好きな怪談

自分が好きな怪談をあげてみる。

何度も見える飛び降り

 窓の外を見ていると、突然黒い影が上からばさっとよぎった。落ちていくモノと、目が合ってしまった。飛び降りだ。
人が落ちていったのだ。しかし、自分以外フロアで働く人達は気づいていないようだ。
自分の心臓はバクバクと脈打っていたのに対し、あまりに平然としたフロアで、半信半疑になり、そういえば、衝突音がなかったなと
恐る恐る窓の下を見ると、落ちたはずのモノはなかった。
「寝不足かな、変なものを見てしまった。」
先輩に白昼の事を話すと、「お前も見たのか。このビル、出るんだよ。」と意外な言葉が返ってきた。自分が見たモノは、死んだ事がわからないのか、何度も飛び降りを繰り返しているらしい。

 まるで窓をスクリーンとした動画再生の様に、繰り返し同じシーンを繰り返す。
何度も繰り返している、という事が、私の心を捉えている。一瞬の出来事にずっと執着し、時の牢獄に入っている事を知ってか知らずか、生者の方に目を向け、異世界へと繋げるのだ。
 私はこうも思う。怪異は窓の外側で発生しているのではないのではないか。確かに怪異が人間だった時は、窓の外側で起こった事だったが、その光景を窓ガラスに焼きつけたように、一面にべったりと取り憑いて再生装置のようになっているのではないだろうかと。

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