見出し画像

南へと向かう旅路②豊橋→新宮

この話の続き

お昼は忙しい



豊橋での乗り換え時間は20分ほど。ここで飯を食わねば、最悪新宮まで8時間ほどお茶だけで過ごす羽目になる。多少は旅慣れているとは自負しているが、長時間食べられないのはどう足掻いてもしんどい。

過去に訪れた記憶から豊橋に駅ビルがあることは覚えていたが、土曜日の11時半過ぎに20分で改札の外まで行くのは少々危なっかしい。「改札の中に店はあったっけなあ」、と思いながらホームからの階段を登っていたが、登り切るとすぐ目の前にプロントがあった。しかも、空いている。これは助かった。迷うことなく中に入ってスパゲッティーを頼む。数分後には出てきたので、流し込む勢いで食べる。お行儀はあまりよろしくはないが、食欲と時間のプレッシャーには敵わなかった。

結果的に、キヨスクで買い物できるくらいの時間は余った。飲み物と小腹が空いた時のための菓子を買う。これで、ここから先の乗り換えは余裕を持って出来そうだ。

ここからは快速で名古屋まで1時間弱の旅路。やっと鞄の奥底から本を救出したので、ここでは本を読みながら過ごす。豊橋を出る時はクロスシートの隣の席は空いていたが、岡崎だか安城だかのあたりで埋まった。隣人は金山で降りたのだが、またすぐ埋まった。快速電車で金山から数分走ると名駅。僅かな間だけの隣人である。電車は名駅に近づくと、私は「申し訳ないな」とおもいつつ、座ったばかりの隣人に一旦退いてもらって、電車を降りた。

帯に短したすきに長し

名駅の気持ち天井の低い地下通路を通り、関西本線のホームへと進む。まだ乗り込む電車は来ていないようでホームは長蛇の列。これは座れないかもしれないな、と思うほどである。
少しだけ待つと、2両編成の313系がやってきた。なんとか座れた。ふと目線を前にやると、斜め前の席で家族連れと相席になった人がマックのハンバーガーを食べていた。家族づれの表情まではよくわからなかったが、食べている張本人は肩身が狭そうであった。

4両編成でもいいんじゃ無いかと思うほど混んでる快速電車の四日市までの停車駅は桑名だけ。しかし、よく止まる。単線区間が多いので行き違いがそれなりにあるのだ。止まるたびになる行き違いの車内放送。暫くしてすぐ横に列車が現れ、そして乗ってる快速も動き出す。これの繰り返しである。しかし、動いている時と止まっている時も時間の進み方は違うものである。扉が開かないのであれば、尚更だ。時刻表通りだとはわかっていても、扉が開かずに進まない列車は少し焦ったい。

四日市から先は各駅に停まるが、駅に停まるごとに乗客は減っていく。やはり近鉄から離れるあたりの乗客が多いようである。それでも、亀山に着く頃まで座席はほぼ埋まっていた。

南へ向かう列車に分かれ道はない

ようやく写真を撮る@亀山駅

亀山からは鳥羽行きの列車に暫くお世話になる。キハ25系という車両だが、さっきまで乗ってた313系のそっくりさんである。というかそっくりさんとして作った車両だったはず。当然車内もそっくりさんで、乗降口にステップがある以外は静岡で大変よく見るロングシートの車内そのものである。

熱海からここまで長いこと混んでいる電車ばかり乗ってきたが、ここから先はだいぶ空いてくるようである。とはいえど、ロングシートの半分は埋まるくらいだし、松阪あたりまではどの駅でも乗り降りがある。もっとも、津や松阪のように近鉄の横に駅があるような場所だと、近鉄電車の充実ぶりを見せつけられるのだが。

多気で乗り換える。お目当ての列車はホームの反対側に停まっている。何人か乗り換えるが乗り換え客の荷物は皆大きい。おそらく18きっぷで乗る人も混ざってるだろう。自分もそうだが。車種は同じキハ25。これで三重県をずっと南下し新宮まで向かう。そして、多気から先、列車の行き着く新宮までどの路線とも接続することはない。ずっと紀勢本線が延びるのみだ。3時間強の迷いようがない旅路である。

1月上旬の16時台ともなれば、あたりはすっかり暗くなってくる。特に、西側はずっと山なので夕焼けがよく見える訳でもなく、ただ静かな夕暮れ時を列車はエンジン音を時々唸らせながら進む。私は山側がよく見える位置のロングシートに座っていたのだが、ふと振り向いてみるとそこは岩が幾つも聳え立つ海岸線であった。こんな目を惹く景色が背中側には広がっていたのか!視野を背中に移さなければ目にせぬままただ薄暗い山々を見ているだけになる所だった。

外は真っ暗、そしてさっきからやたらと走行音がうるさい⋯、ん、少し静かになったぞ。…どうやらドンネルを走っているようであった。
地図を見れば一目凝然だが、紀伊半島は山と海が近い。特に三重県内は典型的なリアス海岸が続く。紀勢本線も山々とリアス海岸を抜けていくので当然トンネルが多い。しかし、夜なので外も当然暗い上に灯りも少ないもので、本を読んだりうとうとしたりしていると、音以外に外の様子をうまく掴めなくなってしまうなんてことも。

熊野市では何と20分ほど止まるという。暖房がよく効いた車内で少し身体の中に熱が籠っていたので、涼みに行くべく外に出る。冬なので当然寒いが手袋は要らないくらいか。何か飲み物を買えればと思って改札の外に出た。自販機はあったが、他にはすでに営業時間を過ぎたお店と客待ちをするタクシーがいるくらいだった。今乗ってきた列車から降りた人も何人かいたが、皆迎えの車に吸い込まれていった。


なんか斜めってんなこの写真


これだけで帰るのも何か忍びないので、少し離れたところにある跨線橋から駅を眺め、自販機で飲み物を買って列車に戻った。

すっかり暗くなって外に何があるかもよくわからない中、熊野市から30分ほど進んで、新宮に着いた。別のホームにはここから更に南へと走る電車が停まっているが、今日は乗らない。さあ、宿に向かおう。

(続く)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?