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a year later

ツイッターでトレンド入りした「金木犀」の文字で何の代わり映えもしない毎日にもそろそろ秋が近づいてきたことを知った。
薄暗い休憩室で夕べの残り物と冷凍食品ばかりの彩りも悪い、ただ腹を満たすためだけの弁当を1人でボソボソと食べながらスマホでネットニュースを眺めていた。
東京都の新規感染者は何人でしたと、天気予報の最高気温かなにかのように今日も知りたくもないウイルスの感染者数が報告されていた。
1年以上続く感染予防のための自粛生活に疲れたと、テレビの昼の短いニュース番組でも街頭インタビューされた人たちが口を揃えて話している。
そういえば私も仕事や買い物、用事以外で他人に会ったのはかれこれ1年前かもしれない。
とはいえ、自粛なんかしていないときでも人付き合いの少ない私の生活はさして今とかわらなかった。

短い昼休憩を終え、白衣のポケットにスマホを入れて持ち場へ戻ったものの患者は来なくて、暇を潰すためにまたすぐにポケットから取り出すとLINEの通知が来ていた。

亮からだ。

「元気?」

いつから会っていないんだろう?

「五百円玉貯金箱、満タンになったよ」

1年前彼の誕生日に贈ったものだ。
100均で買った500円玉で10万円貯める貯金箱。
だけどあの時亮は不在で、一緒に働いている翼に渡してくれるよう頼んで本人不在のラボに置いてきた。

500円玉で200枚。

1枚貯金箱のスリットに入れる度、亮は私のことを思い出してくれたんだろうか?

1年間で200回。

「いつか何かご馳走するよ!」

「ありがとう。楽しみに待ってます」

そんな曖昧な約束は叶わないことは知っているけれど、もしかしたら明日こそ、と思っているだけで、このぼんやりとした毎日を生きることができるような気がした。


もうすぐまた誕生日がくるね。

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