世界各地のラバーズ・ノット・ティアラ
1985年、スイスはジュネーブのオークション会場。
ここで世界的に有名なあのティアラのそっくりさんが出品されました。
(実物写真はオークション会社HPで見られます)
そのティアラとは、ラバーズ・ノット・ティアラ(Lover’s Knot Tiara )。
蝶結びのような形からしずく型のパールがぶら下がるパーツをいくつも連ねた、名前も見た目も可愛らしいデザイン。
特に故ダイアナ妃の着用姿が有名です。
上: ケンブリッジ・ラバーズ・ノット・ティアラ
下: メアリー王妃のラバーズ・ノット・ティアラ
↓
このラバーズ・ノット・ティアラは19〜20世紀にかけて非常に人気の高かったデザインで、同じものが世界中にいくつも存在します。
実はイギリス王室が所有しているものも、親戚の貴族が持っていたものを模倣して作られたのだとか…
ではジュネーブでオークションに出品されたティアラはどこから来たのでしょう?
はっきりした答えは分からないのですが、世界各地に存在する(していた)ラバーズ・ノット・ティアラの歴史を辿りながら推理してみたいと思います。
①ケンブリッジ・ラバーズ・ノット・ティアラ
現存するラバーズ・ノット・ティアラの中で最も古いと推測されます。
イギリス王室のものは、これをモデルに作られました。
最初はケンブリッジ公爵夫人の持ち物でしたが、ドイツに嫁いだ娘→モンテネグロ王太子妃となった孫へと継承。
しかしモンテネグロ王国はオーストリア=ハンガリーの占領を受けて亡命を余儀なくされ、ティアラは一時期行方不明になりました。
しかし1981年オークションに出品され、ドイツの貴族が購入。
最近では2018年にこの家のメンバーが着用している姿がキャッチされており、現在も所有していると考えられています。
…と言うわけで、こちらのティアラは1985年に出品されたものとは別のようですね。
②メアリー王妃のラバーズ・ノット・ティアラ
イギリス王室が所有しているラバーズ・ノット・ティアラ。
親戚が持っていた①のティアラが羨ましくなったイギリス王妃メアリーが、宝石商ガラードに依頼して作らせました。
エリザベス2世、ダイアナ妃に続いて現在はキャサリン妃が受け継いでいます。
所在がはっきりしているので、これもオークションに出されたものとは別と考えられますね。
③バイエルン王妃テレーゼのラバーズ・ノット・ティアラ
お次はバイエルン王国(ドイツ)が起源。
エ○エ○大王ことルートヴィヒ1世から、妻テレーゼへの贈り物でした。
テレーゼはこのティアラを息子オットーの妻に譲ります。
オットーはその血筋や「バイエルン王子」という人畜無害(?)な立場から、オスマン帝国からの独立を果たしたギリシャの国王を務めていました。
しかし国民に重税を課したりギリシャ文化への不関心があったりで不満を買い、クーデターを起こされ失脚。
夫婦はバイエルンへと帰国します。
その頃バイエルン王国はオットー兄〜その息子たちが王位を継承していたのですが、のちに色々あってオットーの弟(言いづらいな)の家系に継承ラインが移りました。
そしてラバーズ・ノット・ティアラもオットー弟の家系が受け継いだようです。
オットー弟の孫の妻アントニア、そしてアントニアの娘イルミンガルドがティアラを着用した写真が残っています。
バイエルン王国は、1918年ドイツ革命の影響で国王が退位、消滅しましたが、ティアラ自体は、ミュンヘン・レジデンツ(かつての王宮)内宝物館に今でも展示されています。
バイエルン国王の末裔であるヴィッテルスバッハ家の人は自由に着用できるそうです。
と言うわけで、このバイエルン・ラバーズ・ノット・ティアラもオークションに出されたものとは違いそうですね。
④ タチアナ・アレクサンドロヴナ・ユスポワのラバーズ・ノット・ティアラ
ロシアの貴族。
ティアラは19世紀初頭ドイツで製作されたものだそう。
Wikipediaではナポレオン妹カロリーヌ・ボナパルトから購入したという話もありますが、裏が取れず真実は不明です。
上の肖像画が描かれたのが1858年とのことなので、その時にはこの世に存在していたようです。
ティアラは1917年 ロシア革命によって消失していましたが、1925年ボリシェヴィキによって発掘されました。
宮殿の階段下に仕舞われていたファベルジェ製銀の白鳥の模型の中に隠されていたそうです。
ボリシェヴィキが見つけた宝石を検分している写真がありますが、このティアラや銀の白鳥もしっかり写っています。
ただ写真に写ったティアラはパールが1個取れている様子。
1985年のオークションに出されたティアラと同一かどうかはちょっと疑問符です。
⑤ブルボン・シチリア王妃マリア・インマクラータのラバーズ・ノット・ティアラ
この方もラバーズ・ノット・ティアラを着用した肖像写真が残っています。
いつ頃撮影されたものかは不明ですが、結婚した頃と仮定すると1910年辺りの写真と考えられます。
ティアラの来歴やその後は不明。というわけでこれがオークションに出されたティアラという可能性はあるのですが、
オークション出品のティアラ→パールのトッパー(てっぺんの飾り)付き
マリア・インマクラータのティアラ→トッパーなし
という違いがあります。
恐らくトッパーは外せる作りなので、マリア・インマクラータはこれを取り外して使用したということも考えられますが…
ちょっと断定するのは難しそうです。
⑥パティアーラー王妃メータブのラバーズ・ノット・ティアラ
英領インドに存在していた藩王国の王妃が着用していたもの。
来歴は不明ですが、写真はおよそ1940年代のものと考えられています。
1947年インドの独立に伴い、王国は消滅。
1974年に夫を亡くした後は宝石を身につけず敬虔な未亡人として暮らしたそうです。
ひょっとしたらこの頃ティアラを手放し、それがオークションに出された可能性もありますね。
⑦ トロ王国ベスト王太后のラバーズ・ノット・ティアラ
ウガンダ国境内にある王国。
民族同士の争いやイギリスの干渉を受けた歴史がありつつ、現在は王制をとっています。
この国の王ルキディ4世の母ベスト・ケミギサ・アキイキ王太后も、ラバーズ・ノット・ティアラを所有しています。
ちなみにベスト王太后は2019年に来日したこともあり、その際もこのティアラを着用していました。(写真)
ティアラの歴史は不明ですが、どこかで購入したものと考えられています。
1985年のスイスでのオークションで購入したものを着用しているとも考えられますが、パールの形などが異なるように見えるので、たぶん別物だと思います。
さらに驚きなのが、王太后の娘さんであるルース・コムンターレ・アキイキ王女(Princess Ruth Komuntale Akiiki)もラバーズ・ノットのデザインぽいティアラを持っていること。
※結婚式で母娘同時につけていたので、貸し借りではなさそう
お2人には「ラバーズ・ノット・ティアラへの愛が深いで賞」を差し上げたいです。
2人お揃い?のティアラ姿。
なおこの時の結婚相手とは離婚、
別の人と再婚しています💦
↓
おわりに
最後に、各ティアラの製作or初登場年〜最後に公の場で目撃された年をまとめてみました。
もしかするとこの中のいくつかは同一のものである可能性もありますが、それにしても200年にわたり世界各国で着用されてきたのがすごいですよね。
(そして意外とどんな衣装にも合う)
ラバーズ・ノット・ティアラ、想像以上に奥が深かったです。
ここまで読んで下さった方は、なかなかマニアックな域に足を踏み入れた形になるかと思います😁
ぜひ明日から、この使えない知識を披露してドヤってみてください。
お読み下さり、ありがとうございました!
参考
使用素材(ハートのライン):
Vecteezy.com
(大)
・CHRISTIE’S
《 Royal jewels sold by Christie’s 》
・The Royal Watcher
《 Bavarian Lover’s Knot Tiara 》
・royal-magazin.de
《 Loversknot Tiara | Imperial Jussupow Collection - Das "Liebesknoten" Perlen Diadem 》
・The African Royal Families
《 Tooro Royal Crowns and Tiaras 》
・Wikipedia
《 Gioielli della Corona bavarese 》
《 オソン1世 》
《 Princess Tatiana Alexandrovna Yusupova 》
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