磯村保「事例でおさえる民法 改正債権法」(有斐閣,2021)読了

読了者の予備知識と書籍選定理由

・著者である磯村保先生には学部・ロースクールを通じて大変お世話になっており、特に先生が復習用に作成・配布していた授業資料(通称「磯村レジュメ」)は司法試験直前まで読み返していました。常々「このレジュメが出版されたら欲しいな」と思っていたところに本書の発売を聞きつけたので、迷わず購入しました。

・債権法に関しては、中田裕康『債権総論 第4版』(岩波書店、2020年)潮見佳男『基本講義 債権各論Ⅰ 第3版』(新世社、2017年)等の基本書を使っていました。また、2020年4月1日に施行された民法の債権分野の改正の内容を整理するに当たっては潮見佳男『民法(債権関係)改正法案の概要』(金融財政事情研究会、2015年・現在は下に載せた新版を読むことをお勧めします)を読んだ記憶があります。

レビュー

・約330頁で、12時間ほどで読了しました。後述の通り事例をしっかり頭に入れることが解説を読むために必要なので時間はかかりましたが、非常に読みやすい文章でした。

・債権法改正について重要なテーマを16講にわたって取り上げ、各講につき3~5問の事例(小問にして計10問前後)とその解説がなされています。

・具体的な事例を用いることで、債権法改正により解決を図ろうとした(あるいは、未だ解釈上の課題として残っている)問題の所在を把握しやすくなっています。また、解説は旧法の議論状況や判例に言及しつつ、改正の趣旨やその必要性を理解できる形式になっています。

・事例問題をもとに論点の解説を行う民法の書籍としてはLaw Practiceシリーズ(商事法務)が思い浮かびますが、本書は同シリーズの解説と比べて事例の理解を前提とする表現が多いです。冒頭に挙がっている事例について、自分で図を描くなどして頭に叩き込むことが必要になってきます。

・丁寧な解説があるとはいえ事例問題の難易度は決して低いものではなく、「代理とはどんな制度か」「債務不履行とは何か」といった基礎的な説明も省かれているため初学者向きの本ではありません。網羅性にも欠ける点があることから、民法科目の履修を一通り終えた方が債権法改正のポイントを理解あるいは整理・確認するための副読本として使用するのが適切であるように思われます。

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