見出し画像

ダウンの吹き出しの対策方法いろいろ〜ダウンウェア周辺の話❶の続き〜


前回が長くなってしまったので続きです。
ダウンウェアの羽毛の吹き出し対策の具体例をあげていきます。

以下の吹き出し対策は

『ダウンの綿毛の羽枝が細かすぎてやむを得ずでてきてしまうのをなんとか緩和、改善できないか』

という目的で、生産工程のあらゆる場面で創意工夫されてきた実例です。

シンプルなものから手の込んだものまで様々あり、いまだ新しい技術開発もおこなわれてます。

=吹出し対策の実例=

【生地(製織)による工夫】

ダウンの吹き出し対策は、
細番手の糸でできるだけつめて織って、ダウンがでる隙間がないくらい高密度の生地にする
というシンプルで基本的な考え方からスタートしています。
現在ではダウンウェア用にかなり細番手の目の詰まった生地が製織可能になってます。

で、そういう目の詰まった生地をベースにさらに加工を施します。

【ダウンプルーフ加工:アイロン系・樹脂系の加工】


◉アイロンやローラーの熱と圧力で織り目の隙間を潰す(シレー加工、チンツ加工、カレンダー加工)

高密度の織物のさらにその隙間を熱と圧力で潰してしまおうという加工です。

(高密度タフタナイロンのシレーやチンツなどは往年のダウンでは定番的素材でした。織り目を潰すので表面が平らになり、光の反射率が上がって光沢がでます。ダウンの吹き出し防止とともに、防風、撥水、軽量効果もあり、ダウンウェア用の生地にむいてる加工です。
事実関係わかりませんが、この加工が原因で結果的にピカピカダウンが誕生することになったと思われます。)

画像1
(定番化したこういう系の生地です)



◉ウレタン樹脂などで生地の内側を樹脂で覆ってしまう。ウレタン樹脂コーティング

ウレタンバックコーティング

画像11
(ピレネックス ブロウ)

こちらの生地は3レイヤー。高密度ポリエステル地✖️ウレタン樹脂✖️トリコット地の3層生地。ダウンプルーフとともに防風、撥水、透湿、伸縮性、を目指した生地。

※ダウンプルーフの能力を上げすぎると通気性を損なうのでバランスの見極めが必要!(時間と共にウレタンの劣化も可能性あり)


で、せっかく生地にいろいろ工夫しても縫製の針と糸で大穴あけてたら意味ないので次に

【縫製方法、パッキングによる工夫】


◉縫い針と糸の太さや組合せで穴や隙間があかないようにする

・生地に対して可能な限りの細い針、細番手の糸でステッチをかける。
・細い針にわざと太めの糸を使って穴を塞ぐ。
・縫製後に太く変化する糸を使って穴を塞ぐ

画像14

画像の生地は定番高密度タフタのシレー加工ですが、この高密度生地にしてはわざと太い糸を使って穴を塞ぎ気味です。ギャザーも少しよせてます。


◉生地にキルトステッチかける際にギャザーが強めに入るようにして針穴が広がらないようにする


画像14

画像は穴が広がらないようにキュッとギャザーを寄せて縫製してます。

◉ダウンの充填工程を生地にステッチをかけた後にする

縫製前にダウンを充填すると、ミシンの針や糸でダウンを巻き込んで、ダウンが破損してしまいます。破損ダウンも吹き出しの要因になります。


◉ダウンパックを使用する

メインの生地の中に「薄い素材ですでにパッキングしてあるダウン」を入れて、(あるいはメインの生地と薄い生地を重ねて縫製して)二重で閉じ込める。
これも通気性とのバランスが必要。

(だいたいダウンパックはポリエステル素材。ダウンパックのおかげでいろんな素材にダウンを入れられるようになりました。表地ウール素材のダウンウェアは定番化し、一時期はニットやレザーにまでダウンが入ってました。)


下URLはダウンパック用の生地見本のようです。

https://yamatomi.biz/products/detail.php?product_id=8483


人気モデルを可能にしてるのもダウンパック。

画像12
(ピレネックス:アヌシー)


表生地にキルトステッチがないタイプは基本ダウンパックを使用してます。

画像13

内側もキルトステッチなし。表地✖️ダウンパック✖️裏地。
内部のダウンパック生地にキルトステッチあり。

◉そもそも針と糸での縫製をやめて熱圧着してしまう


画像9

何度も登場の水沢ダウン。熱圧着で縫製のステッチありません。

画像10



◉そもそも針と糸での縫製をやめて、生地を織る段階でダウンをパッキングできるように二重織でダウンを充填する部屋がある生地をつくってしまう


画像3
(デサント:インナーダウンベスト)

サインウィーブ製法“ノンキルトダブルフェイス構造“ 。縫製してるように見えますが、実はしてません。
ダウンを後から充填できる隙間のある生地を直接織ってるようです。

画像4
(ピレネックス:フロスト)


画像5

キルト縫製してません。入れるかわりに二重織でダウンを装填するための部屋を直接製織してつくってます。“チューブ“という素材のようですが詳細はわからないです。

◉さらに新技術も開発されてます、オンワードのアドバンスドダウンシステム、『Zテープ』


解説わかりやすくて読みやすいので是非みて見てください。

画像6
(ADSのチェスターコート)


中身の羽毛をなんとかする方法が

【ふき出しやすい羽毛を選別時にできるだけのぞく】


◉精度の高い選別機で時間をかけて丁寧に選別する

・ファイバー(ダウンやフェザーからちぎれた細かい羽枝)
・ネックフェザー(首元近くからとれる細かいフェザー)
・未成熟ダウン、フェザー(飼育期間が十分でなく成熟しなかった羽毛)

が多く混ざるといずれも吹き出しの原因になります。
また防寒能力を下げたり、匂いの原因にもなります。

【ダウンが吹き出さないよう別の素材と混ぜて加工してしまう】


◉ダウンとポリエステル繊維を何かしらの手段で混紡し上下を織布で接着しシート状にしたシンダウンなど、、

(詳しくはダウンウェア周辺の話❷へ)

こっちは公式サイトでなく、オールアバウトの解説にしてみました。    

             

画像8
(シンダウン:商標タグ)

 

画像8
(イエティ:シンダウンコート)

混ぜたり、加工したりの技術を使ったダウンが徐々にでてきてます。
が、まだ一般的に商品化されたものはあまりみかけません。


補足】プリマロフトにも“プリマロフトゴールド(シルバー)インサレーション“という商標のものが本物のダウンをブレンドした中綿が使用されてるのですが、詳しい理屈や形状がまだわからないです。

<まとめ>

・ダウンウェアにはダウンの吹き出し問題がついて回りますが、その対策にいろんな技術や工夫が施され、吹き出しが問題になる程のモノはほとんどなくなりました。

・吹き出し防止の技術、工夫は生産のあらゆる工程で様々なものがあり、今後も進化していきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?