急患
救急救命室に腕に覚えありの医師が40人詰めかけていた。
患者は溺水の少年。
救急車の到着前の光景である。ポリクリ生のぼくも召集された。
やがて救急車がつくと、救命隊が押し殺した声で「死後硬直がはじまってます」と言った。
担当医は救急救命医のひとり。
ベッドに載せられた亡骸にかぶさるようにベッドに手をついて黙っていた。
医師たちは「死後硬直始まってるってよ」と言いながら散会した。
このドライさが嫌だった。
亡骸からその魂かなにかの行く先に思いをはせ、祈る人間でいたかった。
担当の救命医とは同期だった。
あいつと共の道を歩んでいると信じたい。
死を悼みたい。
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