お前らがいるから笑顔になれる「ザ・エレクトリカルパレーズ」(中盤からネタバレあり)

先月、ニューヨークのyoutubeチャンネルで公開されたドキュメンタリー映画、「ザ・エレクトリカルパレーズ」。監督はニューヨークチャンネルの作家、奥田泰さん。

ザ・エレクトリカルパレーズというのは、吉本の養成所「東京NSC」の17期生の代(2011年)に存在していた団体。どうやら17期生の中の「イケてる集団」が属していたサークル的なものらしい。ちなみに17期生は空気階段、オズワルド、ラフレクラン、ガーリィレコードなど今テレビやyoutubeで活躍している芸人が多数おり、当たり年と言えるかもしれない。

実は僕はこの「エレパレ」の存在を知っていた。何故かというと、数年前にトータルテンボスの大村さんが「今のNSCには何やらそういう団体が存在したらしい」ということを話されていたからである(ちなみにトータルテンボスは東京NSCの3期生なので、かなりの先輩) そして今年の頭にニューヨークがニューラジオの中で、このエレパレについて話しており「あれ、これ昔に大村さんが話していたやつじゃないかな?」となり、過去の記憶と繋がった。

映画「ザ・エレクトリカルパレーズ」は、ニューヨークの二人と監督の奥田泰さんがエレパレとは一体何なのか、それを当時の関係者‥‥つまり空気階段やオズワルドなどの東京NSC17期生にインタビューをし、その実態を解き明かそう‥というのが始まりになっている。

概要を見たときは、ただの「スクールカースト」的な話だろうと思った。しかし「エレパレ」はそんなに単純な話ではなかったのだ‥‥。この作品には多くの人が過ごしてたきた日々のこと、抱いたことのある感情のこと、そんなものが詰まっていた。

僕は昨日、エレパレを観終えてからエレパレのことしか考えられない。それくらいインパクトがある作品だった。なんなんだ‥この気持ちは‥!観終わったあと、必ず何かを心に抱くはずです。きっと自分の中の何かと結びつくはずです。2時間超えの長い作品ですが、とにかく多くの人達に観て欲しい作品です。

ここからネタバレ注意!!観ていない方は引き返してください!!





 




「エレパレ」を観始めた時は、単純なスクールカーストの話だと思った。まず空気階段の鈴木もぐらさん、オズワルド、ガーリィレコードチャンネル、遊佐亮二さんの当時「エレパレ」に属していなかった人達が登場し、「エレパレ」が何だったのかを証言を取ってもらう

・飲みサークル・セックスサークル的なものだと思っていた

・俺たちがルールだ、的な連中が集まっていた

・Tシャツを作り力を誇示していた

・エレパレメンバーは挨拶をしてこない

・同期の女の子達にファンクラブがあった

・ただのイケてる連中を集めた集団だと思ったが、「ゲオルギー」という17期生の中でも屈指の実力者コンビもメンバーに居た

・テーマソングがあった

・卒業公演の前にNSC近くのデニーズでトラブルを起こしたNSC生数名が卒業公演に出れなかった。どうやらエレパレメンバーがその中に居たらしい

などの沢山の証言が飛び出してくる。とりあえずみんな「エレパレ」を認知しており、また少なくともプラスの感情を持っていない。遊佐さんに至っては「エレパレのことは大嫌いだった」と言い切っている。

ここまで観て、やはり「エレパレ」はスクールカーストの上位の連中が作った集団で、下位の人達から憎まれている存在‥そういった単純な構図をあばく映画だと思っていた。

しかし、エレパレメンバーのインタビューから作品は違った側面を見せ始める。

侍スライス(エレパレメンバーで唯一当時と同じコンビで活動)、ラフレクランきょんさん(当時組んでいたコンビ名はオリオンステーション)、ワラバランス宮崎さん(当時組んでいたコンビ名はグランドハント)、吉川きっちょむさん(元ゲオルギー)、山脇わきこさん(今は構成作家)らがエレパレとは何だったのかを証言する。

リーダーだったのはグランドハントの仲嶺さん。どうやら彼がメンバーを勧誘していたらしい。NSCはクラス分けされており、彼らの多くは6組だった。無理やり加入させられた形のゲオルギーだけは、エレパレを強く嫌悪していたことが伺えるものの、他のエレパレメンバーはエレパレを「輝かしい青春の想い出」として語っていた。

侍スライスの二人は中卒だった、リーダーの仲嶺さんとサブリーダー的な存在の宮崎さんはどちらかというと友人が少なかったタイプ‥そんな彼らがキラキラした体験をしたい、そんな思いで作ったのが「エレパレ」だった。

NSC在籍時はカースト上位にいた彼らだが、その存在はNSCを飛び越え芸人間の間で有名になっていたそうである。ここで彼らの立場は危ういものとなる。先輩芸人からの迫害的なものがあったそうだ。「お前ら変な団体を作ってイキってたんだろ」というものだ。そこからエレパレは崩れ去り、いつしか誰も口にしなくなった‥。

しかしそれでもエレパレメンバーにとっては輝かしい思い出なのである。エレパレに属していなかった生徒から見たエレパレ、エレパレメンバーから見たエレパレ、どちらも嘘偽りない実態なのだと思う。

ここから少し自分の話になりますが‥僕は所謂「スクールカースト」というものにおいて、上位でも下位でもなかったと思う‥自分では真ん中にいたと思っている。ただ高校の頃はやや下位よりかな‥?そこそこ勉強していたし(これは身を守るためでもあった)、そこから明るく振る舞っていたし(これも身を守るため)、音楽もロックを好んで聴いていてオタクというよりは通なやつという扱いであり、そういうのが合わさった結果、何となく真ん中に行ったのかもしれない。

ただそれでも思想的には所謂スクールカーストの「下位」にいる人達と同じであったと思う。僕もクラスで我が物顔をして騒いでいる連中がハッキリ言って嫌いだったし、気質としてはオタクだったので、ハッキリ仲間に入れて貰えていた訳ではないが「下位」と呼ばれる人達と話している方が気楽だった(ちなみにここで言う上位や下位はあくまでスクールカーストのお話であり、どちらが優れているとかそういうことではないです。念の為)

なので、空気階段やオズワルドやガーリィレコードの証言を聴いて「やっぱりエレパレはいけ好かない野郎だ!」(というか事実彼らにとってはそうだった)と決めてかかったのだが、エレパレのメンバー(ゲオルギー以外)があまりにもキラキラした思い出として語るので、そういった思いは消えて、むしろエレパレの人達がどんどん好きになっていった。


きっと僕のクラスにいたスクールカースト上位の人達もちゃんと話してみれば悪い人達ではなかったはず。視点や立場が変われば、当然そのものも見え方や感じ方が変わってくる。エレパレを観ていて、自分の苦い青春が蘇ってきて、思わずワーッとなった。あの頃は色々と悪だと決めつけていたもの、そのものにも違った側面があったのではないかと。自分の学生生活もこんな風に俯瞰で見ることが出来たら、もっと楽しかったのかもしれない。そういう見せ方の上手さがエレパレの素晴らしところ。


エレパレ本編のお話に戻ると、物語の途中から当時「ロッキングサン」というコンビを組んでいた現:ラフレクランの西村さんの名前が登場する。エレパレ外のメンバーは「エレパレの影のリーダーは西村」と口々に証言をする。しかしTシャツにはロッキングサンの名前がない。エレパレメンバーに西村さんのことを聴いても何故か口ごもる‥ここからまた物語は違った側面を見せ始める。まるで芥川龍之介の「藪の中」のような‥。


スクールカースト&キラキラした青春、ここに今度はミステリー要素が加わる。何だこの作品は‥!超一流のドキュメンタリーであり、ミステリーであり、群像劇なのである。西村さんとエレパレの関係性とは?結末まで書くのは野暮‥というかウワーッとなってしまい自分の中でうまくまとめられないのでここには書きません。とにかく凄いの一言です。ニューヨークと西村さんのやり取りを何度も繰り返して観てしまった。

あとこの作品の素晴らしいところは何度も名前が出てきて、作品全体に強い影響力を持っている「仲嶺」という人物が最後まで全く登場しないところ。まるで「桐島、部活やめるってよ」のようじゃないか‥!既に芸人を引退して業界にもいない彼とは連絡がつかないからだろうけど、彼が出てこないことが物語に更に深みを与えていると思う。

最後にエレパレメンバーにもそうでなかった人達にも「あなたにとってエレパレとは?」と監督が聴く。ここが本当に良かった。観終わった人達なら、「エレパレ」がどこにでも存在しえるということがわかると思う。

最後にニューヨークの屋敷さんが「青春やったな」と言う言葉で締める。正にそんな作品。エレパレとは青春そのものなんだな‥と。みんなもきっと「エレパレ」的なものを経験してきたはず。観た人みんなに「あなたにとってエレパレとは?」と質問したい気分です。

出演しているのが芸人さんということもあり笑えるところが沢山あるし、それでいてホロリとするところもある。監督の奥田さんの編集が本当に素晴らしくて、エレパレが何なのかどんどんわかる展開が良かった。ニューヨークの二人の切り口も最高で、ワラバランスの宮崎さんを手玉に取るシーンは絶品だった。ニューヨークの二人の意地悪な部分とダサくて熱い奴らが大好きな部分が存分に発揮されていると思う。


作中、頻繁に歌われるエレパレの歌。作中でエレパレメンバーが歌うところでは笑っちゃったんだけど、エンディングで平林純さんが歌うバージョンを聴いた時は泣いてしまった。僕にとってのエレパレってなんだろう。来年はそれが何だったのか、何なのかを見つける一年にしても良いかもしれない。


お前らがいるから笑顔になれる、ザ・エレクトリカルパレーズ


※ニューヨークが(たぶん)初めてエレパレに言及した回





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