見出し画像

年間ベストアルバム(2024年)

2024年も12月になり1週間がすでに経過しました。今年もあっという間でいつにも増して時間の経過が早かったですね。いやはや師走です。というわけで年間ベストの季節がやってまいりました。

去年の2023年は年間ベストは発表できたものの文章を書くまでの気力がなかったので今年はどうにかして書いてみようと思って奮い立ってるところの今現在であります。

今年もたくさんのアルバムがリリースされました。音楽メディアやXの各アカウントが発表している年間ベストを見比べてみても絶妙にそして結構な違いがあってそれはリリースがたくさんあって音楽のジャンルやタイプそしてスタイルも様々だったという裏返しであるとわからせてくれます。

そんな中で私的には今年の年間ベストは聴いてよかった新譜100枚をピックアップしてさらにその中から30枚を選出してランキング方式で発表しようと思います。

まずは聴いてよかった100枚です。

こちらになります。このような感じで2024年の上半期と下半期の期間で聴いてよかった新譜のアルバムが50枚ずつで計100枚になっております。ちなみに今年は洋楽のみのラインナップになっています。邦楽を入れると頭の中でこんがらがってしまうためです。スッキリとまとめるためにも洋楽の年間ベストにしようと決めました。

そして上記の新譜100枚もそうですしそこからさらに30枚を絞る選定の基準はstats.fmのアプリデータが元になっています。Spotifyで聴いた個人データの統計を算出するこのアプリを元にこの1年の視聴時間が上位のアルバムの30選となっています。年間を通して利用させてもらったSpotifyでよく聴いたアルバムという訳です。ただSpotifyにないごく一部(Cindy Leeのみ)は印象に残ったアルバムも入っていたりもします。

まずはじめに今回の聴いてよかった新譜100枚の全体の傾向や趣向としてはIndieでAlternativeな感じのラインナップでこれは例年通りですね。

Bandcampを利用していて過去に購入したバンドやレーベルから新規リリースのメールが来るので新しく堀りに行ったりすることはまずなかったですし去年とは違いSpotifyのDiscover Weeklyやサジェストで知りアルバムを通して聴くこともあまりなかったような気がします。

stats.fmの個人データでよく聴いたアルバムが統計的にわかるのはとても便利だと思いました。このアルバムを今年はよく聴いたんだなという納得感と意外性が同時にあったりしてフムフムとなりました。

前置きはこんな感じで済ませて早速いきましょう。年間ベストアルバムトップ30の発表です。アルバムのジャケット画像の下に順位、アーティスト名、アルバムタイトル、リリース元のレーベルの順に表記しています。

30.22º Halo - Lily of the Valley(Tiny Library Records)

シューゲイズやオルタナティブのシーンが活況のUSはペンシルベニア州フィラデルフィア。トップ100でもA Country WesternやSPIRIT OF THE BEEHIVEなどいくつかこの土地のバンドが入っています。22º Haloもそんなフィラデルフィアが拠点のWill Kennedy氏を中心としたオルタナティブ・ポップバンド。この年間ベストの先頭でトップバッターになります。30位とは言っても1位と比較して優劣がある訳ではなくむしろほぼ今年のベストと言っても差し支えない印象です。このバンドは今年になって最もハマりました。2021年リリースのアルバムのGarden Bedをふとしたタイミングで聴いたときにフワッとしながらもどこか引っかかる感覚を受けて繰り返し聴いていた時期がありました。ハマってしばらく聴いていたら偶然にも新譜情報が重なり飛び上がりましたね。そしてこの11月にリリースされた新譜です。跳ねたシャッフルビートのリズムと絡むギターに乗るわびさび感のある切ないうたが聴いてて胸に迫ってきます。かと言ってサウンドや世界観が重い訳ではなく軽やかさが同居していて実に味わい深いセラピーのような作品となっています。

29.BODEGA - Our Brand Could Be Yr Life(Chrysalis Records)

USはニューヨークの5人組ポストパンクバンド。元気があって人懐っこくキャッチーな中にシニカルな要素もある作品。音楽的にはポストパンクとIndie Rock、Indie Popの合いの子みたいな感じですね。The Feeliesのような軽やかさ、The Strokesのような直球感、The Beetsのようなダルさ、Parquet Courtsのようなエネルギーがあります。曲間に入るAI音声のような説明は謎なのですけどそれも引っかかりにはなりますね。

28.Snowy Band - Age Difference(Blossom Rot Records)

オーストラリアはメルボルンのLiam Halliwell氏を中心としたIndie Pop,Indie Folkな4人組バンド。2010年代から気がついたらずっと追っているオーストラリアはメルボルンのIndieシーンはずっと活況なのは間違いないです。今年もこのシーンのバンドの作品をたくさん聴くことができました。このシーンの面白いところはメンバーが様々なバンドを掛け持ちしていたり参加してるところだったりします。Snowy BandのLiam氏は元々はThe Ocean Partyで活動をしていてバンド活動の傍らでスタジオを運営したりミックスやマスタリングの業務も請け負っているようです。クレジットをDiscogsで確認するのも楽しいですね。この作品は落ち着いた男女の歌声、フォーキーな音像、シャープなリズム、ピアノの温かな音色などにグッときました。

27.Daudi Matsiko - The King of Misery(Really Good)

ウガンダをルーツに持つUKはノッティンガム拠点のSSW。惨めの王様とアルバムタイトルに名打ったりやうつ病と双極性障害を公表しているのもあったりでその内実はこちらからでは推し量れないものがあります。ただこの作品の祈りにも似た切実さと今にも消え行ってしまいそうな儚さにすぐ虜になりました。アルバムの内容はギターと歌声と多少のアレンジで構成されていています。爪弾かれるギターの音色はメロディアスに歌声には寂しさと温もりがあります。このアルバムがリリースされて聴いていた今年1月は元旦に能登地震が発生して世相と相まって自分も暗い気持ちになっていました。そんな時期に自分の中にあった空白感ややるせなさをそっと確実に埋めてくれた音楽でした。

26.SPIRIT OF THE BEEHIVE - YOU'LL HAVE TO LOSE SOMETHING(Saddle Creek)

フィラデルフィアの3人組バンドSPIRIT OF THE BEEHIVE。こちらは前作アルバムやEPを挟み引き続きSaddle Creekからリリースの6thアルバム。ここ数作で見せているコラージュやエディット感覚とバンドの初期から通底しているざらついたギターの音像。コラージュされた曲には展開がある訳ではなく白昼夢そして悪夢をエディットしているかのように場面がコロコロと切り替わる。一体どうやって曲を作っているんだろうと首をかしげてしまう。その中でもギターのざらついた音色がフックやスカッとした聞きやすさにつながっていますね。この音楽的なわかりやすさ、わかりにくさの境界線に対して寄せては返すようなスリリングな展開で終始構成されてて聴いててたまらないです。

25.Horse Jumper of Love - Disaster Trick(Run For Cover Records)

USはマサチューセッツ州ボストンの3人組ロック・スロウコアバンド。Run For Cover Recordsからの5thアルバム。このバンドは初期の頃からずっと追ってるバンドですけど今作もガッチリと決めてきました。鬱屈としててダルさの中にスカッとするようなギターのかき鳴らしがあってそのギターの音色は決して大爆発はせず青い炎がメラメラと燃え続けるような持続性がある。その音色がゆったりとしたリズムに乗ることでこのバンド特有のギターロックが完成する。決して明るくはないしかと言って絶望の淵にいるという訳ではないけど低いところでぬるま湯に浸かり続けているような感覚で心地いいですね。

24.PACKS - Melt the Honey(Fire Talk)

カナダのMadeline Link氏を中心とした4人組バンド。ほぼ氏のローファイプロジェクトですね。どこまでも伸び切ったダルい緩みがあります。サブスクが登場し出した後の流れなのか何なのかはわかりませんけど通常1月は新譜のリリースのされ方が遅いんですよね。2週間はリリース数が少ない中で3週間目にして今年最初のめちゃくちゃいいと思ったアルバムでした。ローファイでダルく伸び切った演奏の中に微熱感や体温感覚があっていいメロディのうたが乗る。今年はリリース元のFire Talkも注目作を複数出してますしいい感じだと思いました。

23.Orchid Mantis - i only remember the good parts (Start-track)

USはジョージア州アトランタの宅録でIndie Popを制作されるThomas Howard氏のソロプロジェクト。過去にはスロバキアのZ Tapesから各種リリースをしていてそのレーベルのオーナーが現在やっているレーベルのStart-trackからのリリースですね。Indie PopとSlowcoreを橋渡しするような作風になっていてフォーク作みたいな温かみもあります。テープ処理したようなアナログ感のある音色がポイントなっていて寂しい曲たちの濃淡になっていて彩っています。Mei SemonesやJordanaなどをボーカルでフィーチャーしていてその曲も今後につながる可能性があってとてもよかったです。

22.Blue Bendy - So Medieval(The state51 Conspiracy)

UKはサウスイーストロンドンの6人組バンド。2010年代の終わりから2020年代をここまでを彩ってきたサウスロンドンのバンド、例えばBlack MidiやBlack Country,New Road、Squidなどの潮流から少し方角や軸が移動しているんだぞという意思の表れにも見えました。サウスイーストロンドンの出身というBandcampのプロフィールを受けて。ただ拠点の土地の話だけかもですが…深読み。ダイナミックなAlternativeサウンドにぶっきらぼうなボーカルが乗る。そこに鍵盤の音色がひとつポイントになっていてこのサウンドをカラフルに仕立てています。UKの名前の売れてる巨大なロックシーンには自分はあまり乗れないんですけどこのくらいのローカルな規模感のバンドはいくら聴いてもいいなと思いますね。

21.DIIV - Frog in Boiling Water(Fantasy Records)

DIIVはもう10年はゆうに経過してる活動歴のNYはブルックリンの4人組のIndie Pop,Indie Rockバンド。初期の尖ったIndieサウンドからキャリアをスタートさせて前作アルバムのDeceiverからはシューゲイズサウンドを解禁。そして今作はシューゲイズサウンドに唄心を注入させたような印象を受けました。シューゲイズでもノイズを聞かせるというよりは浮遊感を演出していますね。Horse Jumper of Loveのギターサウンドに通ずる部分もあります。そこに乗るZachary Cole Smith氏のボーカルはどこか達観していて優しい中にも厳かさがあってこちらが諭されているような気分になります。メジャーレーベルからのリリースってのもあるんでしょうけどとても聞きやすいですね。

20.Amy O - Mirror, Reflect(Winspear)

USはインディアナ州ブルーミントンのIndie Pop、SSW。昨今の異様に完成度の高いアルバムと比較してこのアルバムは素朴さや遊び心が詰まっていて手の届く範囲の音楽という印象を受けました。ローファイともとれるくらいのギターポップですね。そんな音楽のどこに魅力があるのかと言われると音楽好きが作ったアルバムだからということが即答できます。このことは私的にとても重要なファクターになっていてこのフレーズはあの音楽のあそこの部分っぽいなっていうのを聴いて思いを馳せられる音楽は素晴らしいと思っています。このAmy Oもそういう類の音楽好きな音楽家だとすぐわかりました。全体的な風通しもよく、聴いてて素直にいいなと思います。

19.Hovvdy - Hovvdy(Arts & Crafts)

USはテキサス州オースティンのデュオ。Hovvdyは初期のおぼろげなIndie Folkの頃からずっといいですね。近年はソングライティングにも脂が乗っていて作るメロディや曲が軒並みいいです。自信や貫禄もうかがえる19曲入りで50分超えのセルフタイトルのアルバム。作るメロディがいいのもさながらですがサウンドのアイデアがいいですね。デジタルビートやちょっとしたサウンドのアレンジによって今っぽい音像に仕上がっています。Double Double Whammy所属のイメージが強かったのですけどGrand Jury Musicを経由して今作はカナダのArts & Craftsからのリリースです。個人的にこのレーベルはBroken Social Sceneが所属のイメージが強くさらに祝祭感とイコールのイメージがあります。このHovvdyのアルバムも雄大で大きく包み込まれる感じがあったりBSSのような祝祭感も感じてグッときました。

18.DEHD - Poetry(Fat Possum Records)

USはイリノイ州シカゴの3人組Indie PopバンドDEHD。ギターとベースにスタンディングドラムのメンバー構成になっています。男女ボーカルになっていてそれぞれ歌ったりコーラスするという感じです。The Velvet Undergroundを源流とするUS Indieの流れを存分に汲んでいますね。シカゴと言えば現在進行形でフィラデルフィアと同じくらいIndieの大規模シーンが形成されています。私的によかった100枚の中にも数作が入っていて活況がわかります。DEHDは2010年代から活動していてそれぞれ30代のメンバーなのでちょうどHorsegirlやFrikoなどの若手のシーンのバンドのメンバーからすると先輩格のバンドですね。私的には2020年のFlower Of Devotionが年間ベストのトップ3には入るであろう名盤で感動しました。今作はちょっとマスに寄せたようなタイプのポップな曲が多い気がします。そんな中にもアイデアが溢れていますね。3曲目のMood Ringの歪み切ったベースラインのイントロから始まりおっと思わせておいて曲に入るやいきなりカラッとしたポップ曲になったり。いい作品でした。このバンドはマイペースでもいいので今後にも期待しています。

17.Bnny - One Million Love Songs ♡(Fire Talk)

DEHDと同じくシカゴのSSW。Fire Talkより2枚目のアルバム。シカゴとFire Talkという組み合わせで私的にど真ん中で本命感がありました。4月リリースってこともあって春が訪れを告げ明るい日差しが周囲に差し込むような感覚をおぼえる素敵なアルバムでした。Bnnyは1stの頃はおぼろげなフォークだった気がするくらいで印象が薄かったです。こちらの2ndですけどかなりクッキリとメロディを強調していてソングライティングが素晴らしいと思いました。フォークを基調としつつもIndieな感性の素晴らしいセンスがあってかつちょっとお洒落にも聴けるというバランス感覚がいいですね。所属元レーベルのFire Talkはこういう素晴らしいアーティストをよく見つけてくるなということも含めて素晴らしい循環だと思いました。

16.Sour Widows - Revival Of A Friend(Exploding in Sound Records)

USはカリフォルニアの3人組バンド。ニューヨークのブルックリン拠点のレーベルであるExploding in Sound Recordsからのリリース。フロントでボーカルをとるメンバー2人を擁しておりスロウコア的にギターを絡ませたり直情的に歪ませて爆発させつつThe Softiesさながらのハーモニーで歌い上げる。見事にかっこいい。Exploding in Soundは自分が初めて知った2013年からずっと優勝レーベルな訳ですけど今年もこのSour Widowsのフルアルバムをリリースさせて素晴らしいと思いました。感傷的で傾聴型な中にもギターで爆発するところなんかはロックの持つフィジカル感に溢れていて琴線に触れてきますね。ほの暗さが通底してるのにどこかポップに聴けるのはボーカルのハーモニーがある故でしょう。

15.Louse - Passions Like Tar(Feel it Records)

USはオハイオ州シンシナティのConnor Simpsonが中心のプロジェクト。今までまったく知らなかったバンドのいいアルバムを多数リリースした近年の推しレーベルであるFeel It Recordsから。80s Post Punk、Cold Wave、初期のAlternative Rockからの影響を公言していてゴシックでダークな世界観の中にムンムンとした熱気があってかっこいいです。DRAB MAJESTYやChoir Boyとかのスタイルを感じましたしDais Recordsからリリースとかでも不思議ではないセンスの塊だと思いました。PunkとかAlternativeやIndieなシーンを追う楽しさはこういう今までにありそうでなかったこれとこれを掛け合わせたらみたいなジャンルやスタイルが越境された音楽を聴いたときのワクワク感にあると思います。このLouseはそれを今年の中で最も体現していて感じさせてくれたバンドでした。

14.Good Morning - Good Morning Seven(Polyvinyl Records)

メルボルンのデュオの7枚目のアルバム。2014年のShawcrossから10年の活動歴があるGood Morning。今作は17曲入り50分超えの大作アルバム。キャリアの最初から追ってるバンドですけどもう結成10年の節目になって7枚もアルバムが制作されるくらいバンドになったのだなと思わせられます。USの激優良レーベルであるPolyvinyl Recordsからの2枚目のフルアルバムですね。個人的に正直なことを言うとこのバンドは正面ど真ん中という訳ではないんですけど隅っこに置いておけないバンドだったりします。アルバムの作品ごとで作風や曲のよさや全体の完成度にムラがある中でも自分が最初に聴いて心底感動したShawcrossの煌めきが忘れられずにずっと追っている訳です。そんな中でキャリアは10年を超えて制作された今作はそんな個人的な思念を颯爽と置き去ってしまうくらいのよさでした。どこか寂しげだけど温もりがあって普遍性があるオルタナティブなポップサウンドは流石だと思いました。11月の最後には今年2枚目のアルバムもリリースしておりそちらも大変よかったです。多作なのは創作意欲が溢れている証拠だなと思いました。ずっと追い続けますGood Morning。

13.Friko - Where We've Been, Where We Go From Here(ATO)

シカゴのデュオの1stアルバム。XでFriko現象が起こったくらい絶賛されたアルバムですね。その風に押されてフジロックや単独公演で来日まで果たしました。自分もかなりこのアルバムには喰らいました。孤独感とそれを発露させ爆発させることによって起こる泣き笑いな祝祭感。そこがグッとくるポイントでした。全体を通すいいアルバムだと認識させる得も言えない空気感もありますね。若いエネルギーが充満しておりそこに説得力のあるソングライティングやアレンジやアルバム構成など諸々の要素が乗ることによって生まれるケミカルな反応や力がこれでもか宿っており名盤の風格が漂っていますね。いやでもしかしあのXでのFriko現象は何だったのかと今でも考えさせられます。よっぽどの音楽のインパクトだったのだなと思ったりしました。

12.Chris Cohen - Paint a Room(Hardly Art)

USはカリフォルニア州リッチモンドのSSW。Deerhoofの元メンバーとしてお馴染みChris Cohenのソロ作。ジェントルで滋味深いフォークでポップなアルバム。焦点がおぼろげで的を得ていない感じがあって聴いてて自分の視点や感情を失います。ここにはストレンジな要素が含有されていて不思議な聴取感覚で戸惑ったり不安を誘うけど聴いた感じは決して悪くないというバランス感覚ですね。不安にさせておいて安心させる曲の強さや煌めき。ジェットコースター的なスリリングさを楽しむ要素があったりジャジーなアレンジ等にもわかる通り音楽的な豊穣さを味わう側面もあります。聴いてChris Cohenだとわかるパーソナルな音楽性や歌声でオリジナリティの塊だという印象を受けます。リリース元はHardly Artで私的には2010年代に活躍した尖ったIndieレーベルのイメージがあります。今年のトップ100枚に選出したyoubetやこのChris Cohenをリリースしていて寡作ながらもやっぱりいいレーベルだと言うことも再認識させられました。

11.Nilüfer Yanya - My Method Actor(Ninja Tune)

UKはロンドンのSSWの3rdアルバム。前作のPAINLESSがXで話題でしたけど自分はこのアルバムから入りました。このアルバムは聴いて何かよかったんですよね。最初は自分の範囲の外にある音楽だなという印象はあったもののどこか引っかかりがあって繰り返し聴いていたら見事にハマってしまいました。その最初に感じた引っかかりは何かと言ったらシューゲイズだったりオルタナティブな音色のざらついたギターとどこか切なげでまるで帰路のトボトボとしたような曲の空気感だったりします。ソウルフルなんだけどクールな佇まいの歌唱っていうのもポイントが高かったですね。サウンドはバンドでの演奏でそれはシャープで一言かっこいい。そして歌唱とサウンドとのバランスがとてもよくシームレスに展開していて楽曲としてのセンスのよさにもやられました。Ninja Tuneからのリリースで音楽のジャンルやスタイルを越境するかっこよさもあって素晴らしいことだと思いました。

10.Robber Robber - Wild Guess(Self Released)

USはバーモント州バーリントンのロック、クラウトロック、ポストパンク、ポストロックな4人組バンド。こちらは自主リリースのフルアルバム。Bandcampのレコメンで知って初めて聴いたときに飛び上がったバンドです。フリーキーに尖っていてエネルギーに溢れていて革新的なことをやっているという確かな聴き心地がありました。特に2曲目のSeven Houseという曲はハイエナジーに2コードくらいのループが終始続く曲なんですけどシューゲイズな陶酔感もあって何だこれは!とハッと驚きました。これまでにありそうでなかった革新的なタイプの音楽という点ではRobber Robberはずば抜けていましたね。私的には2015年に聴いたPalmのアルバムTrading Basicsくらいの衝撃度でした。グニャッとしていて聴きやすくはないのにキャッチーに聞こえてしまうのはほとばしるエネルギーがこれでもかと溢れているからでしょう。バーモント州のバーリントンという人口5万人に満たないGoogle情報での街はUS Indieウォッチャー的には全くノーマークだったのですけどよかった新譜100枚にも入っていたLily Seabirdもこの街の拠点になっていましたし地方のローカルなシーンがインターネットで日の目を見たと思うと日本の地方ローカル在住な自分も頑張ってみようと気張った次第です。10位。

9.Torrey - Torrey(Slumberland Records)

USはカリフォルニア州オークランドの5人組バンド。Slumberland Recordsからのフルアルバム。まずバンド紹介の前に今年のSlumberland Recordsはかなりよかったとお伝えさせてください。自分の中では上位いやトップくらいの活躍を見せてくれた気がします。トップ100の新譜の中にもThe Umbrellas、LightheadedがあったりChime Schoolもかなりよかった。そしてこの夏には東京の七針で名古屋のレーベルgalaxy train主催のイベントで同レーベル所属のTony Jayのライブを観たりもして元々あったSlumberlandに対する思い入れはさらに増しました。そんなこのレーベルに今年ニューカマーとして所属になったTorrey。Indie PopとShoegazeを軸にしたサウンドです。うたの比重が強く聴いた感じはJ-Pop的にも受けます。特に7曲目のSlow Bluesという曲はシューゲイズ的な揺らぎサウンドの中にシティポップな雰囲気もあるしとても好きな曲です。繰り返されるリフレインによる陶酔感の中にも曲の強さがあってこのバンドが好きになったきっかけの曲になりました。9位。

8.The Drin - Elude the Torch(Feel It Records)

シンシナティの6人組バンド。Feel It Recordsから。今作を聴いて地下室から外の世界に向けて音楽を通して発露している印象を受けました。2023年の前作アルバムは地下室で儀式のようにひたすら何かをぐつぐつと煮詰めているような印象を持ちましたが今作アルバムはそれが吹っ切れてより開放的な方向性に向かっています。聴いた感じこれはパンクかと言われると首をかしげてしまうような音楽性なのですけどパンク的な何かであることは間違いなくその面に関しては純度がめちゃくちゃ高くなっています。呪術的なボーカルスタイルは一貫していてそれがゴシックでダークな世界観となっていて高らかなサウンドに乗ることで独特の高揚感を味わうことができます。深い森のようなサウンドもあるし天上へ声を上げているようなエセリアルな感覚もあるしゴシックだしと素晴らしいです。今年のFeel It Recordsからのリリースの中で本命ではないでしょうか。8位。

7.Little Kid - A Million Easy Payments(Orindal Records)

カナダはトロントの5人組フォークバンド。前作から知ったバンドですね。今作はOrindal Recordsからのリリースになっています。2月の寒い時期にリリースされたときにずっと聴いていたバンド。春の訪れを待ち侘びるような時期に聴いていたらとても相性がよかったのですね。ピアノの音色やアコースティックな楽器陣の質感は冷たい季節にひとつ温かさをもたらしてくれます。Elliott Smithを感じさせるボーカルの歌声は寂しげで感傷的ながらも心に響きます。8曲で44分と1曲ずつが冗長なんですけどまったく長く感じさせないですね。それはフォークのジャンルの持ついいところだったりします。繰り返しされるリフレインが段々と展開をしていくにつれて音数を足したり引いたりとするうちにスルスルと1曲が終わっていく感覚です。風通しもよく決して暗い気分にはならないですね。今年はIndie Folk勢はあまり100枚にはそれほど入れてないという気でいるのですけどトップ10の中にはたくさんランクインされておりやはり自分はフォークが好きなんだなと思った次第です。7位。

6.Another Michael - Pick Me Up, Turn Me Upside Down(Run For Cover Records)

フィラデルフィアのデュオ。Run For Cover Recordsから3rdアルバム。Another Michaelもずっといいバンドですね。このバンドは1stのポップで明後日の方向に向かっていく飛び技のようなマジカルな音楽性でファンになりました。3rdがリリースするここまで一貫して曲のよさが全面に出ていて素晴らしいと思います。上記のLittle Kidと同様にフォークの要素があるのですけど最新ポップスとのハイブリッドな感覚を受けました。それは現代的なエレクトロニクスの音をアレンジで取り入れたりハイファイな録音状態にあるからだと思います。飛び技のようなマジカル感は2ndからは後退しているもののこういう実験精神というか遊び心が細部に残っていて素敵ですね。このバンドのいい点は他にもあってボーカルが少年のような歌声を持っていることですね。ポップなサウンドに乗るボーカルの無邪気さがたまらなく心に刺さります。曲やメロディを聞かせるという点で素晴らしいバランス感覚になっています。このアルバムがリリースされた2月にはLittle Kidと交互に繰り返し聴いていました。6位。

5.Caoilfhionn Rose - Constellation(Gondwana Records)

UKはマンチェスターのSSW、プロデューサー。このアルバムはある時期にずっと繰り返して聴いてしました。6月だったと思います。Nilüfer Yanyaのところでも書いた通り自分の範囲外と最初は思ったけど引っかかりがあって繰り返して聴いていたら見事にハマったという例ですね。今作のどこにまず引っかかったのかと言うと5曲目Rainfallのピアノの旋律でしょう。これは本当によくて梅雨時の気分の下がりを癒してくれるような感覚でした。私的には最初はど真ん中という訳でなくて周辺の音楽性(alternative、folk、pop)のニュアンスから入ったものの結果的には見事に愛聴盤になってど真ん中まで来ました。後は歌声がとてもよくて儚げで細いながらも天上へと向かっていくような力強さも兼ねてて素晴らしい声質だと思います。演奏にはアンビエントやソウル、ジャズ、クラシックの要素も含まれていてそれを自身の音楽に落とし込んでいて素晴らしい才能だと思いました。Godwana Recordsというマルチに良質な音源をリリースしているレーベルも同時に知ることができてとてもよかったです。5位。

4.Wand - Vertigo(Drag City)

USはカリフォルニア州ロサンゼルスのCory Hanson氏を中心とした4人組バンド。Cory Hansonは自身のソロを含めて良質な音楽をずっとIndieリスナーに届けてくれてますね。今作も音楽性の変化はあるにせよ相変わらずのよさで安心しました。荒々しいロックなギターやガチャガチャしたバンド演奏は後退してサイケデリックなしびれとめまいを使い分けてゆったりとしたテンポで繰り広げられる独特な世界観のアルバムになってますね。ストリングスを用いたチェンバー要素もあったりして優雅な時間が流れていきます。個人的に思ったのはCory Hansonの去年作はWandかっていうくらい荒々しいもので今作はCory Hansonのソロかっていうくらいのうたや演奏の感覚があってこの逆転現象もすごく魅力的に写りました。それくらいソングライティングが安定していたり熟達して向上しているという証拠でしょう。今作のゆったりとした悠久のような時間に身を任せるのはいい時間の過ごし方だと思うのでオススメです。4位。

3.Loving - Any Light(self released)

カナダはブリティッシュコロンビア州ビクトリアのバンド。前作からファンになったLovingですけどセルフリリースの今作もかなりハマりました。特徴や魅力はIndie Pop、サイケデリック、フォークを混ぜた落ち着いていてソフトな音楽性にあるでしょう。穏やかながらも心に刺さったり寄り添ってくれるような感覚は他にはあまりなく10曲で30分弱という収録時間も相まって繰り返し聴きました。ちょっと差し支えがある表現なんですけどちょうどいいのです。ポップ過ぎずハード過ぎずどこまでもソフトに軽やかに風通しがよい。そして切なかったり寂しかったりする感覚が素晴らしいのです。まるで春先のひだまりのようにやさしさや温かさやわびさび感がすべて入っている感じ。クラシックなポップ感覚の中に穏やかさや普遍性が内包している感じです。これは好きな要素しかないと思いました。おそらくメディアや他の方のベストにはまず入ってこないんじゃないかと思われるのも含めて自分が入れておくしかないとも思いました。そんな自分の思いは置いておいて回数をたくさん聴きました。3位。

2.Cassie Ramone - Sweetheart(CD-R RECORDS)

USはおそらく現在はニュージャージー拠点のVivian GirlsやKevin MorbyとのバンドThe Babiesのメンバーとしてお馴染みCassie Ramoneのソロ作です。このアルバムはとてもよかったIndie盤でした。どこか所在ない聴取感覚があって反対方向に分布しているような要素が混在することでポジションが不安定になるような錯覚を起こしますね。不安を助長させるような展開を見せて安心で回収するような独特なコード感やベッドルームのコンパクトな宅録感とライブハウスでかき鳴らされるようなバンドサウンドも同居していますし甘さと酸っぱさが一緒になっていたり、微睡みと覚醒も一緒になっている。このアルバムの中ですごく何かが起こっているような感じを受けるのにキャッチしきれない得も言えぬ印象もありました。どこか地続きにならないタイプの要素が混ざっていてそれが不安定とも安心とも取れるバランス感覚でそこが聴いてて素晴らしいと思いました。かなりいい意味でのIndieなDIY感にも溢れていてそこはずっと持ってる作り手のセンスの部分だと思うんですけど手の届きそうな範囲でそれが展開されている感じがしてとてもグッとくるんですよね。9月のリリースで熱くて終わらない今年の夏をダラダラと過ごしながらこのアルバムをダラダラとかつ熱心に聴いていました。2位。

1.Sharp Pins - Radio DDR(self released)

さて1位です。今年はシカゴのKai Slater氏のプロジェクトであるSharp PinsのRadio DDRに決めました。最初このアルバムを初めて聴いた5月の衝撃そのままの勢いで突っ走りましたね。途中Cassie RamoneのSweetheartかで迷う時期もありましたけど繰り返し聴いたこのアルバムが結局は一番でした。まだまだここからの若者の成長過程の一端を垣間見れてとても嬉しく思います。私のnoteでも今年Sharp Pinsを紹介してるので詳しくはあまり触れないですけどとにかく曲のメロディの強さとそれがリズムにきっちり乗り切ってるっていう部分で今作は完璧なポップアルバムだと思いました。青臭い感じと熟達した部分と琴線に触れてくるこの寂しさや切なさは一体何なのだろうと思ってしまいます。とにかくフリーキーで尖った音楽好きが制作した音楽好きのための音楽という感じが極まっていてそれがこのアルバムを繰り返し聴きたくなる要因でした。その狭くシャープなピンで見事に射抜かれてしまった訳ですね。このアルバムはしばらく愛聴できるしまだまだKai氏は若くて今後にも期待が持てます。兼業でやっているバンドLifeguardも今後フルアルバムともなればもっと氏の才能にも注目されるはずでしょう。この先どういう流れになるのかシカゴシーンの潮流もありますしとても楽しみですね。そんなことを思わされた逸材が制作した最高のアルバムが2024年の1位です。

さてお送りしてまいりました、2024年の年間ベストのランキングでしたがいかがでしたでしょうか。今年はいつもの定点観測の中にも新しいタイプの音楽にも触れられる機会があって素晴らしい1年となりました。途中で音楽に対して飽きることもなく続けて聴いてこられたのも刺激的だったりいい音楽が溢れていた証拠だと思います。

この年間ベストの文章を書くことで今年の豊穣だった自分の音楽体験を一端を公表することができたのがとても嬉しく思います。このnoteを見てくれた方が少しでも楽しんでいただけたら幸いです。そして自分と同じような狭いところの音楽を聴いてるリスナーが各々の思ういい音楽を聴いてもらえるようになったらいいなと思います。そしてそれを何でもいいから発露することによって循環が生まれるといいなとも思いますね。そんな個人的な言及や感想だったりがやがてはバンドやアーティスト側へ届いて刺激や制作の意欲にもなってもらえることもインターネットな世界ではあると思います。なのでそんないい循環が巻き起こると嬉しいですね。

こんな感じでつらつら書いてきましたがそろそろ締めたいと思います。それでは2024年はまだ数週間は続きますけど皆様よいお年をお過ごしください。

来年も是非またお会いしましょう!

いいなと思ったら応援しよう!