちを叫ぶ事が我儘になるのなら、誰も何も言えなくなってしまうではないか。 それでも分かり合いたいと強く願う。 強欲な心は、完璧な愛を探したがる。
愛した記憶より、愛された記憶の方が深く根を張って痛い。
私は今日も呪文を唱える。 忘却、静かな哀愁が漂う記憶の本をひらいて、そっと呟いた。 『愛してる』 呪いに似たその言葉、幾度となく発したその言葉を、きみに。 愛は綺麗なままではいられない。 その汚さも、また、美しい。
空に昇っていく、ちいさないのち。 『さようなら、ゆっくりねむってね。』 僕たちはいつでも自分本位で他者を決めつける。 「かわいそう、さみしそう、うれしそう、たのしそう」 心は誰にも見えやしないのに、自分勝手に他者を判断して生きている。 当人からしたら、たまったもんじゃあないよ。 僕はきみの本名すら知らないし、誕生日もわからない。 それなのに僕が嬉しくて泣いている姿を見て「かわいそう」なんて言うんだもの。変なの。 僕は嬉しいんだよ。星が美しくて、またひとつ星が増
君が空のようにキラキラと微笑むから僕は海のようにやさしくなれる。君がいないと僕は蒼くなれやしないんだよ。