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痰、湿と豊隆

インフルエンサーに憧れています!

我々の界隈でいうと、《○○にはこのツボ!》なんて何を根拠にしているのか分からない情報を発信して素人からチヤホヤされて、堪りませんね。

私もそんなインフルエンサーに成るために、これからの時期(春頃から書き始めていました)湿気や痰に対して、鍼灸師や養生指導士の大先生たちが取り上げるであろう豊隆について調べ、一手先により詳しい情報を発信してバズってやろうという目論見です。ガハハ。

下記は黄竹齋の経穴の本(たぶん)から抜粋しており原本とは違う記載が多々あります。
心優しい先生からのご指摘お待ちしております。

豊隆

甲乙:厥頭痛。面浮腫。煩心狂見鬼。善笑不休。発於外有所大喜。喉痺不能言。豊隆主之。
千金:豊隆主胸痛如刺。腹若刄切痛。主四肢腫。身重。主風逆四肢腫。身溼。主狂妄行。登高而歌。棄衣而走。主厥逆足卒青。痛如刺。腹若刀切之狀。大便難。煩心狂見鬼。好笑。面四肢卒腫。
太乙歌:兼上脘。刺心疼嘔吐。傷寒吐蚘。玉龍歌:兼肺兪。治痰嗽。合湧泉関元。可治屍労。
摘英集:風痰頭痛。刺豊隆二穴。針入三分。灸三壯。
百症賦:兼強間。治頭痛難禁。
医学綱目:風痰頭痛。豊隆五分。灸亦得。諸痰為病。頭風喘嗽。一切痰飲。取豊隆中脘。

ここで見る限りは明確に痰という記載があるのは玉龍歌からなんですね。肺兪と併せて痰嗽に使われていたと。

そこから風痰頭痛にも使えるとなり、そして医学綱目は急にどうしたのでしょうか。
諸痰為病。一切痰飲。は急に言い過ぎではない?未来では痰といえば豊隆になっちゃってるけど、そのことについて楼英はどう思う?

さて痰の記載はありましたが、これは豊隆だけのものなのでしょうか。
胃経の他の経穴も確認してみましょう。

まずはすぐ近くの条口から、臨床で豊隆と条口を区別してるやついる?

いねぇよな!!?

条口

甲乙:脛痛足緩失履。溼痺足下熱。不能久立。条口主之。
千金:条口主膝股腫。胻痠転筋。
外台:条口主脛寒不得臥。
天星秘穴:兼衝陽絶骨。治足緩難行。
図翼:主治足膝麻木。寒痠腫痛。趺腫転筋。溼痺足下熱。足緩不収。不能久立。

湿はあるけれど、痰の記載はないですね。
というか情報量が少ない…もしや昔の人も豊隆と条口を分けてなかったのでは…?

巨虚上廉

甲乙:風水膝腫。巨虚上廉主之。胸脇搘満。悪聞人声與木音。巨虚上廉主之。腹中雷鳴。気常衝胸。喘不能久立。邪在大腸也。刺肓之原。巨虚上廉三里。大腸有熱。腸鳴腹満。挟臍痛。食不化。喘不能久立。巨虚上廉主之。狂妄走。善欠。巨虚上廉主之。飱泄大腸痛。巨虚上廉主之。
千金:脚気灸法。第六上廉穴。在下廉上一寸。亦附脛骨外是。灸之百壮。治虚労冷。骨節疼痛無力方。灸上廉七十壮。三里下三寸是。
外台:作療骨髄冷痛疼灸法。
銅人:上廉。甄權云治臓気不足。偏風腲腿。手足不仁。可灸以年爲壮。
李東垣曰。脾胃虚弱。溼胃汙泄。妨食。三里気街出血。不愈於上廉出血。

条口よりは記載が多いですが似たようなものが多く、痰は無し。

巨虚下廉

甲乙:少腹痛泄出糜。次指間熱。若脈陥。寒熱身痛。唇渇不乾。汗出毛髪焦。脫肉少気。内有熱。不欲動揺。泄膿血。腰引少腹痛。暴驚狂言非常。巨虚下廉主之。乳癰驚痺。脛重足跗不収跟痛。巨虚下廉主之。
千金:脚気灸法。第七下廉穴。在上廉下一夫。一云。附脛骨外是。灸之百壮。労冷気逆転筋。脛骨痛不可忍。灸屈膝下廉横筋上三壮。

下巨虚も無し…
千金は脚気の話ばっかりしてる。ビタミンB1とれ!

足三里

甲乙:気在於腸胃者。取之足太陰陽明。不下者取之三里。熱病先頭重額痛。煩悶身熱。熱爭則腰痛不可以俛仰。胸満兩頷痛甚。善泄饑不欲食。善噫熱中。足淸腹脹。食不可。善嘔泄。有膿血。若嘔無所出。先取三里。後取太白章門主之。陽厥悽悽而寒。少腹堅。頭痛脛股腹痛。消中。小便不利善嘔。三里主之。狂歌妄言怒。悪人與火。罵詈。三里主之。痙身反折口噤。喉痺不能語。三里主之。五臓六腑之脹。皆取三里。三里者股之要穴也。水腹脹皮腫。三里主之。邪在膽。逆在胃。膽液泄則口苦。胃気逆則嘔苦汁。故曰嘔膽取三里。以下胃逆。則刺足少陽血絡以閉膽逆。調其虚実。以去其邪。腸中寒。脹満善噫。聞食臭胃気不足。腸鳴腹痛。泄食不化。心下脹。三里主之。少腹膽痛。不得小便。邪在三焦約。取之足太陽大絡。視其結絡脈。與厥陰小結絡而血者。腫上及胃脘。取三里。霍乱遺失気。三里主之。陰気不足。熱中消穀善飢。腹熱身煩狂言。三里主之。胸中瘀血。胸脇搘満。鬲痛不能久立。膝痿寒。三里主之。乳癰有熱。三里主之。
脈経:寸口脈渋。是胃気不足。宜養調和飲食。針三里補之。
千金:凡脚気初得。如覚脚悪。便灸三里。及絶骨各一処。三里穴在膝頭骨節一夫。附脛骨外是。一云。在膝頭骨節下三寸。人長短大小當以病人手夫度取。灸之百壮。邪病大喚罵走遠。三里主之。胃中熱病。灸三里三十壮。穴在膝下三寸。三里内庭。治肚腹病妙。三里。凡此等疾。皆灸刺之。多至五百壮。少至二三百壮。
銅人:三里。治胃中寒。心腹脹満。胃気不足。聞食臭腸鳴腹痛。食不化。秦承視云。諸病皆治。食気水気。蟲毒痃癖。四肢腫満。膝䯒痠痛。目不明。華佗云。療五労羸痩。七傷虚乏。胸中瘀血。乳癰。可灸三壮。針入五分。
図翼:一傳心疼者。灸此穴。及承山立愈。以其中有瘀血。故瀉此則愈。
景岳全書:足三里灸之可令火気下降明目。
神農経:治心腹脹満。胃気不足。飲食不化。痃癖気塊。吐血腹内諸疾。五労七傷。灸七壮。
太乙歌:兼束骨。刺治項強腫痛。體重腰癱。
玉龍賦:兼絶骨三陰交。能治連延脚気。又治心悸虚煩。兼水分陰交。蟲脹宜刺。合太衝中封。治行歩艱楚。
百症賦:兼陰交。治中邪霍乱。
霊光賦:治気上壅。兼陽陵泉陰陵泉申脈照海。治脚気及在腰之疾。
席宏賦;治手足上下疾。亦治食癖気塊。虚喘宜尋三里中。胃中有積刺璇璣。此穴功亦多。気海専治五淋。又須針三里。治耳内蝉鳴。腰欲折。須兼五会補瀉之始妙。若針肩井須三里。不刺之時気未調。治腰連胯痛。治脚腫脚痛。須兼懸鐘陽陵泉陰陵泉三陰交太衝行気。並治指頭麻木。腕骨腿疼。瀉此穴。兼風府針度浅深。更尋三里。治膀胱気未散。
通玄賦:能除五労之羸痩。又治冷痺。
天星秘訣:耳鳴腰痛。先五会後耳門三里。胃停宿食。後尋三里起璇璣。兼二間。治牙疼頭痛。並喉痺。兼期門。治傷寒過経出汗。
四総穴:肚腹三里留。
天星十二穴:三里膝眼下。三寸両筋間。能除心脇痛。腹脹胃中寒。腸鳴並泄瀉。腿腫膝脛痠。傷寒羸痩損。気蠱及諸般。年過三旬後。針灸眼光全。

足三里なっげえぇぇぇえぇ!!!!!
これのせいで数ヶ月やる気がなくなってしまいました。
これでもいくつか端折ったけど足三里使い過ぎ!痰の記載は無いし、同じようなことしか書いてないし!

いやいや、これで足三里が如何に大事な経穴かということが分かりますね。


これ以上の引用は面倒なので、今回の本から分かったことは痰=豊隆は明の時代に医学綱目によって定着して、それ以外の経穴には明確な記載は無いと言えそうです。

医学綱目で豊隆がどういった書かれ方をしているのかは今後の課題とします。


そして残念ながらこれでは有象無象の養生指導士みたいな発信しかできないので、インフルエンサーの夢は一旦諦めます。ギャフン。


【余談】

教科書では胃経の是動病として書かれている主狂妄行。登高而歌。棄衣而走。悪聞人声與木音。というような症状が豊隆以外に上巨虚、下巨虚、三里にも記載されていました。

引用した本では、同様の症状の記載があるのは胃経の他の経穴では千金で地倉と天枢だけでした。
どうやら精神疾患に対しての経穴が胃経では下腿に集中しています。

これは何故でしょうか…?

長年鍼灸古典の研究をしている私はこれに一つの仮説を立てました。

本来であれば有料の情報ですが、今回は初noteということで特別に無料公開します!


今より数千年前…

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あ!あんな所に服を脱いで高いところで唄っている人がいる!
あと政府の陰謀がどうとか、ワクチンがなんだかんだと騒いでいるぞ!


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うっせぇんだよ!!!!!


ドサッ

やったー!高いところから降ろして静かにすることができたぞ!


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もしかしたら脛の辺りを刺激すると高い所で喧しい人を静かにできるのではないか!?
これを記録しておいたら未来の人がもっと詳しく研究して適切な刺激の場所が分かるかも知れない!そうなると良いなあ!


というようなことがキッカケとなり、ここから長い年月を経て今のような経穴の主治ができあがったという仮説です。

こういった先達の研鑽の上で成り立っていると思うと、古典の1ページ1ページがより味わい深くなりますね。

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