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【OAK】ジェームズ・キャプレリアンの新スタイルに期待大?


アクティブロスターに10人以上の先発投手を抱えるアスレチックスの今年のスプリングトレーニングでは、先発ローテ争いの激化が予想されます。

昨年オールスター選出のポール・ブラックバーン、アジアから新加入のドリュー・ルチンスキと藤浪晋太郎の3人の先発ローテ入りが確実視される中、若手に混じってローテーションの椅子を争う、妙齢の古強者がいます。

SF Chronicleより

その人、ジェームズ・キャプレリアンは3月で29歳。サービスタイムは既に2年を数え、その2年間で50登板をこなしたタフな右腕です。

名門UCLAからメジャーNo.1の名門のヤンキースにドラ1で入団し、そしてこれまた名門のアスレチックスにトレードされて今に至るまで、キャプレリアンは栄光と挫折、そして人体のあらゆる箇所の怪我を味わってきました。

その彼がサービスタイム1年未満のケツの青い若手投手数名を相手にローテ争いを演じるというのも不思議な話に映るでしょう。

そうというのも、キャプレリアンは昨年は低調なパフォーマンスに苦しみました。

ERA4.23という凡庸な数字以上に、9イニングあたりの三振6.58個と三振が取れない割に、9イニングあたりの四球は3.96個と四球が多く、見ているこちらをイライラさせる不快投球を展開。

8月に23K/17BB、ERA5.59という数字を残してからは、流石のわたしも「キャプの先発登板をアーカイブするのは時間の無駄だな…」と思い、キャプに期待することを諦めました。

しかし、キャプレリアンの逆襲はなんとそこから始まっていました。

*発掘協力 運河さん

首脳陣にも見切られ、ブルペン転向を命じられていたキャプレリアンでしたが、故障車の発生でローテに復帰。

ローテ復帰後は4登板全てをクオリティスタートで回し、ERA1.80、三振率・四球率共にシーズンの月間ベストを記録してみせたのです。


レパートリーの大幅変更

このグラフはキャプレリアンの月別の投球割合推移です。

横軸がバグってます

9・10月にキャプレリアンが見せた大きな変化は、4シームを減らした代わりに、シンカー・スライダー・チェンジアップを増やしたということです。

8月まで常に50%以上の割合で投じていた4シームを半分以下の24.9%に

その代わりにメインの決め球だったスライダーを全球種トップの30.8%の割合で投じました。

なんといっても目につくのは、それまで10球以上投げた月がなかったシンカーが激増したことで、9・10月は投球の24.6%をシンカーが占めました。


ゾーンを突くシンカー

キャプレリアンの特徴といえば、ゾーンのギリギリを攻める投球スタイル。特別球が速いわけでもなく、プラスピッチに恵まれないキャプレリアンにとって、ギリギリのコマンドは生命線といっても過言ではありません。

ただ、悪い時はギリギリを狙いすぎるあまり、四球が嵩んでしまうのも悩みの種でした。


その点、キャプレリアンが9月から導入したシンカーは、彼にとって待望のプラスピッチとなる可能性があります。

キャプレリアンの9・10月のシンカーは被打率わずか.125、被wOBA.167と極めて有効でした。

そして、この球種の大きな特徴は、ゾーンをとてもアグレッシブに攻めるということ。

In Zone%は脅威の63.5%。
キャプの他の球種と比べると、10ポイント以上も高い割合でゾーンに投げ込んでいます。

そして、In Zone%以外の特筆すべきデータは球速です。キャプレリアンの9・10月のシンカーは、シーズン最終盤であったにも関わらず、昨年の月別で最速の平均94.6mphで投じられていました。


キャプレリアンはこれまでのコマンド重視の狙いから切り替え、アバウトでもいいから速い球をゾーンに投げ込むという意識になったのかもしれませんね。


ただ、このシンカーは期待値系指標が芳しくありません。

xBA.275・xwOBA.338は、実際の数字と大きく乖離しています。
こう見るとシンカーの有効性は一過性かもしれないため、まだまだ質を磨く必要がありそうです。


スイーパー化したスライダー

9・10月に全球種の中で最も割合が高かったスライダーもシーズン中に大きな改造を経ています。

元来キャプレリアンが投げるスライダーはカッター気味の80mph台後半の球種でした。
昨年のスピン効率26%が示すように、ジャイロ型で縦にコンパクトに落ちるスライダーというイメージです。

しかし、今年は途中からスライダーの球速を大きく落としました。

スライダーの横変化。激増。
スライダーの縦変化。激減。

球速を落とした代わりに横変化が増え、縦変化が減り、いわゆるスイーパーのようなスライダーへのモデルチェンジが行われました。


変化量マップで見てもこの通り。

黒字はスイーパーと分類されるライン

少なくとも25cm以上横に曲がり、縦の変化が-10cm以上(10cm以上沈まない)のボールがスイーパーの定義とのこと。

これを照らし合わせて、マップ内にスイーパーラインを引いてみると、見事に旧型のスライダーはその範囲内から弾かれました。


そして、7,8月と9,10月を比較してみると、球速が上がって84.2mphになったほか、縦変化が微減、横変化が増加していることが分かりました。

ドジャースの投手がよく投げているような、高速でフリスビーのように曲がり、それでいて縦には落ちない典型的なスリーパーにさらに近づいたと言っていいでしょう。


シンカーとスイーパーの相乗効果

シンカーとスイーパーは回転軸が対になりやすく、球種の判別が難しいため、相性が良いコンビと言われています。

キャプレリアンが徐々にスライダーの性質をスイーパーに近づけ、そしてシンカーの投球を大幅に増やした9月以降に一皮むけた背景には、このセオリーがあるのかもしれません。


もし、キャプレリアンがシンカー&スイーパーの相乗効果を狙っているのだとすれば、今後の伸びしろは回転軸の修正ではないでしょうか。


ここからSpin Directionを算出する方法が分からなかったので、savantからDLできるデータに載っているSpin Axisでお茶を濁します。

Spin Axisを見ると、キャプレリアンのスライダーが質的に全く違う球種になったことがよく分かります。

スライダーの回転軸は時を経るごとに傾いていき、9・10月にはおよそ71.66という数値になっています。

このように回転軸が傾き、横への変化量が増えていることから、キャプレリアンがいわゆるシーム・シフテッド・ウェイクの効果を狙って、グリップを修正したのかもしれないと思いました。

一方で、シンカーのSpin Axisはおよそ218.99と、スライダーと対称の回転軸には至っていません。

簡単に考える改善策としては、キャプレリアンのシンカーの回転軸をさらに横に傾けるように修正することでしょうか。

そうすることによって、スイーパーとの判別を難しくし、そしてシンカー自体の横変化を増やしてシンカー単体でのバリューも上がることが期待できるかもしれません。


参考文献

今回は参考文献(特にNamikiさんのnote)に頼り切りでした。

アスレチックスに科学の恩恵をゴリゴリに享受しているトレンディな投手が長らくいなかったこともあり、SSWの概念は目からウロコでした。
ただ、難解だったので、まだほとんど理解できていませんが。。

昨今のトレンドの変遷は速く、スピンレートの概念が登場して以来、今度はスピン効率が世に出て、そして今となってはSSWという理論に支えられた新球種スイーパーが登場しました。
ただ、個人的には、スピンレート・スピン効率時代には為す術がなく打たれていた低スピン効率の投手に、SSWという概念が有利に働き、武器となっているという流れは綺麗だなと思いました。ロマンを感じます。


最後にキャプレリアンに話を戻します。

キャプレリアンは10月に肩を手術しましたが、STに現れた今では万全とのこと。
科学の恩恵をビシビシに受けている(のか!?)キャプレリアンから、昨年のブラックバーンのようなブレイクの匂いが漂い始めています。


*データはbaseball savant、ヘッダー画像はSF クロニクルより。

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