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感想文「いぬじにはゆるさない」

感想文書きます(^^)

「いぬじにはゆるさない」
ふたごやこうめさんの処女作で、すでに発表から数年たっている作品です。

 多少のネタばれも含みますので、この感想文をお読みになる方は、必ず全15話をお読みになってからにしてください。


 さてさて、この作品。
 主人公の女性が二人の男性から好意を寄せられる、そして主人公もどちらにも魅力を感じているという、恋愛未満の状態を巧みに、そしてさらっと描いた素敵な作品です。
 主人公を軸にして、イイジマくんとヘビちゃんという二人の男性のプロットが別々に進んでいくのですが、このような構造の小説は、読者側では、ん?どっち?となることがあるのに、イイジマくんとヘビちゃんにはそれぞれ無理なく個性を待たせているので、自然に読み進めることができます。
 物語の軸となる三人の登場人物は20代後半、それぞれ何かしらの理由で恋に不器用になってしまっています。そのあたりも主人公以外は具体的なエピソードを加えず展開していきます。作者の書かずに読ませる小説技法が、第一章から随所にちりばめられていて、このあたりは、本当に処女作なの?と思わせるほどです。
 私も含めて、小説を書こう!書きたい!書いた!ことがある方ならお分かりになると思いますが、最初の作品は、伝えたい、書きたい気持ちが強すぎて、どうしてもプロットとともに何かしら説明的な文章を書いてしまいがちです。しかし、こうめさんはそのあたりの抜き具合というか、説明せずに読者へすっとゆだねるのが本当にお上手だと思います。
 特に、第13話の「脱皮」から第14話「蛍」への流れはこの小説のなかの最も見せ場でありながら、主人公がヘビちゃんへ問い詰めますが、ヘビちゃん側からの答えが、具体的に記述されていません。
 そして、14話で読者はその内容を、推して知る形になります。
 こうめさんは、ここの章ではこんなことを主人公に言わせています。『なのに、彼の心の中にある一番繊細で柔らかい部分を無理矢理剥き出しにして、不用意に外気に晒(さら)してしまった。それも、ただ私の答え合わせという自己満足のために。』
 この一文で、見事にへびちゃんという登場人物の繊細な部分を逆に読者に晒すことなく、物語りを進展させています。
 もう、僕は、ここを読んだ瞬間に、いい意味でやられた!っという感じです。
 こうめさんのあとがきにもありますが、ここはドロドロの展開にする予定だったそうです。書く側としてはなかなか熱量が必要で、どうしてもカットしにくい文章になると思うのですが、ここもこうめさんは「うまく仕上がらなかったので変更しました」とあっさり言ってのけてます(笑)。
 このあたりからも、こうめさんがこの小説の全体の構成を意識して書かれているのがうかがえます。
 そしてこの作品のタイトル「いぬじにはゆるさない」は平仮名で書かれています。もし「犬死は許さない」だったらどんなドロドロ?と思うところもひらがなで書かれることによって、この小説の立ち位置を表していると思います。
 今回は、小説として構造を感想文にしてみましたが、各章にステキなセリフや、うん!と頷ける言葉が、読者にスッと無理なく読ませてくれる、素敵な作品です。ただ、あえてここではそこは抜き取らず、ぜひみなさんにこの作品を読んでいただき、見つけていただければと思います。

 読者を引き込む、さらりとした書き手。
 他のジャンルの作品はどんな風に書かれているのか、僕にはとても気になる作家さんです。

うんわぐっくスケキヨ

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