【短歌九首】未来 2021年6月号 掲載歌「泉」
どこへ行くでもなく濡れてしまうこと怖いことですか、傘を放棄して
砂は汚泥となる練り上げて似つかわしい人間を見よこれがあなただ
曖昧な犠牲を取り柄にして今日も夕焼けで勝手に火傷する
炎症はライフワークのようでまたあなたのことばで冷やされてゆく
暗闇の色ではなくて色彩の混濁だこれは。舌足らず、滴らす。
ぎこちない笑窪からひび割れてゆき粉々になる頃に会いたい
安住の地でもないのにくるまれて風が来ないと泣いていました
それはきみにそもそも羽がないからだ。跳んでいなさい、重力のまま
心臓に丸く収まる石ひとつこんこんと湧く泉のなかに
/とわさき芽ぐみ
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