見出し画像

台湾戦争に備えよ

サマリー

2022年10月、2期10年の慣例を破り、習近平総書記(国家主席)の3期目続投が決まるとともに、台湾統一のためには武力行使も辞さない姿勢を示した。本記事では、台湾有事に対する警戒はかつてないほど高まっている中、台湾有事が発生する可能性が高い根本的背景を整理するとともに、発生した場合、どのような影響が日本にあるかを考察する。

▼サマリー
・中国が早ければ2022年12月、遅くとも2027年末までに台湾に侵攻する可能性が高い。

・台湾戦争はあくまで台湾の話であり、日本は関係ないという認識を改める必要がある。

・仮に中国が台湾侵攻を行った場合、同時に与那国島などの日本への軍事侵攻を同時展開する可能性が高い。

・台湾の地政学的重要性に鑑み、日本、アメリカの2か国が台湾保護を目的として中国との戦争状態に突入する可能性が高く、この場合、世界経済ランキング1位~3位の国が同時に戦争状態になるという未曽有の危機に世界は陥る。

・中国が周辺海域の封鎖を行った場合、エネルギー資源の9割、半導体輸入の7割が止められることとなり、日本はかつてない経済、エネルギー危機に陥る。

習近平の思想

戦争にあまり縁のない日本国民にとって、他国が侵略戦争を行すことに対する実感がわきにくい。なぜ、中国は台湾侵攻を行うのか、彼らの思考プロセスを理解することからスタートする必要がある。

地政学の基礎知識

ランドパワーとシーパワー

地政学的な視点で国家を分類すると、大きくランドパワーとシーパワーという2つの区分にわけることができます。

ランドパワー:陸地が多い国家
代表国:ロシア、中国、ドイツ
特徴 :他国と接しているため、歴史上、侵略したりされたりすることが多い。自国の安全を確保するため、支配領域の拡大を志向する傾向が強い。支配地域の拡大がある程度達成されると海洋進出を図る。

シーパワー:海に面する地域が多い国家
代表国:アメリカ、イギリス、日本
特徴 :他国と接しにくいため、侵略に対する危機意識よりも、他国との交易を通じて利益拡大を志向する傾向が強い。海上輸送、海軍力に優れている。

中国はランドパワーの国であるため、支配領域の拡大と海洋進出を志向する傾向が強い。一帯一路構想はまさに、支配領域の拡大と海洋進出を主目的として、考えられている。

中国の軍事構想 第一列島線と第二列島線

中国が危険視する国は、同じ大国であるアメリカである。中国は対アメリカ用の軍事戦略概念として、第一列島線と第二列島線というものを定めている。

第一列島線は、九州を起点に、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島にいたるラインを指す。中国海軍および空軍の作戦区域・対米国防ラインとされる。この第一列島線に日本列島の一部が含まれており、日本には寝耳に水であったため、一時期問題となった。

中国海軍にとっては、台湾有事の際の作戦海域であり、同時に対米有事において、南シナ海・東シナ海・日本海に米空母・原子力潜水艦が侵入するのを阻止せねばならない国防上の必要のため、有事において、このライン内においては、制海権を握ることを目標として、戦力整備を行っており、また作戦活動もそれに準じている。

第二列島線は、伊豆諸島を起点に、小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至るラインである。近年に至るまで、中国の海洋調査は、第一列島線付近までに留まっていたが、このところは第二列島線付近でも調査を行っている。海洋調査は他国の排他的経済水域内では行えないため、第二列島線付近にある沖ノ鳥島問題が持ち上がっている。

この第二列島線は、台湾有事の際に、中国海軍がアメリカ海軍の増援を阻止・妨害する海域と推定されている。中国海軍は従来、沿岸海軍であったが、日本や台湾を含む諸外国・諸政権の実効支配下にある第一列島線を突破して第二列島線まで進出することは、すなわち外洋海軍への変革を目指していると考えられ、その動向が国内外で注目されている。

このように、中国は日本の領土への支配力拡大をすでに計画、準備しているという事実をまずは認識すべきである。

台湾の地政学的重要性について

つぎに認識すべき事実は台湾の地政学的重要性についてである。

▼台湾の地政学的重要性
①バシー海峡
②中央山脈
③半導体製造
④日本との距離

①バシー海峡

台湾南部に位置するバシー海峡は軍事、経済両方にとって非常に重要な場所である。台湾は太平洋の出口にあたるバシー海峡をコントロールできる位置にある。台湾を押さえて、バシー海峡をコントロールできるようになれば、海南島の基地から戦略ミサイル原子力潜水艦、攻撃型原子力潜水艦が障害なく太平洋へ出撃できるようになり、太平洋における戦略バランス、戦略核バランスが大きく変わる。日本、アメリカの国防戦略上、致命的な痛手となるだろう。

また、このバシー海峡は日本にとって重要なシーレーンの一つでもある。シーレーンとは、海洋国家の経済や貿易や通商などにとって戦略的重要性を有し、有事の際でも確保しておかなければならない海上交通路のことを意味する。ASEANや中東、アフリカや欧州などから日本に送られてくる物資の多くは、インド洋からマラッカ海峡、南シナ海、バシー海峡を通って日本に輸送される。そのため、バシー海峡をコントロールされると日本のシーレーンの首根っこをつかまれることとなる。

日本企業の生産を支える東南アジアのサプライチェーン(供給網)の見直しや、それに伴う産業構造の転換も余儀なくされるきわめて甚大な影響を我が国に及ぼす。

エネルギー資源に乏しい日本は、輸入する石油の9割あまりを中東(サウジアラビアやUAE、イランなど)に依存しているが、その全てがバシー海峡を通っているため、バシー海峡が封鎖されると日本は深刻なエネルギー不足に陥ることとなる。

②中央山脈


台湾は太平洋にむけて3000メートル級の高い山脈が塀のようにそびえて立つ地形をしている。当該山脈の上にレーダーをつくることで、太平洋方面から襲来する敵航空兵力を警戒監視できるようになり、対アメリカ戦略上、有利となる。

③半導体製造


TSMC社をはじめに台湾の22年の半導体受託生産世界シェアは66%であり、台湾は世界の半導体産業の工場の役割を果たしている。
次世代技術の獲得競争の鍵を握る半導体の供給を中国が政治的にコントロールできるようになれば、世界経済や米国との技術覇権をめぐる競争にも決定的な影響を与えることになるだろう。

日本は台湾、中国から半導体のおよそ75%を輸入しており、当該供給がとまると日本の基幹産業である自動車産業を中心に甚大な経済的被害をうけることになるだろう。



④日本との距離


台湾と与那国島は110キロほどしか離れておらず、与那国島から台湾が見えるほど距離が近い。仮に中国が台湾侵攻を行った場合、支援物資の遮断を行うために台湾一帯を武装包囲する可能性がある。この場合、日本の排他的経済水域内で軍事展開を行う必要があり、要衝として与那国島を含む周辺海域を実行支配する可能性がある。

沖縄の米軍基地への距離も近いため、この点においても日本、アメリカの国防戦略上、致命的な痛手となる。

まとめ


上述したとおり、台湾は日本、アメリカ双方にとって軍事的経済的要衝であり、中国による台湾進出は、国防上看過できるものではない。従って、仮に中国が台湾侵攻を行った場合、日本、アメリカは中国との開戦も辞さない強硬路線に舵を切らざるを得ない可能性が高い。

日本とアメリカの要衝であることの裏返しとして、中国の国防上、台湾を支配するメリットは計り知れない。

中国では10月16日に共産党大会が開幕。習近平国家主席は冒頭の演説で、台湾を統一するためには武力行使も排除しないと表明した。アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は10月17日、中国が以前の予想より「はるかに速いスケジュールで」台湾の統一を目指していると述べた。

2022年10月23日には、軍最高指導機関の中央軍事委員会の陣容が決定。実質的No2として、大方の予想を裏切り、何衛東が大抜擢された。

何衛東は、中国の軍事管轄区分のうち、台湾方面を担う東部戦区の司令官であった人物。台湾に精通する何衛東の起用は、台湾戦争に備えた着実な一手とみることができる。

人は日々、膨大な情報に触れる中で、無意識化において情報の取捨選択を行っている。関心のある情報だけが意識的に記憶でき、関心のない情報についてはたとえ、触れていたとしても記憶から流れてしまう。

心理学用語でいうところの「カクテルパーティー効果」。パーティーに参加した際に、雑音の中でも自分の名前を呼ばれたら認識できることに由来し、自分が必要としている情報や重要な情報を無意識に選択することができる脳の働きのこと。

現時点では、多くの国民にとって、台湾有事は「関心のない情報」にプロットされ、無意識の彼方に忘れ去れていることだろう。

意識的に情報に触れると、今起きている「点」の事象が「線」になってみえてくる。

・2022年11月に行われた国際観艦式に招待されながら、なぜ、中国のみ参加しなかったのか?
・国防費増額案がなぜ今でているか?
・サイバー防衛の新組織新設案がなぜ今でているか?

本記事を読むことで、1人でも多くの人に「カクテルパーティー効果」が働くことを願っている。

▼参考
・仮に台湾有事が起きた際に、日本は中国から、通信、交通系を中心にサイバー攻撃を仕掛けられる可能性がある。

・日本はサイバー攻撃に対して、アクティブディフェンス(攻勢防衛)を行う法整備と実務部隊が存在しないため、セキュリティークリアランスを含め、早急に準備を行う必要がある。

・肥料生成に必要なリン鉱石のかなりの割合を中国に依存している。仮に台湾有事がおきて中国との関係が悪化した場合、中国はリン酸アンモニウムの供給を止めることで、日本の食料危機を誘発させる可能性がある。


【準備できること】
・食料の調達
バシー海峡の封鎖にともない、日本のシーレーンが崩壊した場合、小麦などの食料輸入が停止することに伴い、食品の買い占めが起こると思われる。日本において、食料危機がおこる可能性があり、まずは食料の調達を優先すべきであろう。

例えば、田んぼオーナーになって、向こう数年分の米を事前に確保しておくとよい。ちなみに私は、2アール分の田んぼオーナーの契約を3年間申し込んでおり、毎年100キロのお米が自宅に届くようになっている。

・資産防衛
以下の理由から、台湾戦争が起こった場合、大幅な円安、株安、インフレが起こる可能性がある。

▼円安が起こる理由
・日本に対する地政学リスクの高まりから、日本への投資マネーが撤退していく。また、日本の富裕層を中心に資産防衛の観点から円から外貨に換える動きが行われると思われる。

▼株安が起こる理由
・上述したとおり、日本に対する地政学リスクの高まりから、日本への投資マネーが撤退していくため、日本株の大幅な下落が発生すると思われる。

▼インフレが起こる理由
以下の3つの要因によりインフレが急速に加速する可能性がある。
・円安加速による輸入品の大幅高騰
・海外輸送の停止にともなう、モノ不足
・パニック衝動による買いだめ

資産防衛の観点からは、外貨建資産を一定保有しておく必要があるだろう。具体的には海外の防衛関連銘柄が、台湾戦争リスクに対する保険として機能するだろう。具体的な銘柄でいうと、ロッキードマーチン、ノースロップグラマンといった企業が該当する。当該2社は世界を代表する軍需関連企業である。

▼その他参考資料
台湾有事 どうする日本 2027年までに中国の台湾侵奪はあるか
自衛隊最高幹部が語る台湾有事
・一番やさしい地政学の本
・防衛白書


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?