見出し画像

フーテン族のライブへ行く【2024.3.20】


~お読みいただく前に~
これは、とあるミドルエイジが初めてインディーズバンドのライブを観にいく随想です。
解釈違いなどあればご容赦いただきたく。また、ライブレポートではありませんので、何卒。


* * * * * * * * * * * *

私がフーテン族というバンドに出会ったきっかけは、YouTubeだった。
かねてから登録していた音楽チャンネルと、古着系の動画を観るようになったことが誘因になったのか、「あなたこういうのが好きでしょ?」とGoogle社がおすすめとして提示してきたのは、長髪に学帽の男が白目を剥いているサムネイルだった。



いやいや、何よこれ怖いよ。と思いながら、しばらくは再生されないでいた。が、とうとう何かのタイミングで動画が流れてしまった。
それは、いわゆるアングラと呼ばれる世界観だった。ポップであり、残酷。陰鬱とした気味の悪さ。それらと、懐かしいロックの音が相まって、一瞬で引き込まれてしまった。
正直言って私は、過去、このバンドが表そうとしている空気感の作品が好きだった時期がある。けれど、それらの諸々は、俗にいう中二病という安直な言葉でまとめて、自分の中に無かったものとして切り捨ててきてしまった。本もCDも全て手放した。いい大人になった今、改めてこういう世界に触れることに少し気恥しさがある。
これはハマってはいけない方向のやつだぞ、と自分に言い聞かすも、言い聞かせている時には既に遅かったりする。翌日にはSpotifyでフーテン族の楽曲を聴きながら出勤していた。XとInstagramは、ほぼ無意識的にフォロー済となっていた。

調べれば、近々彼らの初ワンマンライブが催されると知る。(2024年1月当時)このライブはチケット完売となっていたが、仮に完売でなかったとしても行くことはなかっただろう。というのも、私はインディーズの、小規模のライブハウスイベントに、今まで一度も行ったことが無かった。まず、チケットをバンドのSNSアカウントにメッセージで予約依頼をするというのが、何故だかしら、二の足三の足を踏ませた。「ぴあ」などのプレイガイド経由でチケットを買うことに慣れ、演者側スタッフとやりとりをしなければならないという、その距離の近さに若干の抵抗を覚える。

まあ、こんなことに躊躇っている時点で、会場に行ける資格は無い。自分はお呼びでない客層なのだろうな。ということで、フーテン族を生で拝むことは半ば諦めていた。
諦めながらも、内心で爪を噛んでいた。Instagramにアップされているライブ動画を見ると、ステージを生で見てみたい欲が沸き、どうしようもなくなる。

このころ、心境をXにポストした。
「行くべきか行かざるべきか迷ってる…あと10歳若ければ躊躇なかったのに…」
文字に起こしてみて初めて気づくのが、自分が年齢を相当気にしていたというところ。おかしな話、実存した「フーテン族」は私の生まれるはるか昔の群像であり、彼らバンドも過去の時代を楽想としているのに。
すると友人I ちゃんからリポストがあった。
「今が一番若いで」
Iちゃんは同郷より上京した高校時代からの友で、学生時代は寺山修司を愛し、現在会社に勤めながらも文学の創作活動を続けている。並行してタイBLにハマり、タイ語を習得中だ。かつ、幼き二児の母である。
独り気ままにのんべんだらりと暮らしている私とは正反対に、公も私も多忙の中、趣味を充実させている彼女を、私は本当に尊敬していた。
彼女が言うならそうやろうな。確かにTime goes on する中で今が一番若い。
それに、バンドというものが、どれだけ盤石だと思っていても、儚く無くなってしまうことを、私たちは経験上知っている。
自分が自由にライブを見に行ける身分も、いつかは無くなるだろう。見れるなら、見れるうちに。
私は彼女に背中を押され、フーテン族2回目となるワンマンが発表されると、チケット予約のメッセージを(Googleで「インディーズバンド␣チケット予約方法」で念入りに検索の上)緊張しながらXにて送信。バンドのアカウントから了解の返信を確認し、ひとまず胸をなでおろす。が、予約名を本名フルネームとしたことをなんだかちょっと後悔した。
(仮名でも問題ないようで。皆どうしているのだろうか。)



そして、ライブ当日、2024年3月20日(春分の日)。
又吉直樹のYouTubeチャンネルで、氏が気合を入れた恰好で彼らのライブへ赴いたという話を思い出し、自分もそれらしき衣装を纏おうと試みた。ああでもないこうでもないと3回くらい着替えたが、結局臆してしまい、割と無難ないで立ちで家を出た。
JR高円寺駅に下車したところで、最寄りが地下鉄東高円寺駅であることに気づくと、強風吹き荒ぶ中、ナビを頼りに20分歩き、目的地U.F.O.clubへ無事到着。ここが毛皮のマリーズを輩出したライブハウスかと、開場を待つ列に並びながら、感慨深い思いに浸っていた。

U.F.O.club

(受付でフルネームを小声で告げ)無事入場し、スタートまでドリンクを片手に所在無げに過ごす。
続々とお客さんが入ってくるのを眺めていると、想像していたより年齢層が広いように思えた。身構えていたアウェイ感は無く、今までの不安は杞憂となった。
紙タバコの残り香が漂うフロア。天井にはミラーボール。観客はドリンクのプラカップを片手に持ちながら待機する人も散見し、ゆったりとした時間を各々過ごして幕が開けるのを待つ。今までに見てきたロックバンドのライブは、(ジャンル的に)開場前から臨戦態勢とばかりの雰囲気のものがほとんどだったので、この感じは心地がよかった。

そしてライブ開演。その感想は、とにかく凄かったに尽きる。
独特な世界はMVや音源を聴くよりもディープで、かつめちゃくちゃにカッコいい。浴びる音は、ひたすら気持ちいい。それでもって、何か見てはいけないものを見た背徳感がある。
自分は特別音楽に精通しているわけでもないので、彼らバンドの評価が、今どれほどのものか分からないけれど、「最高」という言葉が相応しいと思った。ただただ圧倒された。これまでに色々なライブに行ったが、そのどれとも味わったことのない凄い体験をしてしまったと思う。観た前と後では、別の自分になったような感覚さえする。大げさかもしれないけれど、私にとってはそれくらいの衝撃だった。楽しかった。

2024.3.20


最後2曲はサプライズでフロアライブ形式となり、大盛り上がりに。終演後は「ヤバかった」「凄かったね」と皆口々にして余韻に浸っていた。私もそれに漏れず、語彙力が消失し、気づけば汗だくになっていた。



今日の記念となるものが欲しいと思い、物販の列に並ぶと、脇から「ありがとうございました」と穏やかな声がした。ボーカルの山下氏だった。はじめて見た、衝撃のサムネイル画像の青年、そしてつい先ほどまで、とてつもないパフォーマンスをみせてくれた彼がそこに居た。あまりにニュートラルだったので、一瞬気が付かなかった。
反射的に「ありがとうございました」とオウム返しになったが、このとき他のお客さんのように「楽しかったです」「かっこよかったです」みたいな、せめて感想めいたことを伝えるべきだったと、後になって反省する。吹き飛ばされた語彙力がしばらく戻らずにいたようで、本人を目の前に、シャツの袖の柄が可愛いなとか余計なことを考えながら、かろうじて会釈をし、そそくさとライブハウスを後にした。

東高円寺駅で電車を待っていると、片手にポスターを携えた男性がおり、彼が先ほどの物販待機列で私の後ろに並んでいた方だと気づく。
「お疲れ様でした。今日よかったですね」と、どちらからとなく会話が始まった。聞けば彼は、かなり遠く離れた地方(本州の端っこの県)から泊まりがけで観に来て、これからホテルへ帰るという。私がそれに驚くと、「行かなきゃ絶対後悔すると思ったんで」と満足そうに言った。その言葉に、私は心の中で何度も大きく頷いた。

その日東京は稀にみる強風で、帰路、汗に濡れた体は極寒だったが、震えながらも何とか帰宅。じんじんとした音圧の名残を耳と体に感じながら、翌日の仕事に備えて24時にはベッドに収まった。


ライブ終演より10時間も経たないころ、私は職場のデスクに着席して、お堅い事務仕事を始めていた。
昨晩買ったバッジやスマホの画像を見ては、「夢だけど夢じゃなかった」とほくそ笑む。隣席の気に入らない上司が、気に入らないことを喋っていたとしても、内心「昨日私は凄いライブを観てきたんだぜ」という優越感でご機嫌だった。
また近々、彼らを観にいけるチャンスはないかと窺っている。

なんかかわいいバッジ。作った人と握手したい。

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

ここまで拙文をお読みいただきありがとうございました。
ライブからしばらく経ちますが、まだどこか興奮冷めやらず、都度記事を加筆修正しています。
もし、この記事をお読みになる方が、フーテン族というバンドをご存じなければ、ぜひ一度YouTube等でご覧いただきたい。アングラ色が濃いので、万人に受け入れられるものでないことは確かです。ですが、イロモノ扱いして無視するには大変勿体ないバンドです。最高にカッコいいロックンロールだと思っています。

名刺代わりの一曲「僕の犬」
MVが激烈にカッコいいです。必聴の価値ありです。是非。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?