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瀬戸内国際芸術祭2022記録集


本日5月31日に、瀬戸内国際芸術祭2022の記録集が発売されました。昨年の春夏秋に会期を分けて開催した、日本を代表する国際芸術祭のドキュメントです。北川フラムさん監修、裸足出版としては編集とアートディレクションを担当しています。

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瀬戸内国際芸術祭(以下、瀬戸芸)は、瀬戸内海の島々で3年に1度開催しているアートフェスティバルです。第5回を迎えた2022年には、香川県と岡山県にまたがる12の島と2つの港を舞台に、33の国と地域から188組のアーティストが参加し、延べ723,316人の来場者が訪れました。

私は瀬戸芸2022の準備段階から海外作家の制作をサポートするコーディネーターをしていたので、芸術祭がどのような人々に支えられいるのか体験しています。その立場で記録の編集を統括するにあたり、瀬戸芸をひとつのプロジェクトとして伝えたいと考え、3つの方針を立てました。

① 瀬戸芸の経緯を振りかえる。
1980年代の直島で始まった瀬戸内アートの動きを含め、2010年に開催された第1回展から12年目を迎えた今回の第5回展をひとつの節目として、瀬戸芸のあゆみをまとめました。執筆は、芸術祭のサポーターを支え、開催年以外も日々地域とアートをつなげる活動している瀬戸内こえびネットワーク事務局長の甘利彩子さん。1985年から瀬戸内とアートがどのように関係を育んできたのか、年表形式で俯瞰しています。

② すべての作品を記録する。

瀬戸芸2022に観ることのできた作品のうち、約半数は既存作品として前回展以前に制作されています。第2回展から第4回展の記録集では既存作品の紹介文は省略されていましたが、今回の記録集では短いながらも215作品すべてを紹介しました。それは、芸術祭を追体験できるような記録にするために必要だと感じたからです。


作品紹介で難しかったのは、作家の想いやひとつの体験に終始せず、作品がどのように存在したかを客観的に記録することです。その上で、藪を掻き分けるように未知へ向かって創作したアーティストが、どんな新しい風景を観たのか。それを社会に提示するために、意志や体験を含めることで、作品がたどり着いた場所に「旗」を立てることができないか?というミッションもありました。

③ 瀬戸芸の魅力と独自性を海外に伝える。

瀬戸芸を海外の芸術祭と比較した時、サイト・スペシフィック・アート(特定の場所で、その特性を活かして作品を制作すること)の文脈がキーワードだと思います。
古くはラスコーの壁画から宗教美術や祭祀の道具まで、アートは場と密接に関係していました。しかし、近代化に伴いそれ自体が「表現する物体」であるアートは美術館などのホワイトキューブ(白い部屋)に展示されることが主流になります。そして売買されることで、場との関係がさらに希薄になっていきました。
そんな中、アートの「場を開く力」に注目し、暮らしの隣に現れるアートの価値に焦点をあてたのが、瀬戸芸や大地の芸術祭のような日本の地域型芸術祭の特性だと感じています。寄稿者の椹木野衣さんが文中で「北川が瀬戸芸を推進する原点にこの大島と(お隣の豊島)に残された「負の遺産」を「開く」という思いがあったことを知ったのだった。」と語るように、瀬戸芸自体が場との関係性から始まりました。そして、アーティストが様々なアプローチで土地の力と向きあい続けている。この独自性を海外に表現する、という視点を大切にしています。


最後に、本を制作しながら、芸術祭は「共創の場」だということを改めて感じました。それはアナログとクラウドの同時進行で、これからの社会を開く創造力だと直感しています。そんな未来を想像しながら制作した本です。ぜひご一読して頂けると、次回の芸術祭をより深く楽しめるのではないでしょうか。

試行錯誤しながら、ここまで大規模で複雑な芸術祭の記録に挑んだことは、とても勉強になりました。真面目に取り組みましたので、批判でも雑感でもご感想などいただけますと、とても喜びます。どうぞ、よろしくお願いいたします。


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瀬戸内国際芸術祭2022

発売日|2023年5月31日(水)
※配送の関係上、書店によって店頭発売日が異なる場合があります。
※アマゾン等オンライン書店でも同日から販売
価格|3,000円(税込価格3,300円)
仕様|B5並製 304頁
主な内容|
(1) 33の国と地域から188組のアーティストが参加した213作品と19イベントを全て紹介
(2)瀬戸内国際芸術祭のあゆみと経緯(1985~2022)
(3)主なプロジェクトの記録/こえび3年日記
(4)データで振り返る瀬戸内国際芸術祭
(5)寄稿:椹木野衣 ほか
出版社|株式会社現代企画室
販売場所(令和5年5月30日時点)|
 ・全国書店
 ・各オンライン書店
 ・その他:瀬戸内こえびネットワーク

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