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ナシゴレンあっちこっちめぐり

外は雨がざあざあ降っている。

蒸し暑い。


インドネシア、バリ島に着いたのはぬるいサウナに入っているような夜だった。

南国の植物たちは、みんな色鮮やかで花も葉っぱも大きい。雨の中でも色褪せるどころか空から降ってくる大玉の雨粒に降られても負けない。花も葉っぱも地面に落ちることなく咲いている。


何も初日から雨が降らなくてもいいのに。。。
オーダーした夕食を待ちながら、雨に濡れるホテルの庭園をぼーっと眺めていた。

そんな中、それは運ばれてきた。
せっかくの新婚旅行だし、最初は景気良く行こう!と頼んだベリーのカクテルも美味しかったが、料理も想像以上に美味しかった。

真っ黄色の黄身はほど良い固さ。スプーンで割るととろーりとしたまろやかな黄身が、辛いチャーハンにかかる。あんまり辛い食べ物は好きではないのだけど、半熟の黄身がかかると特別美味しくなる。


『ナシゴレン』というインドネシア料理を知ったのは小学生の頃だった。
ちびまる子ちゃんで有名なさくらももこさんのエッセイ、「ももこの世界あっちこっちめぐり」の中に書かれているのを読んだのが最初だ。小学生だった当時は海外旅行なんて夢のまた夢の世界で、ファンタジーを読んでいるようだったが、ギャグを交えながら観光していくこの本は一番のお気に入りだった。

本の中には、ナシゴレン、ミーゴレン、ビーフンゴレンの3つが出てくる。近しいものに例えるとナシゴレンはチャーハン、ミーゴレンは焼きそば、ビーフンゴレンは焼きビーフンと書かれており、さくらももこ氏はナシゴレンが一番のお気に入りでバリ滞在中はずっとナシゴレンを食べていたと語っていたが、当時母が毎週日曜日に作るチャーハンがあまり好きでなかった私には魅力的なものに映らず、印象にも残らなかった。
新婚旅行をインドネシアのバリ島に決めたのは飛行機料金や物価面で、直前にどこに行こうかググっているときにようやく、ナシゴレンと「ももこの世界あっちこっちめぐり」のエピソードを思い出したぐらいすっかり忘れていた。

初日からナシゴレンの虜になった私は、さくらももこ氏同様で期間中の食事ほとんどをナシゴレンを食べていた。途中、ミゴレンやビーフンゴレンに浮気したりもしたが、合計10回ぐらい食べたのではなかろうか。
だが、初日のあの雨が降りしきる中に食べたナシゴレンに勝るものはなかった。

日本に帰ってきてからもナシゴレンの素を買ったり、料理本のレシピを真似て作ったりするが、未だあの蒸し暑い夜に雨に打たれる植物を見ながら食べたナシゴレンに勝るものは現れない。もしかしたら、新婚旅行と初の海外旅行で浮かれた気持ちが相乗効果で作った味だったのかもしれない。

あの日からナンプラーが常に冷蔵庫へ鎮座している。
今でもナシゴレンを作るたび雨降る蒸し暑いインドネシアでの夜にタイムスリップするのだった。


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