拡大期のベンチャーにおける失敗しないカルチャーの見直し方
ここ数年、いたるところで「組織文化(カルチャー)が大事」って言われているし、僕もメンバーが増えるたびにその重要性を痛感しています。でも、カルチャーについて考えようとするたびに、僕は漠然とした違和感を持っていました。
それは、このままカルチャーをカルチャーとして突き詰めて考えていくと、ただの「善いことをしようぜ!」みたいな、凡庸でみんなの心に残らないものになってしまうということ。
どうやったらみんなの心に残るカルチャーにできるのか。あれこれ悩んだ結果、カルチャーを「カルチャーから見直す」のではなく、「ビジョン/ミッション/ビジネスモデルから見直す」ことでストーリーを持たせるのがよいのではないかと考えました。
メンバーが数十人を超えてきたスタートアップにおいて経営や人事をされていて、作ったカルチャーが浸透しきっていない、という悩みを抱えている方々のヒントになればと思い、noteにまとめました!
このnoteで伝えたいことは以下の3つです。
1. カルチャーがゼロから作られることと、カルチャーをアップデートすることは全く違う
2. カルチャーをそれ単体で見直すことは、むしろ危険
3. 施策によって意味を持たせるのではなく、ビジョン/ミッション/ビジネスモデルとの繋がりによってストーリーを持たせよう
きっかけはベン・ホロウィッツの「Who You Are」
僕は組織にすごく興味がある一方で、カルチャーそのものにはあまり関心が強くなく、あったらいいよねくらいに思っていたんですが、、なんとなーく年末頃から、カルチャー/プリンシパルを見直したいなと思うようになっていました。
そんな時に、ベン・ホロウィッツの「Who You Are」を読んで、すごいしっくりくるものがありました。
この本は、企業文化とは何か、そしてそれがどのように作られていくのかを教えてくれます。
トップがいないところで人々がどんな判断をするかこそが、企業文化というものだ。
社員が日々の問題解決に使う一連の前提が、企業文化だ。
誰も見ていないときにどう行動するかが、企業文化なのだ。
この本で最も強調されているのは、この本の原題である「What you do is who you are」に尽きるわけですが、「メンバーみんなの日々の行動の集積こそが、カルチャーを、そしてあなた自身を作り上げている」ということ。これを理解した時、カルチャーがゼロから作られることと、カルチャーをアップデートすることって全然違うんだなと気が付きました。
「これうちっぽいよね」、「あれダサいよね」を明らかにした時、カルチャーが生まれる
スタートアップで人数が少ないときは、なんとなく「うちのカルチャーってこうだよね?」っていうのは言語化されてなくてもわかりますよね?それはなぜかというと、単純に「メンバーみんなの日々の行動」がお互いに見えるから。だから、人数が増えてきて「メンバーみんなの日々の行動」が見えづらくなってくると、途端にうちのカルチャーって何だっけ?となります。
つまり、ある組織においてゼロから作られる(より正確には、明文化される)カルチャーは、その組織の初期段階に属していたメンバーの特性の集合体のようなものに他なりません。たまたま初期メンバーが集まり、その人たちが行動し、それが暗黙知的なカルチャーとなっていく。この暗黙知が初期段階においては「これうちっぽいよね」、「あれダサいよね」ていう言い方で表現されます(僕らも「これってFinatextっぽいよね」、「この人Finatextっぽくない?」ってよく言っていました笑。)。
人数が増えてくると、この「フィナっぽい」って何だっけ?!という疑問がでてくるようになり、それを言語化しようという取り組みが行われます。普段のよい行動、よくない行動を具体的に洗い出し、それらを抽象化することで、晴れて最初のカルチャーが出来上がります。
カルチャーをアップデートするとは、メンバーの行動特性を変えること
逆に、カルチャーを意図的にアップデートするって何なのかというと、これを逆回転させること。つまり、カルチャーを変えることで、メンバーの行動を変え、そしてメンバー自身が変わること(入ってくるメンバーの特性が変わり、既存メンバーの特性も変わる)だと考えています。
つまり、、、「カルチャーを作るとは、初期メンバーの行動特性を言語化することであり、カルチャーをアップデートするとは、メンバーの行動特性を変えることである。」
だからこそ、創業期においては、何をやるかではなく誰とやるかが重要なんだと思うし、ある程度カルチャーを独立したテーマとして捉え、将来の土台となるカルチャーを正しい方向に育てて、浸透させていけるかがとても大切になると思います。
カルチャーは凡庸になりたがる
一方、拡大期において、「今いるメンバーの行動特性を抽象化」して、カルチャーを見直すことを繰り返すのは、めちゃくちゃ危険です。
なぜかというと、メンバーが増えてくると、当然多様性が生まれていきます(それ自体はいいこと!)。でも、その多様化されたメンバーの行動を抽象化するのはすごく難しく、しかもそれを3つとか5つにまとめようとすると、最終的にとてつもなくありきたりなものが出来上がってしまうのです。
その結果、初期にいたメンバーからすると「カルチャーが希薄化した。。大企業になりいいところが失われた。。」というように感じ、大切なメンバーを失うことにもなりかねません。
それでもなぜカルチャーをアップデートするのか?
では、何のためにカルチャーをアップデートするのか? 何のために自分たちの行動を変えたいのか?
それはシンプルに、「会社の目指す姿の達成確度を上げるため」です。
企業や組織は、カルチャーを体現するために存在するのではなく、あくまでもビジョン/ミッションを実現するために存在します。よって、その実現に最適な行動をメンバーみんながとりやすくするために、カルチャーをアップデートするのです。
振り返ってみると、私自身カルチャーを見直したいなと思い始めた昨年の後半は、自社のビジネスモデルの再定義を行っている時期でした。その頃、たまたま「IT ビジネスの原理」や「ネットビジネス進化論」などの本で有名な尾原さんのオンライン講義で、ビジネスモデルの考え方を学ぶ機会がありました。尾原さん曰く、
ビジネスモデルとは・・・ 顧客提供価値 × 持続的競争優位性 である。
これを聞いたときに、Finatextグループは、ここ数年、金融業界における課題からビジョン/ミッションを徐々に明確化・具体化できていた一方で、ビジネスモデル、特に「持続的競争優位性」については全然詰め切れていなかったことに気づかされました。それ以来、ビジネスモデルについて研究しまくり、徐々に目指すべきビジネスモデルが構築されていきました。そして、ビジネスモデルまでがクリアになった結果、どうやら自分の中で、漠然と自分たちの行動も変わらなくてはならないと感じ、カルチャーの見直しをしたいと思ったみたいです(たぶん)。
ビジネスモデルまでが固まると、それを実現するために私たちは何を大切にして、どういう行動をとるべきなのかがわかってきて、結果的にアップデートすべきカルチャーが見えてきます。
ビジョン/ミッション/ビジネスモデルとカルチャーが繋がっているとは
では、具体的にビジョン/ミッション/ビジネスモデルとカルチャーが繋がっているとはどういうことか。最も分かりやすい例がアマゾンです。
アマゾンのカルチャーはいくつかあるのですが、その中の一つに「倹約」というものがあります。普通に考えるとめちゃめちゃ当たり前なのですが、ビジョン/ミッション/ビジネスモデルから紐解いていくと、その意味が鮮明にわかります。
アマゾンのビジョンは、「(インターネットを通じて)すべてのものが買えるお店(ジ・エブリシング・ストア)を作る」であり、それを実現するためのビジネスモデルは、「規模の経済とデータの活用による効率化でマージンを圧縮し、あらゆるものを安価にネットから購入できるという価値を提供する」というものです。
要は、アマゾンの持続的競争優位性を支えているのは、規模の経済による「コスト削減」なんです。だからこそ、アマゾンはあえて「倹約」をカルチャーに入れてまで、コストをさげるための行動をメンバー全員に求めているのです。
そして、このカルチャーを浸透させるために、アマゾンでは入社日にデスクを自分で組み立てるという習慣までありました。こういうショッキングなルールがあると、常にそのカルチャーを思い出させてくれます。そして、何でこれをやっているんだっけ?となった時に、ストーリーとして、ビジョンである「(インターネットを通じて)すべてのものが買えるお店(ジ・エブリシング・ストア)を作る」を実現するためだということがすっと入ってくると、「倹約」も意味のあるものとして積極的にアクション出来るようになるのです。
ストーリーがあるカルチャーが、社内に"多様性と一体感の共存"を生む
この「ストーリーとしてカルチャーに意味を与える」ということがめちゃめちゃ大事で、これがあることによってはじめて、誰もが納得感をもって行動できるようになり、そして自分の行動特性さえも変わるきっかけになり得ると考えています。
カルチャーがカルチャーとして存在していると、メンバーにとってそれが自分の普段の行動と合うか合わないか?という判断になってしまいます。しかし、会社の目指している姿につながっていると、目標達成するために本来は合わなくても「少し合わせてやってみようか」という気持ちになります。こうした小さい積み重ねによって、多様な人材を受入れつつも組織として一体感のある強いカルチャーを作ることができると思っています。カルチャーを大切にしつつも多様性を受け入れるって、一見相反することなんですが、ビジョンとミッション、そしてストーリーのあるカルチャーがあることによってはじめて共存できるようになるんだと考えています。
Finatextのカルチャー/プリンシプル
ここまでカルチャーをカルチャーからではなく、ビジョン/ミッション/ビジネスモデルからアップデートすることについて、考えたことをまとめてみました。そして、この考えに基づいて実際にアップデートしたFinatextグループの新しいカルチャー/プリンシプルがこちらです!
次回、このカルチャーの背景にあるビジョン、ミッション、ビジネスモデル、そしてそれらとカルチャーの繋がりについてご紹介します!
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