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音に残る思い出

舌足らずで鼻にかかった、甘ったるい歌声が祖母の部屋から聴こえてくる。

その歌声は、年季の入った黒い大きなラジカセから流れてきていた。

96歳の祖母は、それもまた長い年月そこにあるラタンのソファーにゆったりと腰掛け、窓の外の今はもう作り手のいない田んぼの向こうを眺めている。


二人の兄と私、3人兄弟の幼い歌声が収まったカセットテープは、お菓子の空き箱にぎっしりと並んでいる。
祖母はそれをたまに取り出しては、当時の思い出話を聞かせてくれる。
高校卒業後に実家を離れてから、年に数回実家に帰省した時、祖母と過ごすこのまったりとしたゆるやかな時間が私はとても好きだった。



音声というのは不思議なもので、その頃の情景や空気感を呼び起こす。

自分の幼い頃の記録として実家に残っているものは、写真とこのカセットテープだ。
私が生まれた頃は、家庭用ビデオカメラが普及した時代ではあったが、我が家にホームビデオを撮る習慣はなかった。

今はスマートフォンでも簡単に鮮明に映像を残す事ができる時代になった。
私自身、娘達が生まれてから何千枚もの写真や動画がスマートフォンの中に増え続けている。
そこにはその時の様子がありのままに記録されている。


カセットテープに残された音声は、今の映像のような鮮明な記録とは違う。

音声のみから思い起こされる記憶には、間違いや思いこみ、すり替わったものなどもあるのかもしれない。
でもそこには何か、音声だけの情報だからこそ、自分の深い記憶を辿って蘇ってくる思い出があるように私は感じている。


いつも何かあるごとに、いや何かなくても、二人の娘たちの写真や動画を撮っているのだが、これからはボイスメモ機能も使って娘たちとの思い出を残していこうと思い、この記事を書いている。

皆さんの思い出の残し方にはどんな方法がありますか?




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