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トラウマを溶かす



「これから生えてくる大人の歯が大きめで、顎の大きさに収まってないんだよね。」

歯医者さんは、まめちゃん(息子)のレントゲン写真をじっと睨みながら言った。
「あぁ、私の歯に似ちゃったかぁ…。」私が呟くと、
「そうだね、少し出っ歯になる可能性があるね。」…ですって!!!


「ちょっと!!私は一言も出っ歯とは言ってませんのに!!

貴方勝手に出っ歯と決めましたね?

今!出っ歯と!言いましたね????」


なんて、優しい歯医者さんを詰められる筈もなく、大人しく帰路についた。


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昔から自分の歯が嫌いだった。
歯並びが悪いと気付いた頃には矯正器具を付ける事も同じくらい嫌な年頃になっていたので、そのまま大人になってしまった。

結婚し、子供が出来てからは自分の歯の事よりも家族の事で精一杯ですっかり出っ歯の事なんてどうでも良くなっていた。

今日こども歯科のレントゲンで息子の歯について説明を受けるまでは。



ーー小学校の時、ちょっと気になっている男子が私の似顔絵を描いてくれた時、出っ歯だった事。

バイト先の先輩がmixiの紹介文に「あおいさんの大きな前歯が好き」と書いた事。

会社の美人な先輩に「鼻から下隠したら可愛いね!」と言われたこと。ーー


色々思い出してしまってもう頭の中は美少女戦士さながらショート寸前である。私の中では息子の歯科矯正治療は100:0で決定していた。


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が、夜。

夫に今日の歯科での出来事を相談した。
穏やかで意見を否定する事は少ない夫なのだが、
「勿体ない気がする」とか「芸能人になる訳じゃないのに」とか非常に煮え切らない反応をしていた。


夫は最後にこう言った。
「あおいが今まで嫌な思いをしてきたから、まめ(息子)に矯正治療受けてほしい、と思う話は理解した。けれど俺はまだ様子見派かな。そもそも俺はどの歯並びが良くて、どの歯並びが悪いとか良くわからないんだよな。自分の歯並びが良いとか、あおいの歯並びが悪いとか、良くわからない。」

様子見派かな?とか勝手に決めないでいただきたいし、ここは夫の煮え切らない態度に苛つく場面だ。

しかし、困った。怒りの感情が全く沸いてこない。妙な説得力すら感じていた。

だってこの人はそもそも、私の歯並びを全く気にしていなかった!だから息子の歯並びが良くなるとか悪くなるとか、全く気にならないのだもの!

歯のことばかり気にして泣いていた私のインナーチャイルドが溶かされている…!リカイノアルカレクン(違う)!!

その後も話し合いは平行線だった。平行線なのだが。私は歯を剥き出しに笑顔で話し合いに臨んでいた。

夫が矯正治療を否定すればするほど、かつての自分が慰められているような、トラウマが溶けていくような、不思議な感覚だった。

私の歯まで愛してくれてありがとう。夫よ。(言ってない。)


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※矯正治療は受けてもらいたいので、私のプレゼンは続く。

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