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「ゴヤの名画と優しい泥棒」を観て

 1961年に実際に起こったゴヤの名画「ウエリントン公爵」盗難事件を題材にした映画です。2021年9月に亡くなったロジャー・ミッシエル監督の遺作となった作品で、英国風のユーモアと風刺に富んだ作品であり、60年も前の事件なのに、今に通じる動機があって、観たあと、いろいろと考えさせられました。同時に、主人公一家を通じて、人が人を思う温かさや尊さを感じた作品です。

1.登場人物

☆ケンプトン・バントン(主人公)   ジム・ブロードバンド
60歳のタクシードライバーであり、高齢者のBBC放送の受信料無料を唱えている。
☆ドロシー・バントン(妻)      ヘレン・ミレン
過去に娘を事故で亡くしており、夫、息子とともに清貧に生きている。
☆ジャッキー・バントン(息子)    フイオン・ホワイトヘッド
家族に優しい息子。父の主張を支持している。

2.あらすじ(少しネタバレします)

ゴヤ作「ウイリントン公爵」ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵

 60歳のタクシー運転手のケンプトンは、妻と息子と慎ましやかに生きています。が、高齢者の孤独を癒すのはテレビであり、貧しい人からBBCの受信料を徴収するのはおかしいと街頭に立って、政府に訴えてたりします。そんなある日、政府が14万ポンドも税金を払って、ゴヤの名画の「ウイリントン公爵」を購入したニュースを知り、そんなことに税金を使うのかと憤ります。 一方で、些細なことからタクシー会社をクビになり、次の務め先のパン工場も人種差別に反対したことから解雇されます。家族思いのケンプトンはやさしい嘘をついて、名画を盗難し、「名画を返還するかわりに高齢者のBBC受信料をタダにせよ」という脅迫状を新聞社に送ります。やがて、彼の犯行がばれて、法廷で罰せられることになるのですが、持ち前のウイットに富んだ受け答えで陪審員の心をつかんでいきます。

3.中之島美術館

ちょうど、この春、大阪市の中之島美術館がオープンしました。バブルのころに立案され建立された中之島美術館は、大阪ゆかりの画家たちの絵を招集した常設の美術館として注目されましたが、330億円の税金が投入されたこともあって、維新の市政では反対もあり、紆余曲折のオープンとなりました。税金の使い方には、いろんな考え方があるなあ、と思います。エンドロールで明かされるのですが、イギリスでは、2000年からBBC放送は75歳以上の年金者には無料になったそうです。ケンプトンの訴えから、盗難事件騒動から40年目のことだそうです。

4.あなたはわたし

素敵なセリフの多い映画でした。そのなかでも、終盤の法廷シーンは圧巻で、「あなたはわたし」と相手を尊重するシーンは心打ちます。ケン・ローチ監督作品にでてくるようなイギリス風労働者のケンプトンは、同時にウイットに富み、ジョークを連発して、素敵な老人でした。妻のドロシーとは娘の死でわだかまりがあったのですが、徐々にうちとけて、何よりおしやれで、妻思いでもあります。戯曲家志望だったこともあり、普段からセリフが面白く、ほっこり、にんまりです。この作品、原案はケンプトンの次男の息子だそうですが、彼が伝えたかった祖父の勇敢さ、優しさが伝わる、ハートフルな作品でした。

#映画感想文 #ゴヤの名画と優しい泥棒 #ロジャー・ミッシエル監督
#ゴヤ #ネタバレ


 
 


 



  



 

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