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バイナリーはアートマテリアルである 5   (画像から音楽を作るひとつの方法)

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「20世紀初めロシアの作曲家スクリャービン」に関して書いています。「ロシア」「ウクライナ」に関する記述は一切ありません。

これはドラフトです。
最終稿は http://kenjikojima.com/BinaryAsArt/


作品コンセプト「テクノ共感覚(Techno Synesthesia)」
ここまで技術的な面を書いて来ました。技術は作品コンセプトを支えるためのものですから、コンセプトの面から少し書いて終わりとします。

「テクノ・シナステージア(テクノ共感覚)」と名付けたこのプロジェクトのテクノは、コンピュータ・テクノロジーを意味しています。そのテクノロジーの中身は2つあって、ひとつは作曲法の「アルゴリズミック・コンポジション」と、もうひとつはコンピュータで取得した多量のデータから、目的のデータを検出して整理するセンサー装置です。どちらもバイナリー(0と1で情報を記憶・処理する)を操作する技術です。これは人間に置き換えると感覚器官の入り口の機能です。厳密に言えば、視覚データと聴覚データを再生させるコンピュータの装置も含まれるでしょう。

「アルゴリズミック・コンポジション(Algorithmic Composition)」は目的に沿って選り分けたデータを、「常に同じ手続き処理の連続(アルゴリズム)」で作曲する方法です。「アルゴリズミック・コンポジション」は古くからある作曲法で、コンピュータの作曲だけを指すものではありません。

「シナステージア(Synesthesia)」は日本語で「共感覚」と訳される、ある感覚を別な他の感覚で感じ取れる知覚現象を言います。世界には「ある色を見ると、ある特定の音が聞こえる」等の知覚を持っている人達がいるそうです。漠然と思考の上では理解できるのですが、残念ながら私のような普通の人間にはない感覚なので、個人の直感ではなく現代のコンピュータ・テクノロジーを使って、アートの思索の拡張として表現してみようと言うが、「テクノ・シナステージア(Techno Synesthesia)」です。

「シナステージア(Synesthesia)」は、科学的に証明されている事象ではないので、科学(Science)とアートの結合と言うより、コンピュータ・テクノロジーを使った「ホモ・ルーデンスの遊び」位に考えた方が良いでしょう。

サイボーグは、科学技術を用いて人間の身体や認知能力を拡張させ、人間があたかも生物学的に進化したように発展させようという思想です。具体的には20世紀後半からの急激な科学技術の発展で、人間の身体能力を拡張するサイボーグはサイエンス・フィクションではなく現実となっています。これは何10億年もかけて海洋生物から陸に上がり、生存のため身体的変化を緩やかに続けてきた人類が、21世紀に急速に推し進める新しい進化とも考えられます。

しかし「テクノ・シナステージア(テクノ共感覚)」は、サイボーグのような肉体の延長や、テレコミュニケーションのような視覚や聴覚の拡張を目指すものではありません。それは現在の人間の感覚や能力の延長・拡張ではない、感覚器官のクロスオーバーをテクノロジーを用いたアートで模索しています。

人間は普通五感と言われる感覚を持っています。私たちは進化の過程で、ゆっくりとゆっくりと何代もの世代を重ねて、生存のための環境を把握する機能として五感を発達させて来ました。人間は目を使って外界の形や色を把握しています。目をもたない深海などにいる生物は、どう外界を把握しているのでしょう。あるいは皮膚がその役割を兼ねているかもしれません。私たちは五感によって振り分けられた情報を信頼しているので、他の感覚器官の能力を無視しているかもしれません。あるいは身体能力の拡張のように、科学技術が感覚を補う役割をするかもしれません。

20世紀初めロシアの作曲家スクリャービンが書いた、「プロメテウス」という交響曲の楽譜には、オーケストラで使われる楽器の他に「Luce(イタリア語で光)」というパートが最上段に書かれていて、彼の作ったシステムで音符による光の色が指示されています(交響曲『プロメテウス』の楽譜)。スクリャービンの生きていた時代の実際の演奏では、Luceのパートの演奏は困難でした。しかし近年のテクノロジーの発達で「Luce」を含めた交響曲全楽譜の演奏ができるようになりました(交響曲『プロメテウス』ビデオ ドキュメント&演奏エールシンフォニー 2010年)。

初めて抽象絵画を創作したと言われるカンディンスキーは、スクリャービンの作品に感銘を受け共感覚に興味を持って作品に取り入れる試みをしたと、どこかで読んだ記憶があります。芸術季刊誌の青騎士に、カンディンスキーは絵画制作で黄色はトランペットの中央のCの音、黒は終止符等の、ある特定の音と特定の色彩との結びつきを持った表現を採ったそうです。つまり直感で毎回色を選ぶのではなく、ある理論づけをしたと言っても良いでしょう。

現在でも「自分の作品は共感覚である」と明言する人たちもいます。しかし私にはとても物足りない感じがして、直感を越えた何かアルゴリズムのような、開示が欲しいのです。


2020年12月小島健治 
http://kenjikojima.com/

Email: index@kenjikojima.com


バイナリーはアートマテリアルである
1. 概要
2. 画像のピクセル・データを音楽に変換「RGB Music」
3. 画像を暗号モザイクに 音楽鍵で元の画像に「CipherArt」
4. ビデオ画像から音楽を取り出す「Techno Synesthesia」

5. 作品コンセプト「テクノ共感覚(Techno Synesthesia)」

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