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【書評】NTT 2030年世界戦略 「IOWN」で挑むゲームチェンジ

<本の概要>

NTTグループで今まさに起こっている変化と、今後のグループ戦略についてまとめられた本。携帯電話の普及以降は世界の波から取り残されてしまったNTTだが、再び覇権を握り返すべく大きな改革が行われている事がわかる。NTT本体だけでなく主要なグループ会社のほぼ全てに言及した上で、具体的な改革内容や今後の戦略の詳細について語られている。


<IOWNとは>

著書の中でNTTが目指している戦略は複数言及されているが、その中でも中核を担うコアな技術がIOWNだ。

IWONとは、これまでNTTが培っていた光ファイバー技術をベースにコンピューター処理まで光で実現しようという構想。(中略)
これまでは通信は光通信、演算処理は電気信号とそれぞれ異なる技術を使っていたが、通信処理が光通信だけで行えるようになる。

本書より

【IWONのメリット】
①途中で変換が不要なため、エネルギー消費が少ない(従来の100分の1)
→環境への配慮という観点からも採用が大きく見込まれる。

②コンピュータ処理能力が高い=大容量かつ超高速の処理が可能(容量は従来の125倍・遅延は200分の1)
→スマートシティや自動運転などの領域で活用が見込まれる。

<NTTで起こった変化>

■グループを再編して、役割分担を明確にするようになった
→従来はグループ全体で縦割り意識が非常に強く、事業領域が被っている範囲においては「グループ間で顧客の奪い合い」のようなことも頻繁に起こっていた。しかし、事業領域ごとにグループを再編することで全社最適を図るように改革を行っている。
また、海外で買収した企業についてもこれまでは各社がバラバラで動いていたが、順次ブランドもNTTで統一することを目指している。

■外部企業との協力体制を築くようになった
→従来は「NTT内で基本全て完結させる」というような方針を採用いていたが、昨今ではパートナーと一緒に事業領域を広げていく形に方針を転換している。例えば通信の領域ではNECと、モビリティの領域では三菱商事やトヨタと協業を進めており、外部との協力体制は強化の方向に向かっている。

■事業展開がさらに多角化されるようになった
→上記の「外部との協力体制の強化」もあってか、今では通信だけにとどまらず幅広い領域で事業を展開している。宇宙でのデータセンター・スマートシティ・ドローン・農業DX・eスポーツ・不動産なども手がけて、最終的にには「その地域をお困りごとを相談してくれれば何でもできる」というような企業を目指している。

<感想>

主要なNTTグループの全社長(持株会社の澤田氏も含めて)のインタビューが掲載されていることからも分かる通り、力作と言っていい本だと思う。内容的にも全社の内容が網羅的に描かれており、かつ専門用語等もほとんどない平易な言葉で書かれているので、非常に読みやすい内容だった。

NTTの良い側面しか描かれていないことは前提にした上で、それでも本気になった大手企業は凄まじいということを感じさせれた。特に澤田社長の影響力はやはり大きく、本当にNTTが変わりつつあるんだということは伝わってきた。

反面、この改革が本当の意味で成功するのかはまだ分からないなとも思った。やはりNTTの縦割り意識はかなり根深くあるようで、現場レベルでは反発も大きくあるのかなというのは本書の語り口からも推測されることだった。また、澤田社長がいなくなってもNTTは大丈夫なのかという意味では疑問に思った部分でもあるので今後に注目していきたい。


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