事業創出の原理原則16 事業の実現可能性分析 – 事業の仕組み化①

前章の「戦略フレームワーク」で、事業の再生や立て直しのために、どのようなメソッドがあるかを書きました。その事業を、具体的にどのような仕組みで実行していくか?本当に事業を実施することが企業にとってメリットがあるのか?収益が見込めるか?などを検証する必要があります。このプロセスは通常「実現可能性分析(フィージビリティスタディ)」と言われています。今回のメソッドは、2019年に明治大学の「実践マーケティングゼミ」で、ソーシャルマーケティング研究所の山崎伸治社長に教えていただいた内容をアレンジしています。山崎社長は、数多くの新規事業のコンサルも手掛けています。株式会社刀の森岡社長と同様の「マーケティングの力で社会を変える」という理念で仕事をしています。講義終了後、このメソッドを使う許可を(記憶にあるかは定かではないですが)頂きました。
 
・新規事業の着眼点 : 商品やサービスの機能だけではなく使用して得られる具体的なベネフィトが明確である。ベネフィトと言うと、どうしても商品やサービスを使用することでもたらされる、「便利さ」や「簡単さ」などの利便性を考えがちです。しかし顧客にどのような「顧客提供価値」を提供しているかを考えることにより、事業への着眼点も変わってきます。テレビ番組で復活したクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンの若月貴子社長が取り上げられていました。当社の提供価値は「Joyです。」と名言していました。ドーナッツを買ったり食べたりしたときに感じる「喜びや楽しさ」を表現しているのだと思います。だとすれば、どうやって顧客に「喜んでもらえるか?楽しんでもらえるか?( Joy)」を考えると思います。もし「提供価値」が「ドーナッツ」と考えていれば、「どれだけ多く販売するか?どれだけ利益を出すか?どれだけ店舗を増やすか?」の発想になると思います。②あれば便利なサービス・商品ではなく、無くてはならないサービス・商品を目指す。コロナで「不要不急の外出」ができないときに、もしアマゾンが無かったら、もしコンビニやスパーが無かったら?もし物流が無かったら?どんなに不便だったかと考えてしまいます。③お客様の事業課題を解決するだけでなく、お客様が解決できる社会課題にも役立つこと。これから大きく発展する企業は、何らかの形で「社会の課題解決」につながるビジネスです。賞味期限が近づいた食品をメーカーから安く仕入れて、それをECサイトで一般顧客に販売している会社があります。食品メーカーも、販売会社も、顧客もみんな喜ぶ、「三方良し」のビジネスモデルです。社会問題になっている、「食品のロス、廃棄」が改善されます。そのうえ、売上から「社会貢献」される寄付の金額も明示されています。他にも、販売の仕組みを持たない「生産者(農家や漁師さん)」の商品をECサイトで直接消費者に販売している会社も注目されています。これも「生産者、販売会社、顧客」の「三方良し」です。売り先と販売ノウハウのない生産者の社会的課題の解決にもつながっています。
 
・新規事業の4つのポイント : 4つのポイントは、①社会性。②独自性。③継続性。④グローバル性ですこの4つを押さえておかなければ、新規事業としてはうまくいかない可能性が高いということです。①社会性。「世のため、人のため」になる事業。不便、不満、不安の解消の事業。最近は、株主資本主義の啓蒙の影響のせいか、世のため、人のため」の言葉を、聞くことが減ったような気がしますが、事業の基本は、「世のため、人のため」です。考えているビジネスが、世の中のどのような「不便、不満、不安」の解消につながるか考える必要があります。ビジネスを考える時のベースになりますが、新規事業を見てみると、創業者個人の世の中に対する憤りから始まっていることが多いように思います。「不便、不満、不安」が、個人の「憤り」ですから、リアルですし、どうしたいかも明確に思いつきます。であるなら、まずは自身の「憤り」を深く掘り下げて考えることが、新規事業を考えるうえで早道ではないでしょうか。②独自性。自社の強み・特徴を生かす事業。自社しかできない、自社ならではの事業。そうは言っても、今までに世の中にない全く新しい事業を立ち上げるのは、かなり難易度が高いです。でも、例えば、スターバックスは、従来の喫茶店ビジネスに、「セカンドオフィス」というコンセプトで、新しい「顧客提供価値」を生み出しています。ユニクロは、衣料ビジネスに、「流行に左右されない、高品質、低価格のベーシックなカジュアルウエア」の新しい「顧客提供価値」を生み出して成功しています。一番の独自性は、創業者の「アイデアと情熱と志」です。③継続性。新規事業として単体で収益がある。既存事業に対しても収益をもたらす。一過性の流行で終わるビジネスもあります。特に飲食業界にはその傾向が強い様にみえます。飲食業は「参入障壁」が低いビジネスの1つです。流行に乗って、多くの競争相手が参入することは必然的に予想されています。流行に乗って多店舗展開している多くのビジネスは、流行の終焉とともに破綻しています。小売業では、中小企業の店舗が、大手企業の大店舗の進出により、一瞬にして顧客を失うこともあります。両国に大手のドラックストアが進出してきた瞬間に、小さなドラックストアは撤退しました。どうすれば継続的な事業が可能か、競争環境がどのように変化しそうかは常に考えておく必要があります。④グローバル性。世界で通用する事業。始めから世界を市場として、製品・サービスを考える。日本の企業が、世界をマーケットとして考えなければならない理由は、大きく2点あります。1点目は、日本社会の「少子高齢化、人口減少」です。人口減少のデーターでは、2021年(令和3年)10月1日現在の総人口は1億2550万2千人で、2020年10月か ら2021年9月までの1年間に64万4千人(-0.51%)が減少しています2050年には9,515万人となり、約3,300万人(約25.5%)減少します。2021年の日本では、おおよそ年間140万人が亡くなり、80万人が生まれています。1年間に約64万人が減少しています。日本の市町村では、26番目に人口がいる千葉県船橋市が約64万人です。ですから人口で考えると、日本から船橋市1つ分の市場が1年で無くなるのと同じことです。それだけの規模とスピードで、日本の市場が縮小しています。前に小売業の経営者と話したときに「従来と同じ場所で同じ商品を同じように販売していると、毎年マイナ10%、売り上げが落ちていく。」と言っていました。日本企業は、日本市場だけで従来と同じ方法で事業をやることは難しいということです。2022年12月のテレビ番組で、マツコ・デラックスさんが「今世界の人口は、80億人になりました。」と言っていました。日本の市場は縮小しているが、世界の人口と市場は拡大しています。現在の事業規模を今後とも維持しようと考えるなら、世界の市場に活路を見出すのは当然の理です。
グローバル競争時代になり、世界中の企業が競争相手になっています。海外から「安い商品」が入ってくることは当たり前になっています。海外の大企業が日本に進出してくることも珍しい事ではなくなりました。中小企業でも大企業でも、好むと好まざるとに関わらず、事業を維持していくためには、海外に進出して、海外企業と競争できる力を持つことが必要になってきました。経営を常に世界基準で考える必要があります。過去には、日本のラップトップパソコンや液晶や携帯電話などは、国内と世界のシャアの多くを占めていましたが、今は見る影もありません。
海外企業は、日本を「テストマーケット」の場所として進出することもあるようです。日本の消費者を満足させる、「性能や価格やデザインや品質」があれば、世界に受け入れられる可能性が高いと考えています。であるなら、日本の製品やサービスであれば、相手の国に合わせたカスタマイズは必要でしょうが、世界の市場に進出して、受け入れられる可能は高いはずです。海外進出、海外展開のためにも経営に「マーケティング」の知識は必要です。円安の今は、世界へ販売展開するチャンスです。

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