ラヴ・レター(ズ)
どうして彼が東京に行ったのか、理由はもうすっかり忘れてしまったけれど、2年生の夏休みが終わる頃、上京したときに新宿駅でイラン人から買ったという偽造テレカが同封された手紙をもらった。
もちろんそんなもの売買するのは違法だし、それをプレゼントするなんてちょっとバカみたいだけれど、ポケベル全盛期にお金のない学生たちは結構普通に使っていた。
手紙にはその日捕まえたという実物大に描かれたカブトムシの絵も添えられていた。
字は汚かったけれど、カブトムシの絵はうまかった。
甘い言葉のひとつもない手紙だったけれどそこがまた彼らしくてよかった。
手紙はE-mailになり、E-mailはLINEになった。
もうしばらく会っていない。
何年か前の誕生日プレゼントも直接渡せず彼のラボで働いている共通の友人に託してきた。
500円玉でいっぱいにしたら10万貯まる貯金箱。
先月、まだ貯金箱のお礼していないからできたら今日食事に行こうとLINEがきた。
だけどその日は私は舞台の観劇のために東京に来ていた。
嘘をつかずに済む会えない口実があってよかった。
この前観てきたりんたろー。さんと知花くららさんの朗読劇「ラヴ・レターズ」
本当は会いたくてたまらないのに醜くなった姿を見られたくないメリッサの気持ち。
あのときはまだラヴ・レターズを観ていなかった。でも会いたいけど見られたくはないっていう気持ちはちょっとだけわかるし、会っていいのかどうかもわからない。
もっと自分に自信があったら何か違っていただろうか?
メリッサのように自由奔放な性格だったら?
もっと自分の気持ちに素直だったら?
夏休みにもらったただ1通の手紙は実家にまだあるのだろうか。どうしたのか記憶にない。
LINEは1年前にスマホをAndroidからiPhoneに替えたときに消えてしまった。スクショも撮らなかったから先月のLINEが最新にして最古だ。
いつかアンディーからのLINEがきたらメリッサはなんと返事をするんだろう。
なんと返事をしたらいいんだろう。
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