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『竜とそばかすの姫』を見ました

(2021.7 記)
行動範囲にシネコンが増えた。換わりに今まであったミニシアターや古き良き映画館は移転・閉業を余儀なくされている。今回の館もいつ取り壊しになるか分からないため、お子様連れも安心系作品が多く混む時期ではあったが一度行っておくことにした。

細田作品は「いちおうひととおり」くらいしか見ていない。ただ毎年『サマーウォーズ』がTV放映されると周囲が盛り上がるので、避けて通れない気がしたのだ。制作陣の今作への意気込みを雑誌で先にチェックしておいたのだが、期待値は思ったより高まった。映像にしろ音楽にしろ「制作村」方式を取り、各クルーの得意分野で思う存分見せ・聴かせ所を作ってほしい、ということらしい。これは大成功だったように思う。デバイスの中に飛び込まないと見られない「U」の整然さと奥行きに対し、主人公たちが住む田舎の(四季ごとに表情が変わるのは美しいけれども)退屈で刺激の無い単純さ。Uの中で何かが起きる時の、オペラかと見まごうようなフル編成ドラマチックな劇伴と、あえて最低限に絞った現実世界。二つの世界の描き分けがきっちりできている。声優初挑戦にして、二つの世界で逆のキャラを演じ分け+歌唱の大仕事を成し遂げた中村佳穂さんも魅力が爆発していた。中村さんの歌は聴いたことがあったが「なんともつかみどころがない」印象の方が強く、落ち着かないものだった。それが今回、複数の作曲家からの楽曲をどれもなじみやすく、聴いた者の心にはっきりと足跡を残すように仕上げていた。新しいミュージカルスターの誕生である。

持ち上げておいて落とすようで申し訳ないが、肝心のストーリーはひと言で言うなら「説明不足」であった。Uの設定やその中での出来事は大きな矛盾も無く緻密に作り込まれているが、現実世界の場面で「なぜそこがそうなる…?」点が複数見られ、消化不良におちいった人も少なくないと予測する。あと『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』よりかだいぶマシにはなったが、相変わらず女を神格化・理想化しすぎだ。宮崎駿監督と比べてしまうのは申し訳ないが、宮崎監督は女性のイヤーな部分も認めてひっくるめた上で描ける。例えば『借りぐらしのアリエッティ』では女性の要素を4種類に分割し、アリエッティ・ホミリー・貞子・ハルさんにそれぞれ割り振っている。

(軽くネタバレだが)鈴の「誰かを護りたい気持ち」はあんな薄っぺらい表現に収めないでほしかった。ちなみにそのシーンで立ち向かった相手の心情や行動は理由まで透けるように描かれ、手に取るように分かるのはなんという皮肉だろうか。ストーリーのツメの甘さはどうしても気になるが、とにかく映像と音楽への没入感は格別であった。余談だが、意外な人選が多いので出演者をひととおり知っておくとより楽しめる。


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