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「ビジネスと技術」の違和感

今年4月に社会人2年目に突入致しました、猪股です。

今年は兎に角アウトプットの機会を増やすのと、自分の意見や考えを形式化してどこかに留めておくという意味も込めて、noteを書いていこうと意気込んではいますが、下書きが溜まる一方です。


去年度まではnoteの投稿の閾値がすごい高くて、自分がメチャクチャ納得した文章じゃないと出せなかったんですが、

「人の目に触れて失敗も経験しないと文章上手くならんな」

と思ったので、今年度は投稿の閾値をぐっと下げて、前回みたいなしょぼしょぼの文章を投稿していたりします。


今溜まっている下書きも何とか手を加えて、発信していきたいなぁと思う所存です。


そんなこんなで、今回書こうと思うのは、会社に入ってエンジニアなりたての時に感じた違和感と、それの答え合わせみたいな話です。


技術とビジネスの距離

私、大学時代は理工学部で主に機械工学について勉強をしていました。

高校時代は開発経験は全くない、ただのバスケ少年でしたが、昔から図工の授業とかでものを作るのが好きだったのと、「アニメとかドラマとかで出てくる、欲しいものなんでも作ってくれるエンジニアってかっこよくね??」と思って、機械の道に進みました。


大学3年の後期からは研究室に所属し、4年生になったタイミングで立ち上げの研究室に転籍して研究を続けました。


私の研究は「壁面走行ロボット」という壁を走るロボットで、ハード制作も制御も1人でやっていました。

大学4年で初めてはんだ付けできるようになったぐらい、機械とは縁のなかった私にとって、ロボット開発は分からないことだらけでしたが、何とか卒業研究として体裁を整え、卒業要件を満たすことができました。


世の中の研究と見比べると、かなり不格好ですが、自分なりに1年間でできるところまではやったのかなと思っているので、満足しています。


その一方、ビジネスというものには全く触れてきませんでした。

企業と話をするときも、教授が窓口になっているので、直接企業の方と顔を合わせることはないし、

就活の時も、同じ就活生で「学生時代に起業した」「長期インターンをしていた」とかでビジネスに触れてきた学生さんの話は全く理解できませんでした。


なんなら、教授は企業と出資の話で折り合いをつけることに忙しくて、ずっと自室に籠っていましたし、他の研究室で企業タイアップで研究をしていた友人も、企業側の厳しい追及にいつも疲れていて、「もうタイアップで研究はしたくない」とまで言ってました。


いつの間にか

「ビジネスと技術は対極の存在にある」
「敵か味方かの二元論で言えば、ビジネスは技術の敵である」

という考えが染みついていたように思います。


そんな私も、無事大学を卒業し、社会人になれました。

大学で学んできたこととはあまり関係の無い、ソフトウェアの会社です。

どこの会社かとか、実際に何をしているかとかは割愛しますので、以下の自己紹介の記事を読んでください。


7月に今の部署に配属されてからは、仕事や会社の仕組みを覚えるのに精いっぱいでしたが、徐々に仕事に慣れてくると、「技術とビジネスが近い」ということに違和感を感じました。


営業さんは自席からちょっと歩けば話せるぐらいの距離にいますし、社内でも他社の方の顔をよく見ます。


何よりエンジニアという技術に携わる人間が、

「技術的には間違いなく優れているA案ではなく、ビジネス的なことを考えるとB案を選択する」

という光景を目にした時には、理解に時間がかかりました。


勿論会社として売り上げを上げなければならないことは当然分かっています。

しかし、技術とビジネスは別物であり、それらを別々に考えるために、部署があり、職種があるものだと思っていました。


この経験は私に

「エンジニアとしてすべきことは何なのか」
「研究とは何が違うのか」

を考えさせる良い機会になりました。


エンジニアと研究者

社会人2年目になった今、ある程度自分なりに考えがまとまったので記しておきます。


まず、私の大学の時と社会人の時の立場は、「ものを作る」という同じ目標を持ちながら、性質が異なります。

大学時代の私は「大学の研究室に所属する研究者」であり、

社会人の私は「企業に所属するエンジニア」です。


両者の違いを大きく3つにまとめてみました。


1つ目の違いは評価基準です。

研究者はあるパラメータの高さを評価されます。

ビジネスに関わるエンジニアは顧客・社会貢献を評価されます。


たとえば、車の開発を行うとします。

研究者的な視点で言うと、車の速度を研究する研究者であれば、車の「速さ」というパラメータをひたすらに引き上げようとします。

時速が100km/h出せた人よりも、120km/h出せた人のほうが評価されます。


基本的には対象のパラメータ以外は気にしません。

人が乗る運転部が邪魔だから取っ払うという判断をしても、「乗り心地」というパラメータを気にしない研究者にとっては何ら問題はありません。


「車なんだから人は乗れなくちゃダメだろ」というのであれば、人間はうつ伏せで、顔を進行方向に向けてガチガチに固定された上で、運転は手元のレバーで行うという判断になってもおかしくありません。


一方、エンジニアは車の開発にあたり、顧客は何を求めているのかを把握し、それをパラメータに落とし込むところから始まります。

・顧客は誰なのか
・どこを走るのか
・どのぐらいの速さが出ればいいのか
・何人乗るのか

などなどです。


そこから各パラメータを数値化し、開発に取り組みます。

もしかすると、速さは80km/hで十分かもしれません。

その場合は、時速120km/h出るけど乗り心地が悪い車よりも、時速80km/hで乗り心地が良い車のほうが評価が高いかもしれません。


上記のように1点に尖る研究者と、総合点を見られるエンジニアでは評価基準が異なります。



2つ目は条件の変化です。

研究者の研究対象における条件は、研究者が意図的に変える事ができます。


先程の車の例で言うと、「車の最高時速の研究」という研究において、車の素材、モーター、シャーシなど、車の条件は勿論のこと、

地面はオフロードにするか、アスファルトにするか、風速はどうするか、気候はどうするかなど、周辺環境の条件も研究者が決めることが出来ます。


「晴天時、気温20度、風速0km/hのアスファルト走行における車の最高速度の研究」のように、メチャクチャ尖った題で研究することも出来ますし、様々な条件を試して、その中での最適解を見つけることも出来ます。


一方、エンジニアは条件は顧客が決めます。

「モーターはコスト的にこれがいい」

「ボディはここのメーカーと長い付き合いだからここにしたい」

などなど、ある程度縛りのある中での開発になりますし、開発途中に条件が変わったり、追加されることもあります。

時には、「ジェットエンジンつけて車を飛ばしてみてほしい」なんていうトンデモ要望が来ることも覚悟しなければいけません。


3つ目は人材、お金、時間など、作業に当てられるリソースの違いです。

基本的に研究はリソースが豊潤にある前提で進められます。

パラメータを高めるためであれば、出資は惜しまれません。


仮に、リソースが足りずに研究が滞る、もしくは失敗するようなことがあれば、それは研究者の責任ではなく、その周囲の環境に責任が置かれることが多いかと思います。

勿論、各研究機関のリソースの限界値はあるでしょうから、「これ以上は使わないでほしい」というしきい値はあるものの、しきい値を超えた出資により、良質な研究結果が想定されているのであれば、なんとかしてリソースをかき集めてくれます。


その一方、ビジネスに従事するエンジニアは、何よりも超えてはいけないものとしてリソースが置かれます。

工数や予算といった形で枠組みが決まり、その中でどれほどのパフォーマンスを発揮できるかという勝負になってきます。


仮に想定されたリソース量をオーバーするようなことがあれば、どんなに良い結果が出ていたとしても、評価は厳しいものとなるでしょう。



上記3点の違いをまとめると以下のようになります。

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違いを認知しないことによる弊害

上記以外にこんな違いもあるよ!という人もいると思いますし、それは違う!という人もいるかと思いますが、同じものづくりに関わる身でも研究者とビジネスに関わるエンジニアという点で大きく異なるという点はご理解いただけたでしょうか。


実際に、この違いを知らないままに、様々なすれ違いが起こっているのではないかと思っています。


就職活動においては、私のように理系で研究室に属していた人間がものづくりの職につくということは往々にしてありますが、その際も自分の研究の成果を押し出すあまり、顧客貢献が唱えられない学生さんをよく見かけます。

実際に私も就活の時にこれで何回かやらかしたことがあります。

研究における評価と、企業における評価を見誤ると、研究熱心な学生でも企業につけないし、企業側も勤勉な学生を採用できないという双方向のデメリットが生まれます。


ビジネスの現場においても研究室と企業がタイアップで事業を勧めることはよくありますが、そのときも双方がお互いの置かれている場と価値観を理解した上でコミュニケーションを取らないと、すれ違いが起きます。


また、企業・研究室間のタイアップにおいて厄介なのが企業側が最終決定権を握っているということです。

企業と研究室で意見の違いが起きると、出資などの関係で、だいたい企業が勝ちます。

その決定に対し、研究者は外部からの急な路線変更に慣れていないので、大幅にパフォーマンスが落ちます。

企業側も当初は研究機関の専門性の高い情報が欲しくてタイアップしたのにも関わらず、企業側が100%のパフォーマンスが発揮できない研究機関を作り出してしまうのはとても悲しいことです。


双方が理解し合える世界へ

日本は高度経済成長のように、ものづくりが根底を支えた時期がありました。

今でも勿論ものづくりは日本を支えていますが、世の中の変化により、作るだけではなく、それをどの様に見せるか、どの様な意味を見出すかといった、セールス、マーケティング、ブランディングも、ものづくりと同じぐらい価値を持っています。


そんな時代だからこそ、それぞれがそれぞれの置かれている立場で成長するのは勿論のこと、双方の理解も深めた上で一緒に良いものを作れたらなと思ってこの記事を書きました。


私はエンジニアなので、エンジニアとしての視点で書かせていただきましたが、セールス、マーケなどなど、他の分野の方の特徴などがまとまっている記事などありましたら、ぜひ読ませて頂きたいなと思います。


ここまで読んでいただいて有難う御座いましたm(_ _)m

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