プリンセス・トヨトミ 所感
選書理由
・万城目学さんが2023下半期にて直木賞を受賞されたため。
287~288p
それはあまりにもやりすぎじゃないか。
そう人々が思ったとき、すべてははじまったのだという。
本作品の背骨となるテーマを簡潔に、そして人情味ある表現だったため引用させて貰った。
本作品のあらすじは裏表紙より引用。
【四百年の長きにわたる歴史の封印を解いたのは、東京から来た会計検査院の調査官三人と大阪下町育ちの少年少女だった。】
プリンセス・トヨトミは著者の大阪育ちというバックグラウンドを盛大に活かした、下町の活気が聞こえてくるような作品だ。
下町、といえば想像される景色がより一層濃く、大阪といういわば外国に近い町のテイストをぶち込んで展開されてゆく。
その中で会計検査院の三人、鬼の松平、ミラクル鳥居、エリート旭が実地検査をする。この三人がまた味があって良い。まるで、本作品以外にも連番となるシリーズがあるかのような掛け合いの軽々しさには、脱帽である。
そして性自認に悩む大輔と、幼なじみの茶子のまっすぐだけれども、それゆえ苦しむ十代のセンシティブな面が描かれている。
この2本のストーリーラインは全くもって重ならないと感じる序盤であり、正直つまらないと感じていた。
しかし、2つが交錯し、400年の封印が何か、が明かされる中盤にさしかかると、一気にエンジンが吹き上がりジェットコースターのように物語は加速していく。
終盤における表現として、スケールの大きさを、ミクロ視点の積み重ねで実感させる手法には感嘆した。
そして、熱量と迫力、登場人物達の覚悟から生まれる、圧倒的終盤の山番となるシーンは是非とも一読頂きたい。
変なバトルものより、よっぽどアツい。
日本男子はかくあるべしと見せつけられた。
全体として、序盤から中盤に入るまでのセットアップ期間が長くつまらなさを感じたが、後半が激アツだったので最高以外の何物でもなかった。
必読書だと周りに大声で言うほどではないものの、確実に最近読んで面白かった本として挙げられる。
つまるところ、本作はおもしろいので是非読んで欲しい。
以下、個人的に好きだった文章表現を作品より引用。
68p
「世の中でいちばん難しいことって何やと思う?」
両手の指を組み合わせ、後藤は深みのある声で訪ねた。
大輔が複雑な表情を浮かべ黙っているのを見て、軽くうなずき、あとを続けた。
「ずっと、正直な自分であることや」
大輔は無意識のうちに背筋を伸ばした。
329p
息子の目線の先で、幸一は1つ大きく息をして、スーツの上着の襟を正した。
生地が引っ張られ、一瞬、しわが消えた後ろ姿に、大輔ははじめて、父が広島カープの前田の背中が好きだと行っている理由が何となくわかった気がした。
287~288p
それはあまりにもやりすぎじゃないか。
そう人々が思ったとき、すべてははじまったのだという。
466p
経験したことのない怒りが、むらむらと腹の底から炎立つようにはい上がってくるのを感じた。
大輔は敵意のこもった激しい眼差しを背後の群衆に向けた。
唇を噛み、拳をぎゅうと握りしめた。
気がついたとき、大輔は幸一の隣に進み、マイクスタンドに手をかけていた。思いきり息を吸いこみ、
「お前らアアッ、お父ちゃんの言うこと聞けエエエエツ」
と声の限りに叫んでいた。
盛大なハウリングを従え、その声は大阪城の空を駆け巡った。
その瞬間、上町筋の喧噪がぴたりとやんだ。
誰もが言葉を止め、動きを止め、大阪府庁へ視線を向けた。
(中略)
大阪国総理大臣は静かに口を開いた。
「話を再開しようーーー松平さん」
472p
柔らかい風が、松平の短い髪を撫でた。
夕焼けが鎮まり、水面に溶いた絵の具のように、依るが茜の空に混ざっていく。
512p
「少しずつ、世の中は見えへんところで変わっていくもんやと思う。
どんな阿呆みたいな話だって、いつかはみんなに伝わる。
だから、僕も伝えられると思う。
誰からも、当たり前のものとして接してもらえる日がくるーーー時間はかかるかもしらんけど」