静かなる号哭 ③

第3話   「彼に成るモノ」

彼は不思議な男だった。
彼の周りにはいつも人が集まり、みな楽しそうな顔色を浮べている。
彼に集まる人は皆彼が好きだった、性格に惹かれるもの、顔に魅せられるもの、気づけば仲が良くなっていたもの。
けれど、そんな彼に集まる者達は、なぜ彼の周りに集まるのか分からなかった。
「僕はみんなを笑顔する、けどそこに、僕がいるかは関係ない。 」
彼は不思議な男だった
しかし、不思議な力を持つ男ではなかった。

彼は【孤独】を嫌った。
「一人で居ることは強さじゃない、他人を頼れない弱さの証明だ」
【孤独】はそんな彼を見ては、「やれやれ…」と肩を落とした。

彼は【束縛】を欲した。
「誰かを猛烈に欲することが【愛情】なら、僕は猛烈に‘’それ"が欲しい」
彼の言葉を聞いて【束縛】はにたりと不敵な笑みを浮かべ、彼の心の深いところへ土足で踏み込んだ。

…あぁ、嫌だ。
まるで自分が自分になろうとしている、必死に誰かの真似をするんじゃない、。自己肯定感の激しい主張。
まるで薄氷を踏み荒らすような、鋭く愉悦な罪悪感。
「僕に似た化け物がまるで僕であるかのように振る舞いその内側を闊歩する、ああ、気持ちが悪いね、僕がなるのは僕か化け物か、どちらだろうね、全く、気味が悪い。」
彼の内に居る本当の彼は、ただ静かに待っていた、
【快楽】の先にある『ソレ』を手にする為に


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