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3.橋をめぐり、右脳と左脳で右往左往


 

創造的思考力は成功の鍵

 カーボンニュートラルに向け社会システムが大きく変わろうとする今、従来の延長線上にはない未知の分野への挑戦を、常日頃心がける必要がある。そのためには創造的な思考力が重要で、これが成功の鍵を握っている。
 一方、未知の分野であるがゆえに失敗(トラブル)への対応も、常日頃心がけておく必要があり、そのためには問題の解決能力が鍵となる。

右脳と左脳による思考プロセスの違い

 典型的な二つの思考プロセスの概念を、図1に示す。(a)が発散型思考で、(b)は収束型思考である。
 様々な情報を積み重ねることで、多様な回答を生み出していくのが発散型思考で、脱論理思考ともいわれる。これにはもっぱら空間認知能とも呼ばれ、感覚的で芸術的なことをつかさどる右能が活躍する。新商品や新技術の創造的な開発に適した思考プロセスである。
 一方で、様々な情報に基づき、絞り込みを進めて回答を生み出すのが収束型思考で、論理型思考ともいわれる。これはもっぱら言語能とも呼ばれ、数理的で論理的なことをつかさどる左能が活躍する。既存製品の合理化や事故原因の究明など問題解決に適した思考プロセスである。

図1 右脳と左脳がつかさどる二つの思考プロセス

 このような右脳と左脳が持つ機能の違いについては、数多くの心理学的な実験などで明らかにされており、空間認知は右脳優位、言葉は左脳優位とされている。実際に、記憶形成をつかさどる海馬では神経と神経のつなぎ目(シナプス)の形や大きさが右脳と左脳では明らかに異なる。

右脳と左脳の使い分け

 人は生まれてしばらくは、右脳を中心とした感情的な行動が主体である。それが言葉を発する3歳を過ぎると左脳が発達しはじめ、論理的な思考ができるようになる。
 その後、歳を重ねるとともに、一般には左脳の働きが右脳よりも強くなり、論理的思考力が高まり、脱常識が実践できにくくなる。実際に歳を重ねると頭が堅くなり、夢を描けない傾向が強まるといわれている。

 一方、人によって発散型思考(脱論理思考)を得意とする右脳派と、収束型思考(論理型思考)を得意とする左脳派に分かれるという説もある。
 左利きは右脳派で発散型思考(脱論理思考)を得意とし、右利きは左脳派で収束型思考(論理型思考)を得意とする話もよく聞く。
 しかし、人はせっかく右脳と左脳の両方を授かっているのであるから、時と場合に応じて右脳と左脳を上手に使い分けたいものである。

 実際に、発散型思考と収束型思考は、時と場合に応じて使い分けられるべきである。すなわち、発散型思考により新商品や新技術などを生み出し、生み出された商品や技術の合理化や事故原因の究明などを収束型思考で行うことで、完成度を高めることができる。

「橋を渡る」という課題について

 具体的な例として、図2には橋について「創造的思考」と「問題解決」の流れを示す。「川を渡る」という課題に対して発散型思考により、吊橋、桁橋などの発想を導くプロセスと、「落橋の原因究明」について収束型思考により強度、負荷、環境などの要因から原因を絞り込むプロセスである。

図2 橋をめぐる創造的思考と問題解決の一例

 両者をバランスよく繰り返すサイクルが、商品や技術の革新につながる。収束型思考による問題解決法は、常人でも経験を積み重ねることで習熟することができる。しかし、常人は意識して右脳を使わないと発散型思考による創造的思考法を実行することは難しいようである

 令和3年10月3日15時45分ごろ、和歌山市の紀の川に架かる水管橋(φ900mm、2条)が落橋し、紀の川右岸の6万戸(13.8万人)で断水が発生した。
 調査結果によると、崩落したアーチでは、つり材18本中9本が腐食し、破断していた。橋のある場所は紀の川河口から約7キロと海に近く、日常的に海鳥が飛んできて止まったり潮風を浴びたりしていたことを踏まえ、崩落の要因として鳥の糞や潮風などによる腐食を指摘。また平成5年を最後にさび止めの全塗装をしていなかったなど「複数の要因」を挙げた。橋を現地調査した結果、大量の鳥の糞に覆われていたことも確認した。

国土交通省近畿地方整備局
写真1 和歌山市の紀ノ川に架かる水管橋(直径900mm、2条)の落橋



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