見出し画像

無知とマウント

 僕は9月初めからスポーツジムのバイトを始めた。そこのスポーツジムはプール付きの大型ジムで大人だけでなくスイミングスクールに通う幼稚園から小学生ぐらいの子供達も通っている。
ジムバイトの業務の一つとして子供達の着替えを手伝ったり騒いだりトラブルが起きないように監視したりする時間がある。
その時間は自分がつまらない人間になってしまったことを再確認させてくれる。
どういうことかと言うとぼんやりと子供の会話を聞いていると自分が20代になり自然と話さなくなった子供らしい会話が聞こえてきてクスッと笑ってしまうことがありその時に「あ、自分こんな話で笑ったのいつぶりだろう」と気づきつまらない人間を自覚するのだ。もちろんうんこやちんちんなどは面白いと思わないが(下ネタのレベルとして。)
好奇心が溢れた周りの目や他人を気にしない子供同士の会話はなぜか面白い。不毛なのに

今週子供達がこんな会話をしていた。
子供A「俺のおばあちゃんすごいんだよ!なんでも飯作れる。特にパスタがうまいんだ」
子供B 「それ言ったら俺のおばあちゃんもだよ!りんご大量に育ててて箱ごと送ってくれるの」

お互いが「おばあちゃんの自慢」を言い合い着替えていた。

表現が合っているかわからないけど「可愛げのあるマウント」の張り合いだなと感じた。
僕は体感、人間は大人になるにつれてつまらない人間になっていくと思っている。つまらないにいろいろと定義はあるけれどマウントの張り合いに関して言えば大人のマウントは地位や名声、金が絡んでくるからおもしろげがない。

〇〇大学卒業してます これ〇〇ってブランドの服、アクセサリー! 

そんな張り合い第三者が聞いていて誰が面白いと思うだろうか?ちっとも微笑ましくもない

そして「人」が絡んでこない。基本的に大人のマウントは自分がいかに凄いかどうかで話される。

今回聞いた子供のマウントは違う。
おばあちゃんの自慢、自分以外の「人」が絡んでくる。

ちょっとこのニュアンスが伝わってほしい

「おばあちゃんの自慢」じゃなくて「自慢のおばあちゃん」
自慢のおばあちゃんのご紹介。

この子供達がしていたのはおばあちゃんマウントじゃないのかもしれない。
おばあちゃんの他己紹介の一部だ。

この子供達のやりとりを聞きながら僕は考えた。
子供の頃おばあちゃんの自慢をしたことがあったか?もしくは自分の大切な人、親しい人の自慢をしたことがあったか?
そして今自分を大きく見せることよりも「自慢の誰か」について話すことができるか?
思い出せなかったけど絶対一回はある。
でも今は「自慢の誰か」を紹介することに対しては自信がない。

知らないから。
子供達の会話を聞いた後、僕はぼんやり勤務しながら自分の祖父母の自慢できるところを考えた。両方の祖父母はすでに死んでいてもうこの世にはいない。
考えると生前おばあちゃんとちゃんと会話をしたことがなかった。住まいが遠方だったのもあるが僕はあまり祖父母とちゃんと会話した記憶がない。
どこで育ち、どこで生まれ、どんな人生を歩んできたのか?
自分の親はどんな子供だったのか?聞いておけばよかったと思う。

祖父母の自慢を考えている過程である疑問も浮かび上がってきた

本当はその人のこと何も知らないのではないか?

祖父母の自慢は出てこなかったしどんな人かも知っているつもりでわかっていなかった。これは自分の親、親しい友人も絶対に当てはまる。
みじかな存在であるが故にわかっているつもりになる状態に陥っていることに気づく。

親の大好物、メンター、ハマっていること、趣味、意外と知らない
友人の趣味、大学の学部(もちろん知ってる奴もいる)、好きな音楽、その人の強み、意外と知らない

そういえば知らないことだらけだ。
そりゃ自慢なんて出てこない。その人のこと何もわかっていないから。

もちろん子供達は自分のおばあちゃんのことよくわかっている状態で自慢をしていたわけじゃないと思うけどこれからどんどん知っていくんだと思う。
おばあちゃんのネタが枯渇にするにつれて新しいネタを仕込まないといけなくなる。そのネタ探しはおばあちゃんをよく観察し本人と喋りおばあちゃんを深く知る作業だろう。

ほんとにすごいことでも馬鹿馬鹿しいことでも構わない。とにかくおばあちゃんのネタを披露するのが子供達のマウントだ。

一方で大人のマウントは常に自分のネタ、ダサいことやカッコ悪いことを省いた自分を誇示するためのネタの披露だ。だから基本的に「他者」は登場しないし他者のネタ集めをする必要がない。自分を大きく見せるための行動、努力、消費活動が彼らのネタ探し。そしてそれを披露することがマウント
他者が自分を超えてきたら必ずその他者を超えないといけない息切れしそうな競争。
良い方向に進むことがあるかもしれないが

結果訪れるのは「無知」だ。
祖父母のことを知らない僕みたいに。

自分を誇示する行動をしているつもりはなかったがここ数年とにかく周りの人より抜きん出たい。競争に勝ちたいと心の中では思っていた。(今でもだけど)
この思考が強すぎて祖父母のこともそうだし親や友人、身の回りの出来事について知ることができなかった。

子供達のおばあちゃんの自慢を聞いて考えてようやくこのことに気付かされた。
成長は大事だけど他者と競争するのはやめよう。
そしてもっと身の回りのことを知ろう。子供みたいなマウント他者の自慢をしよう。というか大切な人のことを語れるようにしよう。







まずは今日から自分の親についてのネタ探しだ。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?