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4/20実装G.R.A.D.浅倉透編を読む

 ご機嫌いかがであろうか。拙者はいれぶんと申す者でござる。こちらは4/20に実装されたG.R.A.D.浅倉透編の感想文兼怪文書となる記事です。以下注意点です。

・記事というよりかはただの自分用の感想まとめなのでいろいろ話が飛躍してる気がします。
・コミュ内容のネタバレを含みます。さらに今までのノクチル全体のコミュの内容を前提としつつ絡めるのでさらにネタバレと妄想が飛躍します。お気を付けください。
・私個人の好意的・拡大解釈および誇大妄想を含みますが、それらを押し付ける意図のものでありません。むしろ自分の考えとの違いを発見してより幅の広い解釈を見せてくれ…。
・ゲーム内プロデューサーのことは名前が分からんので「シャニP」と呼称します。

では以下本文となります。

オープニング「鼓動」

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 さて、いきなりなぜかラムサール条約の説明を透が読み上げているところから始まります。何???もうこの時点で脳負荷大き目のヤバいのがくると確信させてきます。いきなりとばしてくるなあ~透〜。
 何やら透は学校の方のクラスでの研究発表会みたいなものの発表役を任されたようですが、それを「ナレーションの仕事」なんていうものだからシャニPは透に直接ナレーションの仕事が来たのかと勘違いしてしまいつつもすぐに誤解は解けています。
 しかし透は「これはギャラを貰ってるから仕事」であると言います。どうやら、透的には偉いと思っている学年で(学力的にという意味かな?)2番目のクラスの委員の人から、このナレーションの仕事料として300円もらったらしく、それに応えようということでしょう。偉いね。

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 一方でシャニPは「G.R.A.D.のことも忘れないで欲しい」ということも伝えます。シャニPとしてはあくまでアイドルとしての浅倉透を導いていかなければならない存在なので、たとえ少し説教ぽくなるにしてもそういう風に注意を促すのは当然のことですし、シャニPらしく優しく促しています。しかし、透はそのシャニPの言葉に一応にも首肯しつつも、透の胸に去来していたのはアイドルとしてのステージの事だけでなく、学校の教室での何事かもまた同じように思い起こされていたような描写が挟まれます。
 そして透は「ミジンコにも血はあるのかな、心臓があるのかな」という問いを急にシャニPに投げかけます。始まったぞ浅倉節が…!当然シャニPも困惑を隠せませんし、そんなことは考えたこともなかったのか問いに答えられません。まあミジンコのことなんて知らなくても仕方ないですけどね。

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 そんな様子を見た透は何か思ったか、それも気を遣ったか、「うんって言ったよ」「ちゃんとやるから」と言ってシャニPの回答を待たず会話を終了します。これまでもシャニPに意図の伝わり辛い対話を投げかけてきたことは数多いのですが、透の方からこういう風に対話を切り上げたのはほとんどないことのように思います。何とも心に冷たい風が吹きました。この諦めに近いような透の態度はW.I.N.G編で突如失踪したことと似た雰囲気を感じます。きっと何か透はまた何かを抱えているし、この段階でシャニPはそれに気づけていなさそうです。

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 そして透は帰り道、いつもの河原のあたりで「もしあるんだったら」「ドキドキしてるか、ミジンコ」と空に向かって問いかけています。これは【ハウ・アー・UFO】で「人工衛星」に対して「遠くへ行きたいか、それともそのままが良いか」と問いかけていたことと重なります。それを重ねて考えるなら、透はその「心臓があるかどうか、血が通ってるのかわからないミジンコ」という存在に己を重ね合わせ、何かを思っているということになるでしょう。透の抱えている思いはいったい…。そんな幕開けです。
 ここでもう思い出している方も多いでしょうが、「ミジンコ」というのは「海へ出るつもりじゃなかったし」の第5話「ココア、説教、ミジンコ」で登場している言葉となります。伏線だったのか…。とにかく「ミジンコ」という存在は大事なものでありそうですね。

シーズン1コミュ「携帯が鳴ってる」

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 1つ目のコミュは、何やらシャニPのもとにはづきさんから「確認して欲しい」という言葉と共になにかのリンクが送られてきたことと同時に、透が例の発表会のナレーションの仕事をクラスの委員長から任された時の回想が挟み込まれる描写から始まります。
 その送られてきたリンクとは、ツイスタ(向こうの世界のSNS)のリンクだったようですが、そこには少し前のイベントで共演した大物DJの写真の後ろに赤ジャージを着てピースして写り込んでいた透が居ました。しかもその人のことを透は誰だか認識していません。透お前…怖いもの知らずだな…。流石。

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 そんないつものように気の抜けた感じの透ですが、どうやら世間はそうではなかったようです。『後ろ誰、めちゃくちゃ可愛い』『奇跡の赤ジャー』、そんな言葉がネットでは飛び交います。そうしているうちに一切使っていない、いまだ一言も発していない透個人のツイスタのアカウントのフォロワーも爆増します。透はただ有名人の写真の後ろに写り込んだというただそれだけで一躍有名人になってしまったようです。
 ただこれはアイドルとしては喜ばしいことなので、シャニPとしても様子を見るという形にしました。まあそれはそうですよね、アイドルだって人気商売ですからありがたいことでもあるでしょう。しかし一方の透の方はあまりこの状況に大きく心を動かされているということはなさそうです。うーん。

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 一方、このコミュに挟まれている委員長と透のやり取りを見てみると、やはり透的な価値観が示されているように感じられます。
 クラスの委員長はおずおずと透に話しかけナレーションの仕事を依頼したようですが、「透の雰囲気がとても合うんじゃないか」と思ってお願いしたいと言っています。学年でも勉強の良くできる、透にとって「偉い人」である委員長が自分にそんな大役を任せたいと言ったことに透は驚いているようで、「緊張する」とまで言っています。これは皮肉でもなんでもなく、透は自分のことをそんな役を任せられるような人間ではないと思っています。【途方もない午後】でも自分が持ち上げられていることを良く思っていないような感じを見せてきていました。透はあまり自己評価が高い子であるとは言えません。
 取り敢えず委員長の頼み事を100円で受けることにしています。お金とるんだ…。しかし引き受けてくれる透への委員長のはからいによって300円になりました。冗談チックなやり取りですが、これできっとこの発表は透にとってしっかりとした「仕事」になりましたよね。
 しかしそこで委員長から「透は忙しいだろうからあまり負担がかからないようにする」と言われたことに少し引っかかっています。透は「委員長の方が忙しい」「どうやって学年トップの成績を出してるの」と問います。透にとってはやはりそういう委員長の「ひたむきに頑張る」みたいな姿勢の方が「偉い」ものに感じられるんだと思います。

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 それでも委員長は「アイドルやれる透の方がよほど凄い」と言った感じで、「アイドルってどうやってなるの?」と問い返します。その問いに透は少し動揺が見えます。透は「アイドルになっていないかも」「息をしてるだけ」という風に答えます。ここまでのやり取りを見ても、透自身は「自分はアイドルじゃない、アイドルやれてない」と思っているのに、否応なしに周りが勝手に自分をアイドルにしてしまう状況に強い違和感を覚えているように思います。つまり「息してるだけ」なのに別になろうともしていないような存在になってしまうんですよね。
 このことはおよそ1年前に透が実装されて、まだキャラクターの深堀りが進んでいない段階であるにも関わらず、その表面的な雰囲気によって爆発的な人気を獲得したことと重なりますね。そこまで計算尽くでキャラ作ってるのかシャニマスくん…?(畏怖)まあ私もその雰囲気にあてられた側の人間なので偉そうなことは言えませんが…なんだか透に申し訳なくなってきます。浅いオタクでごめんよ…。

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 ここで、現在のインターネットで話題の人物となってしまった透のほうに話を戻します。透はこのひょんなことで爆発的に話題になってしまった状況を「アイドルみたい」と言いました。これは当然先述の委員長との会話との中で「アイドルになっていないかも」という部分からやってきたもので、この状況になってしまったことに透として何か、もしかしたら「アイドルになる」ということについての答えを得られるような感覚を覚えたのかもしれません。
 また、オープニングでの「ミジンコにも心臓があるのか?」という問いもこれと同じものでしょう。要は、透は「心臓が無いかもしれないミジンコ」で、その「心臓が無い」というのが透にとって「息をしてるだけ」ということなんだろうと思います。透にとって息をしてるだけなのは生きている、「心臓がある」とは言えないのでしょう。
 透の「ミジンコにも心臓があるのか?」という問いは、ミジンコ、そして自分自身が「心臓も無くただ意味も無く息をしているだけの生き物」なのか、「心臓があって、血が通っていて、必死に生きている生き物なのか」という切実な問いであったのだと思います。そして委員長のことを「偉い」と評していることを鑑みれば、透は後者の方こそが良いものであると感じていることは間違いないかなと思います。

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 この透のG.R.A.D.編では上掲の画像のような♡マークの画像が挿入されます。これは今まで述べてきた「心臓」を表すものですが、同時に透が写り込んだ写真についた(あっちの世界でなんていうのかわかりませんが)「いいね」を表すものでもあります。そしてその結果としてフォロワーが増える通知が来ることで、透の携帯が振動するということを透の心臓の高鳴りと重ねて描写する表現なのでしょう。素晴らし過ぎて感嘆の息が漏れますねこれ。文学じゃん。すげえやシャニマス。
 ここで大切なのは、この♡マークが委員長にナレーションの仕事を任された時の回想と共に挿入されるということです。透は「今の爆発的に知名度が上がった状況」の方を「委員長に仕事を頼まれた時」の方に重ねている、つまり後者の方が透にとって重きを置く出来事になっているという風に取れます。
 おそらく、透は「偉い」と思っている委員長から「透の雰囲気があっているから」と仕事を任せてもらえたことがとても嬉しかったんだと思います。そのことについて「お母さんに報告する」という風にも言っていますが、これも冗談でも何でもないと思います。「海へ出るつもりじゃなかったし」で神社の生中継にみんなと映った時もそうでした。それだけ嬉しいことだったんでしょう。いつもは言葉不足で連絡も怠りがちな透が、わざわざシャニPに「ナレーションの仕事」と言って報告して許可まで取ったということもあわせて、だいぶ気持ちが入っていると思えます。
 なんにしても委員長の存在とこのナレーションの仕事は透の心臓を高鳴らせたものであったと思えるのですが、同時にそんな「偉い人」の委員長ですらも「息してるだけ」の自分を凄いものだという風に捉えているところが見えてしまっていました。もしかしたら「偉い人」の委員長も、透が「アイドルだから」ナレーションの仕事を任せたのかもしれません。でも透は自分が「アイドルやれてる」なんて思えていないのが現状で、委員長からの問いに答えられませんでした。そのため、現在のひょんなことから「アイドルみたい」になってしまった状況を重ねて、ひとつ何か自分で納得のいく答えを見つけようとして透は悩んでしまったのかなと思います。そしてシャニPはまだそんなことに気づけていません。そんなコミュでした。透…。

2つ目のコミュ「息してるだけ」

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 さて、得てして世の中はそういうものでしょうが、透は例の写真の件ですっかり引っ張りだこのようです。そんなてんやわんやの中、透はとあるラジオ番組に出演しています。赤ジャージを着せられて。
 透はラジオであるにも関わらず「ピース」なんてしたり台本の流れを無茶苦茶にしたりして、相変わらずの透のゆるりとした雰囲気でMCにいじられながら良い感じにウケを取っています。そのことにスポンサーも気を良くしていますが、どうにもシャニPはあまり納得がいってないようです。わかる~(高速頷き)。これはなんか違うよね。
 帰りの車内の中、透とシャニPはいつものように軽口を叩いたりしていますが、シャニPは「ここのところ忙しいし、大丈夫か」と透を心配します。さらに、「仕事を無理に受けなくてもいい」とまで言います。シャニPどうした…?「海へ出るつもりじゃなかったし」の時、仕事にちゃんと向き合えと言った時とは全然違うじゃないか…と感じてしまいます。つい先ほどのラジオの仕事の時のシャニPの感じを見るに、シャニPは今の透の状況に何か納得のいかないものを感じてしまっています。
 そんなシャニPの気持ちを敏感に感じ取ってしまっのか、透は少しムッとして「仕事受けないほうが良いのか」と返します。この言葉だけでも、透は仕事にかなり打ち込んでいることが分かり、これまでの仕事に対して緩い雰囲気の透とは違うものを感じます。一方でシャニPは「仕事を頑張りすぎてもストレスになる」「透の気持ちが大事なんだ」なんて言いながら透のことを気遣って見せますが、透はあまり納得している感じではありません。まあそういうことを言って欲しいわけではないでしょう。

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 後日透は撮影の仕事があったようでシャニPも同席していますが、そこで舞台監督は「あの赤ジャージの子」と言います。やはりそういう部分がシャニPは引っかかるようで、「そのうち熱も引いて行くだろうし、マイペースにやっていけたらいい」なんて言います。舞台監督には「欲が無いなあ」なんて言われてますが、この言葉にはむしろ「早く熱が引いて欲しい」という感情がシャニPにある感じがします。一方で舞台監督は「つかむ子はつかむんじゃないですか」と言います。うーむ…。

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 そんなやり取りの中でシャニPの脳裏にあったのは、先程のシャニPとの車内でのやり取りの中での続きのようですが、透は「自分はそんな風に心配されるほど頑張ってない」「(委員長が)学年で2番目になるために頑張るのは凄いしんどいって言ってた」と言います。そして「そういうのが(自分には)無いじゃん」「なんか楽勝だから」と言いました。
 前にも述べた通り、やはり透はそういうしんどい思いをしてまで頑張る委員長のことを「偉い」と思っていて、自分がそんな思いもすることなく委員長が「凄いことだ」と評するアイドルをやれてしまっていることが腑に落ちていないんだと感じられます。透の「そういうのが無い」というのは先述の「心臓が無い」ということとも重なります。その納得のいかない部分に対する答えを、「自分には心臓があるのか」という問いに対する答えを、この急に忙しくなったアイドルとしての活動の中で無理矢理にでも見つけようと思っているのかもしれません。透は外から見て取れるより遥かに性急に答えを出そうとしているのだと思います。

 その性急さからくる不和の表れが一連の流れにおける「赤ジャージ」なんだと思います。これまで書いてきた記事なんかでも触れていますが、透はよく青や緑系の服を着ているし、カードのイラストも青緑な色をしていることが多いです。さらには誕生日が「みどりの日」でもあるので、青緑色が透のパーソナルカラーだと思えます。
  ここで「赤」という色を考えてみます。赤という色に対し色相環上で補色関係にある色、つまり「赤の反対の色」というものを考えると、それは「青緑色」になります。赤は青緑と最も遠い色ということで、それはG.R.A.D.編全体のテーマである、少しずつ色が変わっていくという意味での「グラデーション」というものからかけ離れています。青緑がいきなり赤になるのは無理があると言えますし、そういう感覚がシャニPの「マイペースにやっていけたらいい」という言葉に繋がるものだと考えられます。
 しかし透は「赤ジャージの子」であるという現状を受け入れ、その中で答えを見つけ出そうとしています。その結果として、「浅倉透」ではなく「赤ジャージの子」という部分だけが先行して透のイメージに覆い被さってしまっています。ラジオの時、MCに「ラジオなんだからピースなんかしても伝わらないよ~w」なんていじられていましたが、じゃあなぜ赤ジャージを着せて出演させたのでしょう。ピースと同じように赤ジャージもリスナーには見えないはずです。あの時、求められてラジオのブースに来たのは浅倉透ではなく、「赤ジャージの子」でした。
 そう考えると、シャニPにとっても今の透の状況が何か間違っているように感じられるのは間違いないと思いますが、当の透自身がこの状況を「アイドルみたい」と感じて受け入れて、そこに委員長の「偉い」と感じられるようなものと同じ何か、「アイドルってどうやってなるの?」という委員長からの問いへの答えがあるかのように思ってしまっているのが問題です。透は透なりに色々考えているのでしょうが、答えを焦り過ぎています。つい最近まで「透明だった僕たち」だった透にとって、「赤ジャージ」というこの急すぎる変化ではきっと良い形の答えを導けません。なんかいやーな感じがしますよね。助けてシャニP!!早く透の悩みに気づいてあげて!!!

G.R.A.D.予選

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 予算前には、透がシャニPに対して「これで勝ったらすごい?」「偉い?」という質問を投げかけます。当然シャニPは凄いし偉いということを言いますが、透は納得がいっていないようで、まあいいかなんて言ってステージへ向かってしまいます。その背中を見送るシャニPとしてもやはり何か透が抱え込んでいることを察してはいるのでしょうが、どうにも掴みきれていないことを伺わせます。

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 予選を勝ち抜いた透は、同じように自分がすごかったかどうか、自分が頑張ってたのかということをシャニPに聞きます。ここでも当然シャニPは透のことを認めてあげますが、それでもやはり透は納得がいっていないようです。それでも「じゃあいいか」といって何かを諦めたかのように決勝へと駒を進めます。

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 予選を負けた場合は、透にしては珍しく仕事が減ることを心配しています。シャニPはそれでも「透が仕事をしたいというならいくらでも取ってきてやる」と心強い発言をして、透はそれが嬉しそうでもあります。そうして次の仕事への意欲を見せています。そうまでして透が仕事をしたがるというのもやはり今までの透とは違うものを感じられますね。

 透がシャニPに問いかけた「これを勝てたら自分は凄いか?偉いか?頑張ってたと言えるか?」というのは、透は今抱えているものへの答えを強く求めているんだと感じさせます。
 さらに、予選を勝ってしまった時の方が余程納得のいっていないように感じられ何かを諦めているように見えるのは、やはり透が「自分は頑張ってない、しんどい思いをしていないのにまた勝ってしまった」というように感じてしまっているのだろうと思えます。他者からの評価と自分自身への認識の噛み合わなさ、それが透の心を強く苛んでしまっているように見え、この予選を通しても自身の納得のいく答えは出せなかったんだと思わせます。
 そうして苦しんでいる透は、これからも忙しい仕事の中に身を投じてわざわざ「しんどい思い」をしようとしているかのようです。まるでその先に答えがあるかのように。そうすれば「偉い人」になれるとでも言うように。きっとこれは間違っているんですけど、シャニPもまた透に対するうまい答えが出せていません。ぐお〜頑張れシャニP!

3つ目のコミュ「どうしたいのかとか、聞かれても」

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 3つ目のコミュでは、何やら息を切らしている透と、クラスでの発表にあたって委員長と連絡先を交換した回想が挟まれるとともに、透がレッスンを受けている様子が描写されるところから始まります。
 レッスンの最中に透のスマホに着信があり、透はそれを「大事な連絡かもしれないから見ても良いか」という風に言って確認しようとします。この流れから言えば当然、透が「大事な連絡かもしれない」と言ったのは委員長からの連絡を大事なものだと思っているということでしょう。これは単純にクラスでの発表で任された仕事をこなす上でという意味だけで「大事」と言ったのではないと思います。

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 しかし、レッスン中でマナーモードにしておかなければならなかったのにも関わらず、携帯に来た連絡を気にしてしまったことでトレーナーさんの逆鱗に触れてしまいます。トレーナーさんはレッスンの後、シャニPに対し「透は(アイドルやっていくのは、もしくはG.R.A.D.を勝つのが)難しい」「全然何を考えてるかわからない」と言い、その中で「そういうキャラだってチヤホヤされてるんなら、ダンスのスキルなんていらないでしょ」とまで言います。チクチク言葉だぞお前それは!!相当イラついてますよこれ。透はそうじゃないってこっちはわかっているんですが、やはり透の考えていることは良い方向にも悪い方向にも伝わり辛いんでしょう。シャニPは言い訳しながらも取り敢えず頭を下げるしかありません。

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 しかしその後、怒り心頭のトレーナーさんはシャニPに「今日のレッスンは途中で切り上げさせてもらった」「河原コース100周してから出直してこいと言った」と言います。おいおいおい…。冒頭から続いていた透が息を切らしながら走っているのはまさか…?そのまさかですね。透は本当に河原を100周しようとしています。
 このコースが1週どれだけあるのか分かりませんが、単位が河原なんていうどこまでを示すのかよくわからないだだっ広いものであると考えるとおそらく100周走り続けることは現実的なものではありません。でも透はこれを真に受けて実行してしまっています。どうして…透…。

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 透はやっぱり、たとえ自分が「アイドルだから」という理由であってもひとつの仕事を委員長から任されたことは嬉しかったんじゃないでしょうか。「赤いジャージの子」として世間の話題となり、携帯が振動しても特に何でもないような感じだったのに、委員長からの連絡かもしれないと思うと咄嗟に反応し、それを「大事」と言ったのは対照的な表現だと思います。きっと透の心臓を動かしてくれたのは「赤いジャージの子」なんかじゃなくて委員長の方です。
 ここで挟まれている委員長とのやり取りの回想を見てみると、委員長は透に対し「引き受けてくれたことがすごく嬉しい」「クールな感じだから意外だったけど」というようなことを言っています。委員長もまた透に対してレッテル的なイメージを持っているのは間違いないですが、それでも委員長は透に「アイドルとしてではない仕事」を任せようと手を伸ばしてくれました。言うまでもないですが「ナレーションの仕事」というのは人の作った原稿に声を当てる仕事、それはつまり「容姿が関係ない仕事」かつ「発表の主役ではない仕事」です。透はその容姿と振る舞いによって自分が勘違いされていると感じているし、実際それは間違いないんですが、ここで委員長が透に持ってきた仕事はそういう「アイドルとして」の透を主として見せる仕事ではないんですね。あくまでクラスで行う発表の一部に過ぎませんが、それがどうにも透には嬉しいことのようです。この辺を考えると、委員長は必ずしも透が「アイドルだから」という理由だけで仕事を任せたとは言い切れないように思います。もっと奥にある透のことを見てくれていたんじゃないかなあ。そういうところも透にとってはとても嬉しいことですよね、きっと。
 また、委員長が透のことを「クール」と言ったことについて「悪い意味で言ったんじゃない」「勝手に決めつけるようなこと言ってごめん」と謝罪した際、透は「ちゃんとやれってよく言われる」と言いました。おそらく委員長の「クール」ってそういう意味じゃない気もしますが、透にとって「クール」に見られるというのは「何も考えてない、何に対してもやる気がない」ように見えることを意味してしまうのでしょう。我々は透が実際そうじゃないことは知ってるし、なにより透自身が自分はそうじゃないってことを主張したいはずなのに、このG.R.A.D.編で何度も見えたその伝わらないもどかしさが透の心を蝕んでしまっています。

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 そして透は、「委員長から連絡きたら即レスする」「(発表会の仕事を)ちゃんとやる」「委員長みたいにめっちゃ頑張れるかな」と言いました。透は自分がクール、つまり「何も考えてない、ちゃんとやってない」と思われてしまうことに対し、「めっちゃ頑張る、そうしてちゃんとやる」ことで自分を主張できるのではないかと考えたんだと思えます。でもこれまでのG.R.A.D.編でのコミュの中で、その考えが上手く結果に結びついていないのが見えましたね。
 シャニPも自分の考えていることをわかってくれていないし、G.R.A.D.予選はイマイチ手ごたえが無い。どんな仕事もなぜか楽勝に終わる。そんな折にとうとうトレーナーさんから「お前は何も考えていない、やる気がない」というようなことを(直接的ではないにしろ)言われてしまいました。そうして透は「河原100周してこい」という気合を入れなおすための方便を真に受けてしまいました。それこそが「ちゃんとやってる」ということ、自分には「心臓があるんだ」ということを証明できる方法、つまり「めっちゃ頑張る」「しんどい思い」だと考えてしまったのでしょう。その結果がこれ!トレーナーさんの気持ちも分からんではないですが、その発言は相手とタイミングが悪過ぎるだろ…。

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 一方シャニPは透の姿が見えないことを心配して、浅倉家も訪ねています。そこでシャニPは透ママに「どうせぶらぶらしてるんだからほっといてもいい、ごはんまだだったらどう?」なんて言われています。浅倉家オープン過ぎないか?なんて思いつつも、この透ママの発言は、「肉親でさえも透のことを理解してやれていない」というものさえも感じられてしまいます。ただの血の繋がった関係だからこそ許される軽口であろうとも思いますが、現在進行形でとてもじゃないけど「ぶらぶらしてる」なんてものじゃないくらい苦しい思いをして悩んで走り続けている透のことを考えると冷たい言葉に感じてしまいます。
 シャニPはやはり気が気じゃないみたいで、トレーナーさんの「河原100周」という言葉を思い出し「まさかな…」なんて言いつつも河原へ向かいます。シャニPが透のことを見失って探しに出かけるというのはW.I.N.G.編と重なりますよね。いくらシャニPと言えども、あの浅倉透のことはなかなか上手く掴みきれずに見失ってしまいますが、それで諦めたりはしません。早く見つけてあげてくれーーー!!

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 そうしてシャニPが見つけたとき、透は息も絶え絶え、これまでのことを思い返しながら「わかんないわ」と言って倒れ込みます。この時点で日は暮れていますが、それで5週目と言っているので本当に尋常じゃない距離を走り続けていたのでしょう。死ぬ前に見つかってよかった…本当に…。ここの透は冗談じゃなく死にそうで見ててこっちも死ぬかと思いましたよ。一応にもアイマスだぞこれ。ほんと怖いゲームだな。
 しかし透も、このことでこんな極端な考え方で「しんどい思いをすること」が自身に「心臓がある」かどうかを確かめる唯一の方法であるというのは間違っていると分かったはずです。ここまでして息も切れて、心臓に多大な負荷をかけて全身に血が駆け巡っても「わかんないわ」と言っているので。いや、そもそも透だってこんなことをしたって分かるわけないって本当は知っていたかもしれません。きっと透だってそんなに頭が悪くないはずです。でもそれ程までに追い詰められていたのかなあ…なんて思います。ここまで来たらあとはもうどうにかして透にもっと納得のいく道筋を示すほかありません。シャニP頼んだ!俺たちのシャニP!

4つ目のコミュ「息したいだけ」

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 さて、4つ目のコミュでは透やシャニPの様々な回想が映されます。シャニPはこのG.R.A.D.編が始まってからの業界の人々の透を高く評価するような言葉や、透が河原で死にそうな思いをして走っていたことを思い返し、「合ってるのかな、俺」と自問自答しています。シャニPは透が「赤いジャージの子」として話題になって透が売れたこと、そして透がそれを受け入れて仕事をこれまでにないほど意欲を見せていたことに違和感を覚えつつもなあなあにここまでやってきましたが、透の河原100周事件を受けて己の透への向き合い方を改めようとしています。
 透の方は委員長に発表会用の原稿を渡してもらった時のことを思い返しています。そこには「川の水と海の水が混じり合う河口付近は底質が泥であることが多く、そこでは多くの命が育つ」みたいな内容が書かれていますが、透はあんまり意味が分かっていないようです。しかし委員長はそれでも透の読み上げる雰囲気を「ぴったりだ」と言います。ピンと来る方もいるかもしれませんが、ここで出てくる「川の水と海の水が混ざり合う河口付近」というのは「海へ出るつもりじゃなかったし」での「汽水域」のことを思い出しますね。ノクチルのみんなも、シャニPもまた葛藤の狭間にある存在でした。今の状況もきっと同じです。
 そして、そういう「泥」の中に沈めば「名前も無いただのこなごなの命に戻る」という風にも書いてあるようです。ここでの「名前も無い」というのは【途方もない午後】でのTrueコミュの内容とも被ります。透が昔は何者でもない「とーるくん」だったというお話でしたよね。そして、「そういう感じになりたいのか」と透は聞いていますが、これは委員長に向けてでもあり、自分自身に向けた問いでもあるように思えます。

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 そんな感じに思索を巡らしていた透はシャニPと一緒に例のバス停に居ます。事務所に寄るかこのまま帰宅するかとシャニPに聞かれた透は、「どこかに行きたい、湿地とか?」なんて少し投げやりな、何かを諦めている風に言い出します。
 きっと透は自分の悩みに対して答えが出せなかったことで結構落ち込んでいるのですが、シャニPはたどたどしくも「大丈夫か、何か困っていることがあるなら(言ってくれ)」と心配します。すると透は「大丈夫って言ってよ」と反応してきました。これも結構投げやりな態度で、透はシャニPに対して「こっちは上手く自分の気持ちを伝えられなくて全然大丈夫じゃないけど、お前が大丈夫っていうなら大丈夫だからそう言え」と言っているように思います。透はシャニPに理解を求めることすら諦めていて、これはオープニングのコミュでシャニPに対する質問の答えを遮って会話を切り上げたこととも重なります。この辺からも相当思い詰めてたんだろうなって気がします。

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 するとシャニPは何やらどこかへの行き方を調べ始めます。驚く透を横目に「行こう、湿地」と言い出します。来た!これが俺たちのシャニPです。こういう時にシャニPは所謂「分別のある出来た大人」なんかではなくなれるのです。透はトレーナーさんから言われた「河原100周してから出直してこい」なんて方便を真に受けて大変な目に合いましたが、そんなことがあった透がまた無茶苦茶なことを言い出しても分別のある大人として諭し、窘めるなんてことはしないんですね。
 透はここで「湿地に行きたい」なんて言ったことをただの冗談だと伝えています。透は冗談を言ってもよく思わせぶりな態度で誤魔化しますが、ここでわざわざ「冗談だ」なんて自分から言うのは、やはり自分のことが分かってもらえないという自嘲的な思いからくるものかなとも思えます。しかしシャニPはその透の冗談を、当然わざとでしょうが「真に受けた」んですね。つまり、透と同じ目線で、同じようなスタンスで透の悩みに向かい合おうとすることを選びました。今の透を理解するために必要なのは、アイドルのプロデューサーやいい大人としてではなく、未だ若くて不器用な透に目線を合わせて走り出すことだとシャニPは結論が出せたのでしょう。
 そしてもうお気づきでしょうが、先程さらっと書いた通り、ここのやりとりが行われたは「例のバス停」です。そう!つまり「幼少の頃の透を若きシャニPがジャングルジムへ引っ張って見せた(かもしれない)場所」でもあり「高校生になった透がシャニPに出会ってアイドルの世界に飛び出すことになった場所」でもありますね。そしてここで透とシャニPは再度ここをスタート地点として今度は「湿地」へ行こうというのです。このバス停もうグラウンド・ゼロだろ。ともかく、2人はまた道に迷いながらもここに帰ってきて、また新たにスタートしようというのです。良いですね〜もうこの時点で上手くいく予感しかしません。
 そうして2人がたどり着いのは雄大で荘厳な、国際的に保護されるべき美しい「湿地」ーーー。

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 ではありません。そこらの「潟」に来ました。おぉ〜そう来たか!確かにこれもまたひとつの湿地と言っていいのかもしれません。
 ここでこういうやり方が出来るシャニP素晴らし過ぎて頭が下がりますね。透が「湿地に行く」というシャニPの言葉を受けた時に驚いて「冗談だ」と言って制止しようとしたのは、おそらく透にとっての「湿地」が、例えば釧路湿原なんかのような、条約で保護される大きな湿地のイメージだったからだと思います。きっとクラスの発表の内容もそんな感じのテーマでしょう。当然そんなところに今からいきなり行くなんて言われたらそりゃ透でもびっくりしますよね。
 しかし透はこれまでのG.R.A.Dの物語の中で、それこそいきなり遠い湿原に行くかのように、急過ぎる状況の変化の中で答えを見つけ出そうともがき続けて苦しんでいました。これまでの透のコミュからと感じられるところはありますが、透は結構なロマンチストで、目に見えないものや存在の確証がないものだったり、そうそう機会のない事象に眼差しを向けて、そういうものと縁のない(ように思えてしまう)自分の退屈な日々と比して物事を考えがちです。そう考えると、ここで透が「湿地に行きたい」と言ったのも矢張りそういう未知の大きな何かに触れて新たな刺激を得れば何か分かるかもという願いが込められていたのかなと思えますし、そういう願いがこのG.R.A.D.編での透を無理矢理な行動に導いた元凶でもあります。

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 しかしそんな透に対してシャニPが出した答えは「求めていたものと完全に同じじゃないかもしれないけど、意外と身近にも求めているものがあるんだ」ということだと思います。これは今までのノクチル全体の物語でも見えていたやり方で、例えば「天塵」でのショボい花火大会のステージが4人にとって素晴らしいステージになったことや、「海へ出るつもりじゃなかったし」での添え物としての騎馬戦で「ほんとの世界」の片鱗が見えたことと同じです。最初から劇的で大きなものを目指す必要なんてないんだということですね。透、ひいてはノクチルに対して必要なのはこういう小さい一歩でもそれを踏み締めながら前に進むことであるというのがシャニPのスタンスだと思います。そう考えると「マイペースにやっていけたらいい」という言葉は、シャニPに欲が無いから出た言葉というわけではないだろうと言えますね。

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 そうしてシャニPと透は潟で踊る蟹なんかを見つけていて楽しそうですが、透はここでとうとう「走らなくても、踊らなくてもウケる」「全然大変じゃない、自分は息してるだけだ」「(ジャングルジムを)登ってるって気がしてたけど最近分からなくなった」と心情を吐露します。さらに透は「ここ(湿地)は息してるだけで命になって良いな」ということを委員長から受けた「湿地ではたくさんの命の循環が営まれていて、世界中も同じようにそうなっている」という言葉を思い返して話します。
 透にとってやはり自分自身は「息をしているだけ」で、それは「生きている」「命がある」=「頑張っている」とは言えなかったんだと思います。そして委員長とのやり取りを見るに、透の言う「命になる」というのは「次の命に繋がる」ということをも感じさせます。透はそういう命の循環から自分が外れてしまっていると感じていたのかもしれません。自分は何も頑張ることができないし、だからその頑張りを次に繋げることもできない。そういう絶望感から「自分は(ジャングルジムを)登れていない」と感じてしまって、今までの一連の無理へと行動を移してしまったのでしょう。飄々とやっている人のように見えて、実はかなり強い疎外感に苛まれていたんだな…透…。

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 しかし、G.R.A.D.編での透は傍から見ても頑張っていたはずなんです。仕事には打ち込むし、学校での発表の方だって忘れずに取り組んでいたはずなのに、透は「自分に心臓があるかどうか」を他者に確認してもらわないといけないかのように思い込んでしまっていました。予選前でシャニPに「これに勝てたら自分は偉いか?」というようなことを聞いていたのはそのためでしょう。何か他者の目に見える結果を、それこそが「ミジンコの心臓」の存在を確かめる方法だと思ってしまっていたのです。
 そんな透の言葉を受けたシャニPは悩みを完璧に理解したか、「透は頑張りたいんだな」「自分が頑張れているのかどうか、それは透自身が決めていい」と言いました。全く持ってその通り!たったそれだけのシンプルな答えこそが透に必要なものでした。別に誰に確かめてもらわなくても、透には最初から心臓があったはずです。透はきっと思い悩み過ぎていましたね。
 でもそれは自分のこと、自分の在り方を考えてたって言えるし偉いことです。未だに透は何も考えずに顔だけで生きてるなんてネタにされたりしますが、全然そんな事はないですよね。ひとりの人間としてこんなにも思い詰めて悩み続けていたわけですから。
 なんにしても、ここまで来たら後は透が思うように「頑張る」だけです。誰に求められるでもなく、誰の決めた形でもなく、ただ「息したいように息するだけ」ですよね。勝ったなこれは。流石俺たちのシャニPだぜ。

敗者復活戦

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 予選で負けた場合の敗者復活戦ですが、透はいきなり潟にいたカニの話をし始めます。相変わらず何???って感じですけど、予選の時に比べたらいつもの透って感じがして安心します。予選の段階ではやっぱり凄い追い詰められてたんだなって感じがしますよね。
 潟にいた踊るカニは「チゴガニ」と言うらしいですが、どこかのタイミング透はチゴガニの名前をシャニPに教えていて、シャニPがそれを覚えていた事が嬉しそうです。透の学んだこと、伝えたかったことがちゃんとシャニPにも伝わったという端的な表現かと思えます。よかったねえ…。そうして透はチゴガニみたいに踊ってくると言いステージへ向かって行きました。
 因みに余談なんですけど、このチゴガニというカニの似たようなところに住んでいて似たような習性を待つ仲間にコメツキガニというのもいるらしいですよ。なんかどっかにシャニPのことを「コメツキバッタ」と揶揄したアイドルがいたな…?何口何香さんみたいな名前の…なにか関係が…?ふふ、わからん。

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 チゴガニの如く(?)敗者復活戦を勝った透に、シャニPは「生命力があった」と言いました。あの時潟で生き生きと踊っていたカニのように、透は確かに生きていたんです。それを確かめた2人は次のステージへと気持ちを向けます。
 透は次のステージを「湿地の風みたいに踊る」と言いました。来ました、「風」です。透にとって、そしてノクチルにとって「風」は前に進むことを意味する大切なものです。なんかもう勝ち確の感じが凄い!!今の透にはびゅんびゅん吹いてるよ風!!いけー!!!!

G.R.A.D.決勝

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 決勝に臨む透は、「あの時潟に行ってなかったらどうなってたんだろう」と言います。シャニPもまたそれを透に問いますが、透は「わかんない、でも行ってよかった」と答えます。過去や未来を考え過ぎて思い悩むより、あの時思い切って潟に行ったのはやっぱり透にとっていい影響をもたらしたのでしょう。なんにしても一歩踏み出すことが大事というのはノクチル全体に言えるテーマだと思います。

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 そして透は、「自分が走っている時の息の音と、今聞こえる音(G.R.A.D.決勝会場に響くアイドルファンたちの声)が似ている」と言いました。透が死ぬ程しんどい思いをして走り続けた透も、今まさにステージに向かおうとする透も、透のパフォーマンスを待ち望むファンたちも、みんな心臓をどきどきさせてこの世界を生きています。透は決してこの世界の命の輪から外れた存在ではありません。今の透にはそういう「音」が聞こえています。
 そんな透にシャニPは「透の海にはもう命があるんだな」と言います。オサレ発言やめろ。お前まで透みたいなこと言うな。4つ目のコミュでの委員長の言葉の中に「最初は太陽があって植物性プランクトンが生まれてそれをミジンコが食べるの始まり」というくだりがありますが、透の海に最初の生命をもたらした太陽、それは疑いようもなくシャニPですよね。シャニPが…お日様なんだ…。
 そうしてシャニPは透を「いっぱい息してこい」と送り出しました。言うまでも無いでしょうが、これは「海へ出るつもりじゃなかったし」での「いっぱい生きろ」という言葉と完全に重なる発言です。あの言葉が今回の「命」の話に繋がるんですね〜!凄いや。

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 そしてG.R.A.D.を勝ち抜いた透は「終わったし河原に行こう」と言います。いつも通り~!!安心する!!どうやら透はまだ河原100周の残りの10週を走るつもりらしいです。100周走り切る前にこういう風に結果が出たと言ってもいいんでしょうが、「透は頑張ってるよ」というシャニPに対して「あと10周で分かる」と言いました。なんだかこれもすごく透らしいです。また【かっ飛ばし党の逆襲】のように目的と手段がごちゃごちゃになっている気がするんですが、透はこうやって納得しようとします。やっぱりこのG.R.A.D.編での透に必要だったのは自分自身が生きていると納得できることだったと思いますから、先に結果が出ようが何だろうが100周走ると決めた透にはちゃんと最後まで頑張らせてあげたいですよね。きっとシャニPもそう思っているでしょう(希望)。

エンディング「泥の中」

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 エンディングではどうやらシャニPが買ってきた安物の顕微鏡でミジンコを探しているようです。優勝のご褒美でしょうか?安物のせいかあんまりうまくいってないようですが、透はミジンコを見つけようと意気込んでいます。シャニPにも譲りません。小学生みたいだなお前?
 そうこうしているうちに透はミジンコを見つけ、同時にその心臓を確認しました。その心臓は確かに脈打っていて、ドキドキしていました。ミジンコにも心臓があったのです。

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 ここではシャニPの回想のようなものが挟み込まれていますが、そこではトレーナーさんと会話していてすっかり熱も冷めて仕事も落ち着いてしまったという話をしていますが、どこか安心したようでもあります。アイドルのプロデューサーとしてはどうかってところですが、これで良かったですよね。
 その中でシャニPは「透は100周して、彼女自身の心をつかめた」と言いました。当然ここの100周というのは河原でのことでもありますが、きっと透がずっと悩み続けていたことも意味として含むでしょう。しかもそれがいい結果になったと言うことをトレーナーさんに伝えてるのは、頭ごなしに叱ってしまって透が無茶苦茶なことになったことを気に病んでいただろうトレーナーさんへのフォローでもあります。本当にいい男だなお前〜!
 そして「心をつかめた」というのは、2つ目のコミュで舞台監督に言われた「つかむ子はつかむんじゃないですか」という言葉と対応しています。舞台監督が言っていたのは多分これから爆発的に売れるチャンスみたいなものを「つかむ」と言ったんじゃないかなと思いますが、100周した透がつかんだのは己の心、「頑張りたい」「息したい」「生きたい」という心でした。
 それが今の顕微鏡でミジンコの「心」臓を確認した透と重なります。美しい表現だなあ。最初から分かっていたはずなんですけど、ミジンコにも透にも心があったんです。凄い遠回りしたけど、結果としてこれで良かったってシャニPも我々も言えるだろうし、ここのミジンコの心臓を見つけた透の様子こそが何よりもそう言わせてくれます。良かったなあ透(号泣)。

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 次に、シャニPが透の撮影の仕事の時にカメラマンから言われた言葉が回想されます。そのカメラマンは、透について「何をするでもなく全てを飲み込んで輝く、そういう捕食者がいる」という風に言いました。これで色々と繋がります。
 言ってみれば透は食物連鎖の頂点、絶対的な「捕食者」です。「息してるだけ」、何を頑張らなくても仕事が「楽勝」だなんて感じてしまっていたのは透がそういう存在だからですし、そういう部分は今まで何度も見えていました。何を望まなくても勝手に周りが透のことを持ち上げてしまいます。
 ところで、この「息してるだけ」でいろんな命を飲み込んでしまうというのは何かの生物を思い出さないでしょうか?なんとなくクジラって感じしませんか?実は「アジェンダ283」のゴミ拾いをサボっている時、透が見ていた動画はクジラの動画でした。ここに繋がるのか…去年の8月のイベントだぞ…?

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 そんな流れから今度は透の回想に入ります。ここの内容はどうやらクラスの発表会は大成功、金賞を取れたようです。偉い!メンバーが盛り上がる中、委員長は透に感謝を述べています。それを受けた透は本当に嬉しいようです。透は「自分がどんな風に思われてもいい」「ミジンコみたいにどきどきしたい」「自分が命のひとつになって、いつかそれを誰かが食べて、そういうところ(泥の中)にいたい」という思いをシャニPに伝え、コミュは終わります。
 このことが透の望んでいたことの全てでしょう。透が委員長から差し伸べられた手を「大事」と思ったのは、「みんなで作り上げるクラスの発表」、つまり「みんなで精一杯生きて出来るもの」の一部になりたい、そんな「命の循環の一部になりたい」という思いがあったからだと分かります。
 透はやっぱり自分がそういう輪から外れているという強い疎外感がずっとあったんだろうと思えますが、ここで手を伸ばしてくれのが透にとって「偉い人」の委員長でした。そのことがどれだけ透には嬉しかったでしょう。「偉い人」の委員長がその手を伸ばしてくれたことが、透をそういう命の輪の中に引き入れてくれていたんですね。そして透は周りを喰らいつくす孤独な捕食者としてではなく、みんなで作り上げる発表の一部分として仕事をこなしました。透は「そういうところ」に居ることができました。

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 でも、透は本当はそこから外れていたというわけではないですよね。例えばクジラは海の食物連鎖の頂点ですが、いつかは死んでまた海の栄養へと還ります。そういう風に命は「循環」しています。世界中がそうなってるって委員長が言っていました。たとえ透が全てを喰らうクジラであったとしても、その命は次に繋がります。そういうことに気づけたから透は「自分がどんな風に思われてもいい」と言えるようになったのです。食物連鎖の頂点なんて言うとなんだかピラミッド型の一番上に居るみたいな感じがしますが、実際の命はぐるぐると回り続けるものです。
 そう考えると【まわるものについて】のコミュが思い出されます。あのコミュは2人がメリーゴーランドに乗って「自分がシャニPを追いかけているのか、シャニPが自分を追いかけているのかわからないじゃん」というお話でしたが、これは言い換えれば「始点と終点が分からない」状態という風に言えるかと思います。透の言う「泥の中」というのはこれの事でもあるかと思います。「泥の中」は終わった命とこれから始まる命が渾然一体となる場所で、やはりそこは始まりでも終わりでもあり、またそのどちらでもないと言えます。
 メリーゴーランドに乗る2人はどこから始まったとかでもなくずっとぐるぐる回り続けているのですが、G.R.A.D.編の透は河原を100周「まわるもの」になったことでひとつの答えにたどり着けました。それは「この世の全ての命は『まわるもの』で、どんな形であれ自分はその中に居られる。なぜならミジンコにも自分にも心臓があるから」という気づきです。回り続ける命の世界には始まりも終わりも無くて、だからこそ透だってその中に存在していいはずです。始まりのミジンコであるとか、頂点のクジラであるとかなんていうような形にこだわる必要なんて最初からなかったんですね。潟に居る小さな踊るカニみたいだっていいんだ。全てが同じ、心臓のある「命」です。
 「息をしたい」というその心だけあればその命は繋がっていくんだということが理解できた透は、「自分がどんな風に思われていてもいい」と言えるようになりました。それは一見諦めの言葉のように見えます。実際透は答えを見つけることに絶望し、諦めかけていましたが、今はもう違います。自分がどんな形に見られても、自分の海には「頑張りたい」「息したい」「生きたい」と思える命が、ミジンコにもそういう「心臓」があるんだということが分かったからこそそう言えるのです。もし「偉い人」の委員長が自分のことを「クール」だって思っていたとしても、結果として発表は素晴らしいものになって、委員長も喜んで、透自身もそれがとても嬉しかったわけですから。委員長だって透が案外フランクな奴だって気付きましたしね。いっぱい息をすれば、こうして回って結果が返ってくるんです。
 この最後の透からは、これからもそうやってどんな形でも頑張って回り続けるんだという強い決意が滲んで見えるようで、この先も透はきっと大きな海にだって飛び出していけるんだという可能性を感じさせます。透の未来は明るい!!いっぱい息して、いっぱい生きてくれ~~!!透の心臓がどきどきする限り!!きっとそれだけでいいんだ!透!!!

 必要なものは、最善を尽くしながらも、その成果は運命にゆだねるという態度である。
 諦めには二つの種類がある。一つは絶望に根ざしたものであり、もう一つはどのようにしてもおさえることのできない、希望に根ざしたものである。

バートランド・ラッセル「幸福論」より

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感情置き場

 くぅ~疲れました!これにて終了です!透のコミュ難易度高すぎて狂いそう。助けてくれ。だいぶごちゃついた内容になってしまいましたがミジンコの脳の私にはこれが限界です。まだ透のSSRとSR雛菜と残りG.R.A.D.編3人分あるんだぞ?もしかして俺は死ぬのか…?ただなんにしてもこの透のG.R.A.D.編、

最高だろこれ!!!!!!!!

ということです。めっっっっちゃ良かった。今までの浅倉透の物語、ノクチルの物語全集合の年末総決算みたいな内容だったと思います。アベンジャーズかよ。表面的には読み取り辛い透の孤独や悩みをしっかり見せつつ、過去のコミュなんかの内容の要素を綺麗に散りばめながらどこまでも美しい演出や言葉を用いて、最後にはノクチル的な希望が溢れる形にして終わりました。読後感のすばらしさはもはや語り切れません。
 というかエンディングコミュ!ミジンコの心臓を見つけたときの和久井さんの演技が素晴らし過ぎて視界が滲みまくって大変でした。透らしい少ない語彙での訥々とした言葉の中に、透があの時どれほど感動していたのかを完璧に詰め込んでいる素晴らしい演技でもう涙腺はボロボロでした。シナリオの良さや演出の良さも相まって、とんでもなく出来の良いG.R.A.D.編だったなって思います。シャニマスくん天才〜!

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 個人的にこの透のG.R.A.D.編で嬉しかったのは、この物語が「気づき」の物語だったという点です。私はノクチルの輝きを「元からそこにあったものの輝き」であるという風に主張しているのですが、その輝きを知るために必要なのはやはり「気づき」だと思います。
 ミジンコに、透にだって、「心臓」があったなんてことは始めから分かっていたことです。このG.R.A.D.編は、そんな単純なことも透は見失ってしまっていた、でも100周することでその存在に「気づけた」という物語でした。つまりこれは「新たな大きい何かを見つける物語」ではなくて、「元からそこにあった心臓に気づく物語」だった、という風に私には感じられました。それは私の思っているノクチル像とかなりいい感じに重なっていて、なんだかそれが本当に嬉しかったです。解釈一致ってやつですね。ありがとう…透…。

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 また、このG.R.A.D.編について透と円香の関係性を感じた方も多くいらっしゃったようでした。このことについては私としては反省すべき点でもあるなと感じています。
 今回の全ての起点となったのは委員長が透のことを「アイドル」として見ていたということが透にとって大きな疑問をもたらしてしまったという部分であると思いますが、このことからも透はそういう「他者からの勝手なイメージ」みたいなものに苦しめられてきたということが分かります。ただ、委員長はそういうイメージを持ちつつもそのことを謝罪し、透の「アイドル」的ではない部分での仕事を任せようとしたことも、透が最後の答えにたどり着けたひとつの大きな要因でした。
 そう考えると、ある意味で透のことを「アイドルなんかじゃない、そんな大した奴じゃない」という風に評価して隣に立ち続けようとしてきた樋口円香の存在は透にとってどれだけ有難いものだったでしょう。
 私は【UNTITLED】での円香の透に対する眼差しをあまりにもネガティブに評価し過ぎていたように思いました。円香が透を見る時の眼差しや気持ちが捩じ曲がっているというのは個人的には間違っていないと思っています。しかし、いくら円香から透に向けた視線が歪んでいようと、透にとってそういう円香が隣にいてくれることは大きな救いであったはずです。
 これまで、小糸も雛菜も透のことをかなり高く評価しているような描写がありましたが、円香だけはずっと「浅倉透はそんな大層な奴じゃない」というスタンスでいましたよね。透を孤高の存在で居させなかったのは円香です。本当に優しいな樋口お前は。円香は走り出してしまった透に必死で食らいついている状態かもしれませんが、それでも間違いなく透にとって嬉しいことだと思います。透の「樋口が分かってるならいいじゃん」というセリフは決して投げやりな意味ではなく、そういう絶対的な信頼から出た言葉だったんですね。まあこのセリフが出たのは「(湿布の張り方を)樋口が分かってるならいいじゃん」なんていう気の抜けた状況の中でしたが…。多分そういう信頼関係だからでしょう…多分…。

 なんて感じで、いろいろと思うところの多い内容でした。本当に満足です。素晴らしい。おかげさまで思ってたよりずっと長くなって書くのに死ぬほど時間がかかりました。まあ3rdツアーが挟まってたりしたから仕方ないな!(責任甜花)
 まだまだ書かなきゃならないのがいっぱいあるのに近くLanding Pointが実装されそうで戦々恐々としています。圧倒的な物語の奔流に飲み込まれて私はもう海に出るっていうか完全に難破船なんですけど、やっぱり楽しいなノクチルお前ら!なんとかこいつらの物語に追い縋っていきたいものです。

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限定透に90000石吸われたけどな!!!!!!!
おい!!!!浅倉ァ!!!!

 そんなこんなで、ここまでこんな拙文をお読みくださった方、貴重な人生のお時間をいただきありがとうございました。またどこかでアイマス…会いましょう。それでは~。

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