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Ep005:着色

『久しぶり。浮気されたよ。』

彼女に久しぶりに送ったLINE。
記憶は曖昧だけど、返事はそれほど待たずにきたと思う。

〖え?どういうこと?〗

全てを話した。
浮気をされたこと。事前に携帯を見て知っていたこと。
それでも今もそばにいること。どうすればいいかわからないこと。

〖一旦、距離を置いたほうがいいと思う。〗

誰にも相談してなかった私にとっては、
その言葉が神様からのお告げのようだった。
離れてもいいんだと、そのときはじめて思った。

それから休みの日は自宅で過ごすようにした。
すべての時間をメンヘラと過ごすために使っていたから、
どんな風に過ごしていいのか最初は戸惑ったけど、
会わなくなっていた友達と遊んだり、一人の時間を楽しんでいた。

その間もずっと、彼女は連絡をしてくれていた。
すべてを話すのにLINEはめんどくさくなって、
電話でも話をするようになっていた。

そんなある日、休日にいつも通り一人の時間を過ごしながら、
彼女と電話していた時だった。
〖どう?だいぶ落ち着いてきた?〗
『うん、いろいろ落ち着いて考えられるようになったよ。』

そんな話をしているときに、いきなりインターフォンが鳴った。
私は物音を立てないように訪問者を確認しに、カメラを見に行った。

メンヘラだった。

私は小さな声で、電話の先の彼女に伝えた。
〖出ないほうがいいよ。〗
私も会いたくなかったから居留守を使おうと思った。
でも、恐ろしかったよ、やはりメンヘラ。
何十回とインターフォンを鳴らし、
ドアを叩き、外から私の名前を連呼していた。
ずっと息を潜めていたが、メンヘラからLINEがきた。
「車あるけど?絶対家いるでしょ?」
「換気扇回ってるよ~たばこのにおいしてる。」
家にいることはほぼバレているようだった。

彼女との電話を切り、玄関を開けた。
家に入れたくなくて、外に出た。
家に入れると、メンヘラに丸め込まれるとわかっていたから。
私は隣県に住んでいたのだが、わざわざ最終バスでくる始末。
すべてメンヘラの手のひらで転がされているんだと思った。

『なんの用?』
私はめんどくさそうに聞いてみた。
なにより玄関先で大声出すような行為が嫌いでイライラしていた。

「会いたくなったからきた~家泊めて。」

『帰って。』

「もうバスないから帰れない。」

わざとだろ。もうメンヘラの呪縛から心は脱してた。

『じゃーホテルとるわ。近くでとるからそこで泊まって。』

そこからいやだ、いやだの我儘大会。
人目も憚らず、大泣きしだし、私の苛立ちはMAXになってた。

『もう関わらないでほしい。
今回のこと耐えられなくて○○に相談した。』

そう言って、私はそのまま自宅に帰った。
メンヘラはその辺のホテルに一泊して帰ることになった。

彼女に相談していること、言わなければよかった。
後で、そう後悔することになる。

恋愛事を、一切周りに口外せず、もちろん相談もしない私が、
誰かに相談したことはメンヘラも想像していなかったようだった。

それから、メンヘラから毎日LINEと電話の連絡が大量にきた。
「相談って、悪いように言ってるんでしょ?」とか
「自分が仕事ばっかりで構ってくれないんでしょ」とか
だから浮気したって悪くない、ような話を永遠にされた。

LINEや電話を拒否しなかった理由は、
メンヘラは無視していると何をしだすか分からなかったからだ。
私の勤め先も知ってるし、実家も知ってる。
突然乗り込んできたり、会社に電話されるようなことは避けたかった。

それでも彼女はずっと相談に乗ってくれていた。

私の中で彼女は、【自分】を持っている本当に強い女性だった。
他人の相談を親身になってのってくれる彼女に惹かれた。
惹かれない人なんている!?くらいに優しかった。
彼女に、私の心がだんだん着色されていった。

相談にのってもらい、悩みだらけの真っ黒から白へ、
そして、恋心のピンクへ。


そんなある日、彼女から連絡がきた。

〖メンヘラからLINE来たよ。〗

恐れていた。何をするか分からない。
だから連絡を切らずにしていたのに、
なんでそんなに関係ない人を巻き込めるのか。

でも、私が言ったからだ、、後悔、しかなかった。

2020/08/17 恋煩

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