ショートケーキのような君が好きです。でもショートケーキが嫌いです。-feedback sauna謝辞つき
「今日の夜、六時に私と一緒に来てほしい。」
いつもと違って静(しずか)は私に少し声を震わせながらそう伝えた。
「良いよ、それまでどうしてよっか。図書館五時に閉まっちゃうし。」
何事かと思ったが静のペースを考えて私は問い詰めることはせずに答えた。
「そ、そっか。じゃぁ五時半に、五時半にしよう。」
私より少し高い背で、椅子に座る私を見下ろしながら、慌てて静はそう訂正した。
「五時半まではどうしようか。」
そんな慌てる静が面白くなって我慢できなくなって問い詰める。「五時半までは図書館で宿題を終わらそう。」きっと静がそういうことは分かっていた。
「図書館で一緒に宿題を終わらそう。」
予想していたように静は私にそう答える。
「なにそれつまんない。話そうよ。」
私は静だけに見せるとびきり意地の悪い表情をする。
「わかった。じゃぁ半分だ。」
そうして五時半まで私と静は図書館で話をしつつ宿題を終わらせていた。静は話しながらも私よりも数段に早いペースで宿題を終わらせて、後半は私の話に集中していた。
静が連れて来たのは、学校裏の隅っこであった。
「結衣はショートケーキのような奴だ。そして私はショートケーキが大嫌いだ。でも結衣のことは好きだ。」
それが静からの告白だった。大親友ともいえる友人からで、それは私を大変に困らせるのであった。
「じゃぁどうすればいいか教えてよ。」
私は静かに迫った。すると静は一歩距離を引いた。
「なぜ甘いものが大嫌いなのか考える必要がある。」
いつもは私たち向き合って話しているのに今日の静の視線は右に左へと眼球が動き、視線が安定してなかった。
「甘いものが怖いんだ。甘いものは食べすぎると太る。甘いものは胃もたれをする。」
静はそういうと制服のスカートの裾を握った。膝下まである長いスカートである。ワイシャツも第一ボタンまでぴったりと閉じている。
「味は問題ないってこと?」
私の制服は静よりもスカートが少し短くて、制服も第二ボタンまで外している。この方が大分楽だからだ。
授業が終わって、部活も終わって、校庭はおろか校内にも人はあまりいない。
「そうだね。味自体は嫌いじゃないんだ。ただ生クリームとかを食べると途中で気持ち悪くなる。のど飴くらいだったら大丈夫だ。でも普通の飴玉はダメなんだ。」
静は私に理解されたそうに早口で、でも目を合わさずにまくし立てる。
「結衣のことが好きなんだ。大好きなんだ。ショートケーキというのは国民的に愛されるお菓子の一種であり、その形状と味は私たち大衆を満足させる。しかしシンプルでありながらも奥が深く、ショートケーキ一つとっても様々な形がある。結衣には多面性があるが、根本的にはショートケーキなんだ。甘くて優しくてみんなから好かれている。」
「結構褒めてくれるじゃん。」
静は私よりも細くて、ちょっと運動音痴で、しゃべるのが苦手で人と距離を開けてしまうことが多い。それは一番近くで見ている私が知っている。
「結衣のことで褒めることはたくさんある。言い出したらキリがない。私は結衣に風花のような魅力を感じている。不思議なんだ、晴れ渡っているような明るさがあるのに時折感じる冷たさが雪みたいで、それが生クリームみたいで。風花だから明るく晴れているんだ。太陽がそばにあるんだ。でもそれは温かいんじゃなくて甘い魅力を感じている。だから雪の上に乗っているイチゴのようなんだ。」
言いながら静は自分の言葉に気圧されるように一歩校舎の隅に後ろに下がる。静の使う言葉は独特で面白い。
「私はどうすればいいか分からなかった。でも気持ちだけは伝えた方が良いと思った。だって結衣と私は大学が別だし、今日がなんてことない日だけど今日突然伝えようって決めたらもう他の日がないような気がして。」
静が言うように私はみんなから好かれている訳じゃないし、八方美人なだけだ。静の目にショートケーキとして映っている私はただの人間だ。
私は静に比べてずっと普通で、容姿だってみんなが気付いていないだけで静の方がずっと魅力的だ。
私だって静のことが大好きだ。
いや、そもそも静は私が静のこと好きという前提で話を進めているな。
まぁ良いか。
私は目の前にいる静に大きく歩み寄って両手を握り締める。
「結衣、なにしているんだ。」
静は抵抗することなく、たがしかし大きくうろたえた鳴き声のような声を一つ上げた。
「静は私のことショートケーキだなんだって言っているけどさ」
少し背伸びをして静と視線を合わせる。そして顔を近づける。
「食べてみないと分からないんじゃない?」
そうして赤くなる静の顔がまるで小さなイチゴのようであった。
「好きだよ、静」
続く……?
画像参照リンク↓
feedbacksauna謝辞
感想いただきまして改めて読み返すと確かに二人どっちがしゃべっているか分かりにくいところありますね。百合小説ってどうやって書こうかしらと思いながら書いたのですが、アドバイスいただきまして次回に生かしたいと思います。六時に必然性が感じなかったという指摘もあったのですが、確かにそうですね……なんとなく六時にしてました。
サポートをしていただけると私の創作活力がかなり向上致します。これからも頑張ろうと思えます。 頂いた分は創作活動に還元していきます。