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澄んだ池は思考する。1

その池とても澄んでいて、一片の澱みなどない。

町の中でもその池の場所を知るものはほとんどおらず、そのためその池は綺麗だと思われていた。
 
今の時点まで僕はそう思っていた。

目の前で飲まれていく友達を見てただ茫然と立ち尽くすことしかできなかった。

腰元までしか深さのない池の中に友達が悶え足掻いているさまを池の端から眺めることしかできなかった。

友達とはここを秘密の場所としていた。今までもそうしてなんどか池に入ったこともあった。しかしその時はなんてことなかったのである。

 その日は特別で、池に友達と行ったら一本の白い腕が立っていた。僕の静止を聞くことなく友達はざぶざぶとその澄んだ池の中に入っていった。
 
池に波紋が広がり、波打つ。思い返せばその時に池が喜んでいるようだった。歓喜の舞だったかもしれない。
 
友達が池の中腹に着いたとたん池の中に引きずり込まれるようにして沈んだ。友人は膝立ちになり、その後手を引っ張られるようにして顔が沈み込んだ。
 
「本当に居たんです。和也は居たんです。」

 僕の悲嘆の声を大人たちは苦笑いをする。

「そうは言うけどね。見てごらん。君、この池のどこに人が浮いているというんだい?」

 友達は僕の前でそうして沈み込んで消えてしまった。

「腕が、腕があったんです。」

「腕かい?最近そんなホラー番組あったかなぁ。」
 なぁと隣の大人に話しかける。

「あるかもしれないけれど、私はめっきりそういうものは見なくなってな。」

「だよなぁ。」

 僕の声を静止して大人たちは笑う。一笑いした後に真剣な顔に作り替えて問いかける。
「なぁ君、弥生くんがどこに行ったのか知っているかい?」
 
友達の和也は池に喰われた。

それを知るのは和也ただ一人、弥生は周りに真実を証明するほどに大人ではなかったのである。

いや大人であっても結果は変わらなかったであろう。

池はそうしてほほ笑んだ。
 
誰も入らない池に、波紋が広がったのに気づくのは弥生ただ一人。

怯えたようにこちらを見つめる。


こちらの写真は下記リンクのモノを使用しました。



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