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恋人が死のうとした話

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11月12日 恋人が死のうとした日 わたしのほうが死にてえよ 母は偉大 長い一日が終わる カラフルといぶし銀
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2024年2月の記事一覧

長い一日が終わる【恋人が死のうとした④】

長い一日が終わる【恋人が死のうとした④】

スマートウォッチの振動で目が覚めた。

彼の母親からの着信だった。
時刻は午後7時半過ぎ。3時間ほど眠っていたらしい。
彼の母と弟くんが新幹線で名古屋に着いたようだった。
そういえば、どこで会うのか決めていない。家は論外だ。でも、支えがないと歩けない彼は近場でないと無理だろう。
「どうする?」と同じく寝起きの彼を振り返ると、いまだ薬が抜けきってはいない様子だった。それでも彼自身で家のそばのカフェに

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母は偉大【恋人が死のうとした③】

母は偉大【恋人が死のうとした③】

土曜日の昼過ぎの病院で、わたしは売店に急いだ。

彼の靴を持ってきていなかった。救急車で運ばれたのだから、履いているわけがないのに。衣類を取りに帰った時に持ってくるべきだったのだ。
自分の考えが足りなかったことが悔しい。
どう見ても100均で売ってそうなスリッパを1000円で購入した。

高い。

彼が生きているからこその出費だから惜しいと思ってはいけないのにもったいないと思ってしまった。

先ほ

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わたしのほうが死にてえよ【恋人が死のうとした②】

わたしのほうが死にてえよ【恋人が死のうとした②】

病院内は静かだった。

そもそも普段病院に行かない上、ここが初めて来る病院だから普段の喧騒をよく知らないが。
今日が土曜日で救急対応のみというのも関係があるだろう。

目の前を中学生くらいの女の子が腕に包帯をして通る。体操着だった。部活中に怪我をしてしまったらしい。付き添いで祖父母や顧問の先生もいた。当事者たちからしたら大変だろうが、なんとなく微笑ましく思えた。
それは、制服の警察官2人に挟まれた

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