マイナーリーガーの給与問題、その歴史とこれから
メジャーリーグ(MLB)の傘下にあるマイナーリーグは過酷な環境として知られる。その俗称の「ハンバーガーリーグ」とは文字通り選手が食事をファストフードで済ませなければいけないほど給料が安いことに由来する。
近年になり、そのマイナーリーガーの給与の改善を目的とした訴訟が増加している。
マイナーリーガーと給与の問題の発端は遡れば、今から100年前の出来事に由来する。1922年、連邦最高裁判所はシャーマン反トラスト法(独占禁止法)は野球には適用されないという判決を下した。反トラスト法が適用されないのは野球のみ。野球が国民的娯楽であるから、といういわゆる”ベースボール・イクセプション”である。
その後、1998年に反トラスト法はメジャーリーガーにも適用されるようになったが、マイナーリーガーは忘れ去られたままだった。かつてオーナーたちが恐れていたプレイヤーの労働者としての権利の回復は、30年前と比べて5倍の給与をプレイヤーにもたらした。ただ、それ以上にMLBの増収はとどまることを知らず、2019年にはMLBの収入は107億ドルに達している。
そしてビリオネアとなってなお、MLBはマイナーリーガーに薄給を強いるための労を惜しまない。MLBは政界へのロビー活動を強化し、2018年にはマイナーリーガーから最低賃金の保護を剥奪する条項を法案に盛り込ませることに成功したばかりだ。
私はマイナーリーガーの労働待遇改善はスポーツ界に大きな影響を与え得ると考える。スポーツの商業化に最も成功した国・アメリカにおいて唯一取り残されたマイナーリーガーを救う手段を講じることができれば、スポーツのプロフェッショナル化が当然のこととなった現在において、これからのアスリートが直面する問題を解決する際の糸口になるだろう。例えば、マイナースポーツのアスリートが加入できる労働組合をスポーツの垣根を越えて結成できないだろうか、などと。
また、私は現在の状況は野球の未来に多大な影響を与えかねないと憂慮している。野球人気はアメリカでも下火となっており、メジャーリーグは野球人気回復のための積極的なルール改正を連発しているが、評判は芳しくない。この状況は野球選手を志す若者にとって理想的な状況とは程遠く、それが競技人口に形となって現れる日がいつか訪れるかもしれない。
2020年のパンデミックの最中、マイナーリーガーを解雇せず給与を全面保証することを決断したカンザスシティ・ロイヤルズのデイトン・ムーアGMはこう語った「マイナーリーグの選手は、10年~15年プレーするベテラン選手と同じくらいゲームの成長に影響を与えている。なぜならば、彼らはコミュニティに戻ってゲームを教えたり、アカデミーで働いたり、JUCOのコーチや大学のコーチ、スカウト、メジャーリーグのコーチをしているからだ。」
ちなみにマイナーリーガーの集団訴訟を起こした弁護士ギャレット・ブローシャスもかつてマイナーリーグでプレーしていた野球選手だった。
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