三等星

 思い出が僕らを繋ぐ糸だった。

遠くで声がする、楽しそうな、嬉しそうな、少し疲れた様子の、いつもの声。

「おはよう」
「行ってきます」
「ただいま」
「おやすみ」

当たり前が熱を帯びて彩りを飾り始める頃、僕たちの人生はまた一つ回り始めた。

僕らはそれぞれ胸の中心に、大きな歯車を携えていた。
一つでは意味を成せない歯車が僕たちだった。どうにかその歯車を持つ意味が欲しくて、迷って、傷ついて、間違えて。

 そうやって歪みの出来た歯車たちを重ねて、回してみても、軋んで碌に回りはしなかった。

「何が足りないんだろうね、ネジも、油も、歯車を回すための材料は全部あるっていうのに」

一人がそうぽつりとそう呟いた、何度回そうとしてみても、二つの歯車は軋んで動かない。

 それから、何度も夏が過ぎた。

いくつかの夏が過ぎた日の朝、白む空に夜の星が三つ、小さく輝いていたある朝の日。それは回りだした。

初めからそうであるように、三つの歯車は滞りなく動いている。


世界が回り始める瞬間は、必ずしも劇的とは限らない。


「一人では抱えきれなくて死んでしまうような日の夜も、二人なら。」
「二人では暴けない暗い深い闇も、三人なら。」

未来を見つめる空の上に、等しく光る星三つ

「ここからだね。」
「長かった…でもまだ終わりじゃないんだ」
「行こうよ、この先も。」


夏の終わりの路の上、夜の街路に影三つ

見上げた夜空は澄んでいて、月の無い夜に目立たないように星がひっそり浮かんでる。

誰も、僕たちを知らないんだろう、けど今はそれでいいんだと思う。

いつか、この星が超新星となって、空いっぱいを照らす花火になれたなら。

かつて前を走っていたその背中は、追いついた頃にはずいぶん小さく、傷だらけに見えた。

「今度は、僕達も隣で走るよ、ごめんね、お待たせ。」

笑うように泣くその手を取って、星は彼方を目指して進んでいく。

それぞれの歯車は噛み合い、絶えず回り続けと願いを込めて。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?