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時間のゆくえ

こどもの目が、時計をまなざす。
長い針と短い針。

───長い針が6になったら、おやつですよ。

広やかなこの世界。
産声を上げてから、
指折り数えるような日々を過ごすこどもにとって
この身を包む「時間」は、とても不思議な概念だろう。

 
 おかあちゃま じかんってどこからくるの?
 Mammma, da dove vengono le ore?
 
 こどもよ
 おまへが さう たづねたとき
 わたしたちは みな
 はっとしたのだ。

 じかんってどこからくるの?
 ちひさな こゑで おまへは
 もう いちど きいて みる。
 へんじのできぬ
 おとなたちを まじまじと
 みつめて………。


詩人、エッセイスト、須賀敦子の詩篇(おかあちゃま じかんってどこからくるの?)須賀敦子詩集『主よ 一羽の鳩のために』(河出書房新社)の詩のフレーズ。

素直なこどもの疑問に戸惑う、おとなのまなざし。
こどもからおとなへと移り変わりゆく日々の中
どこで、わたしたちは、「時間」という枠にとらわれるのだろう?

いくどとなく、絶え間なく波打つもの。
時間とは、海の鼓動のごとく、始まりも終りもない自由なものだ。

時計を見上げながら、時がゆっくりと見知らぬ方角から
楽しそうにやってくるのを待っているこどもたち。

待ち遠しいものは何だろう?
おやつの時間、ブランコ、なわとび、かけっこの時間。

ひとりひとりの時間の彩りは、
今ここに在る生を温かく育み、豊かなみらいを形づくってゆく。

こどもたちよ
おとなになったら、
永久に色あせない時間を表すことばをきっと覚えるだろう。

「永遠」と「瞬間」。

空にかかる美しい虹のように
とびっきりの、かげがえのないその一瞬を積み重ねて。

おかあちゃま じかんってどこからくるの?

生という一度きりの「時間」への優しい答えを
自らの裡に見出すそのとき、
長い針がチクタク、カチッと、6を差すだろう。


───さあ、おやつですよ!




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