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あの日,私は確かに死にたいと思っていた 〜自殺を手助けすることはどうして罪なのか 〜


自ら命を絶つということは大変悲しいことだ。
今朝,テレビをつけていると次のニュースが飛び込んできた。

東京都大田区の多摩川で1月、遺体で見つかった評論家の西部邁(すすむ)さん=当時(78)=の自殺を手助けしたとして、警視庁捜査1課は5日、自殺幇助の疑いで、西部さんの出演番組を担当していた東京MXテレビ子会社社員、窪田哲学(45)=東京都江東区=と、西部さんの知人で会社員、青山忠司(54)=埼玉県上尾市=の両容疑者を逮捕した。

自殺幇助(ほうじょ)というのは,自殺の手助けをするということ。
法律の世界では,「自殺の手助け」がどうして罪なのかが議論されている。

というのも,自殺そのものは犯罪ではないからだ。
犯罪ではないことの手助けをするとどうして犯罪になるのか,ということは昔から議論されている。
司法試験の受験生だった頃,このテーマを興味深く勉強した記憶がある。
私はほとんど民事事件しか取り扱わないから刑法には疎くなってきているが,それでもこの議論はよく覚えている。

なぜだろう。
あとで述べるように,昔「死にたい」と思ったことがあるからだろうか。

 ——

自殺の手助けを犯罪にする考え方は次のようなものだ。

確かに,自殺は犯罪ではない。
しかし,自殺を手助けすることは「独立の犯罪類型」だ。

刑法学の著名な学者である大谷先生は次のように言う。

「生命は本人だけが左右しうるものであり,他人への自殺への関与は,その者の存在を否定し,その生命を侵害するものとして可罰性を有するという趣旨である。すなわち,生命はあらゆる価値の根源であるという見地から,本人が同意していてもその同意は無効であり,他人が自殺に関与することは違法であって,当罰性を有するとする思想に基づくと解すべきである。」

むずかしい言葉で書いてあるが,
一言でいうと,
人の命は尊いんやから,他人は立ち入ったらあかん。
ということなのであろう。

——

この話をすると,どうもあの頃を思い出す。
うっすらと,確かに死にたいなと思っていたあの頃を。

小学校3年生と4年生。
多感なこの時期に,
私は学校で一言も喋らなかった。
喋らなかったのか,
それとも喋れなかったのか。
その境界線も曖昧だ。

だが,声を発することはできなくなり,
人に声を聞かれることさえ嫌でたまらなかった。

クラスメートは当然のように私をからかう。

「おい,○○,なにかしゃべんねぇのかよ」
「こいつ,あたまわるそうだな」
「おい,○○は教科書も声に出して読めないって」
「変なやつー」

そうして私は孤立していった。

助けを求めた両親は,私の状況に困っているようだった。
なんとかして喋らせようとしていた。
喋らない私は,
喋らない私のままではいけないようだった。

「ねぇ,なんか喋らないの」
「そうだ,学校で少しでも喋ったら,スーパーファミコン買ってあげる」

そうして,私は人との接点を失い,
受け入れられる場所を失い,
あるときふと思った。

「そうか,消えてしまえばいいんだ。喋らない私は,いてもいなくても同じだから。」
消えてしまえばいんだ。
キエテシマエバイインダ。

そう。
あのとき,私は確かに死にたいと思っていたのだと思う。

でも,一方でこうも思っていたんだ。誰かに助けて欲しかったと。

 ——

そういうことをときたま思い出すのだけれど,
今は,心から生きていてよかったと思う。
多くの人に出会い,
多くの仕事に出会い,
多くの世界に触れるという
喜びを知ったから。

誤解をおそれずに言えば,
私は,誰にでも,1度や2度は,
その気持ちが強いかどうかはともかく,
「死にたい」
って考えた経験があったりするんじゃないかと思っている。

でも,だからといって自殺するという話にはならないし,
間違っても自殺を手助けしてはいけない。

なぜかって。
そのときには「死にたい」と思うほどの暗闇の中にいても,
いつかそのトンネルを抜けて,
別の景色が見えると思うから。あのときの絶望が今の幸福の伏線だったんだって思える瞬間がきっとあると信じてるから。

トンネルの真っ暗闇にいる人に対して,
暗闇のなかで人生を終えてしまう手助けをするんじゃなくて,
どうやって暗闇から抜け出せるのかを一緒に考えたり,
あるいは抜け出せるようになるまでそばにいてあげたり,
場合によっては一緒に歩いてあげたりすることのほうが,
暗闇にいる人が本当に望んでいることなんじゃないかな。

自殺したいから助けてくれって言っている人は,
本当は,自殺したくないから助けてくれって言ってるんじゃないかな。

死のスタートラインに立とうとしている人に本当に必要なのは,気分を新たに生きるための新たな生のスタートラインを用意してあげることじゃないかな。

自殺幇助が犯罪とされている理由を,
私なりに感覚的に説明すると,今書いたような感じだ。

——

西部さんがどういう想いを抱いていたのかは私にはわからないけど,
ご冥福をお祈りします。

#コラム #自殺 #刑法 #スタートライン

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