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表 萌々花 / omote momoka

写真の撮り方は人それぞれ異なる。同じカメラを使用していても、同じ構図で撮影していても、同じレタッチ作業を行っていても、その先には決して同じ写真は生まれない。


だからこそ、彼女の瞳を通した世界はどのように映っているのだろう、という素朴な疑問がずっと頭の片隅に残っていた。写真家として活動する彼女の写真は世界を変えるかもしれない。その希望をずっと心に抱いていた。


東京暮らし7年目を迎えようとしている表萌々花ちゃん。(以下、ももちゃんと呼びます)

彼女の言葉の輪郭ははっきりとしていて、自身の明確な想いを写真に投影させようとする強い意志が感じられた。


「もともと諸国の貧困問題に取り組む活動をしたいと思っていました。高校生の時に、貧困国の子供とパートナーシップを組んで毎月支援金を送るプロジェクトに参加したことがきっかけでした。寄付したお金でその子ができるようになったことがレポートとして届くことがとても嬉しくて、もっと彼らのために何かできるようになりたいと考えました。そして3年間、通信の高校に通いながら旅の資金を集め、卒業後にバックパッカーとして貧困国のボランティア活動をはじめました」。


東南アジアをスタートに1年間各国を移動しながら最後にたどり着いた場所がスペインだった。ある日、バルセロナでアフリカからの難民受入要求のための大規模なデモが起きる。ギリシャで撮影された難民キャンプの様子が映像や写真を通して市民に伝わったことが始まりだった。友人から話を聞いてデモに参加したももちゃん。写真がひとつのきっかけとなって人々が行動していくことに感銘を受けた。18歳の時だった。


「社会を変えるためのひとつのツールになるかもしれないと写真が持つ力に魅了されました。戦争やテロ、差別などに対して自分ができることは写真にあると思いました」。


帰国後は上京してカメラマンのアシスタントとして写真やカメラについて学び続ける日々を送った。東京で暮らしていくために合間を見つけてはアルバイトを掛け持ちしながら過ごした。

3年後、写真だけで食べていくと決意して独立。


「アルバイトも全て辞めたので、写真だけで食べていけるかという恐怖はありました。けれど、それよりも写真以外の何かに甘えることのほうが嫌でした」。


仕事とは別に自身の作品撮りも行っている。初めて作った写真集は〈星霜〉。地元の岐阜で目にした光景の中で、生まれてくる新しいものや朽ちて死んでいくものをテーマとした。


「実は、制作において尊敬している地元の写真家・田中一郎さんが手掛けた写真集をモチーフとしました。彼は自身のご家族と街の風景を撮り続けたものを4つの写真集としてまとめていて、時代と共に街や風景が変化していく様子をひたすら淡々と撮られていることに衝撃を受けました。彼の続きをやってみたいという想いから地元の飛騨高山を撮り続けています」。


〈星霜〉には〈死〉に対する気持ちも込められている。いつ来るか分からない死に対して、日常的に恐怖心を抱いていた自身の経験がもとになっていた。また、猟師に同行して一匹の鹿を殺した経験を作品としてまとめた〈たむけ〉も制作した。

現在取り組んでいるテーマは〈Tower of silence〉。ゾロアスター教における鳥葬を行う塔の名前をタイトルとし、日本各地の火葬場の煙突を撮影している。近年の火葬炉は旧式からの切り替わりによって、高煙突がなくても遺体を燃やすことができるようになった。そのため全国の火葬場から煙突が姿を消している。その現状を知り、煙突のある風景を写真に残そうと決めたのだ。


「〈死〉を見たくないという気持ちは誰しもが持っているものだと思います。けれど、火葬場から立ち昇る煙に亡くなった人への想いを寄せることは、人が人として生きた証を想うことでもあり、日本の価値ある文化だと思います。だから、その文化があったことを記録として残したいと思いました。また、そのようにカメラを向けていくことで、〈死〉は怖いものではないのだと自分の中で〈死〉の在り方を受け入れることができるようになりました」。


〈Tower of silence〉の作品撮りのために岐阜や大阪、神奈川、瀬戸内海方面など、様々な場所へ足を運んでいる。火葬場の写真を形として残すことで、〈星霜〉〈たむけ〉と共に死の在り方を想った3部作が完結する予定だ。

また、今後も〈星霜〉の続きとして、地元での人々の暮らしは写真に残していくと決めている。田中一郎さんの残した街の風景に感銘を受けたからこそ、彼女なりの恩返しのつもりで地元に向き合いたいという。


「最近は仕事で北アルプスのガイドブックの撮影を行っているのですが、自然に還りはじめている廃村などどこか分からないような場所を撮っています。実際に人が暮らしている様子を撮影するよりも、人が居なくなった場所の方が気配や余韻を通して〈土地の存在〉を強く伝えてくれるのではと思っています」。

続きは、以下のサイトよりご覧いただけます。
Leben「ある日の栞」vol.13 / 表 萌々花

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Lebenはドイツ語で「生活」を意味します。
正解のない様々な暮らしや生き方を形に残します。

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