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短歌

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2019年1月の記事一覧

メンデルのエンドウ

破れかけた心臓を展示するカフェの通路に並ぶ血抜きのマネキン
臨月をうみずきなどと言い換えて膿むつき倦むつき月は朧(おぼろ)に
結ぶことのないネクタイをゴミに出す感染してないレグホンみたいに
外洋に降りだす雪は眼を無くす導入麻酔のあまやかさに似て
世界へと伸びきる護謨に触れてみる両性具有の印度の神の
北側のあなたに触れて南下する空のかるさの鳥は色紙
突然変異の素足のおもみを引き受けてメンデルのエンド

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朕思うに

パステルの一本分の窪みには約束がある冬の色して
斑(ふ)に干したシャツから影はすり抜ける行先のない風をよろこび
カテーテルを先へ先へと押し入れるいのちと身体の境目辺りへ
うおが魚と呼ばれたときの不可思議さ水に母音を濯いで掬う
冷たくなった父の身体を撫でている清らかな指や淫らな指が
父の肺ごうごうとよく燃え盛りようやくそとへでられる/のだろう
かれじしんかれじしんしんじつ)風の音は「朕思うに」とう息

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